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かぐや姫

リクエストをいただいていたかぐや姫です。

あぁ、しまったなぁ、と思った。

落下しながら。

私はただ、落とした(シャトル)を拾いたかっただけなのに。

牽牛ルシアンーーっ!」







*****




どうしてこうなった。

もう一度言います。

どうしてこうなった。


落下した私は、地面に叩きつけられる事もなく、竹の中に吸い込まれてしまった訳ですよ。

あかん! これじゃいくらルシアンが探しても見つけられないじゃないか!

そう思った私は、それはもう必死に祈った訳です。祈った結果、竹が光りました! 何で?! いや、でもこれなら見つけてもらえる?!

結果として、見知らぬ老人が私の入っていた竹を割り、拉致された。

いや、助けてもらったと言うべきか……?


……アレ?

なんかこれ、知ってる展開だぞ?


私を竹から救出?してくれた老人は竹取の翁と呼ばれていた。おーぅ、それ、私知ってまーす。

ってそんな事言ってる場合じゃないよ。この人、竹取物語の翁なんじゃないの?!


状況を整理した所、織姫である私は、機織りに使う(シャトル)を落として、それを拾おうとして(何故か)天界から落ち、竹に吸い込まれてしまったと。

牽牛ことルシアンに見つけてもらおうと祈ってたら竹が光っちゃって、翁に助けられたと。

そんな私の名前は当然ですが……。


「かぐや」


「かぐや姫」


デスヨネーッ!


…………コホン。とりあえずですね、織姫の姿に戻らないと、牽牛ルシアンが私を見つけにくいと思うんですよ。

元の姿に戻れーっ! と、祈る私は、すくすく育っていったと言いますか、元の姿に戻ったと申しますか。

三ヶ月程で十二、三歳ぐらいまで成長した! 成長って言うか、戻って来たって言うか。


育ったのは良いんだけど、最近屋敷の外が騒がしい。

視線を常に感じる……。


翁がニコニコと嬉しそうに言った。


「姫に逢いたいと、多くのおのこが来ておるのじゃよ」


……えっ! 無理!

何を言われようと断固拒否です。

それにね、諦めた方が良いですよ。

だって牽牛ルシアンが来たら皆、八つ裂きのギッタンギッタンのメッタメタにされるに違いないよ!

いや、本当に! 命が惜しいでしょ?!

……とは言えないので、私はどなたとも結婚致しません、とお断り申し上げてみた。翁も媼も分かったと納得してくれた。ほっ。


うぅ、元はと言えば全ては私のうっかりが招いた事とは言え、かぐや姫になっちゃうなんてーーっ!

ルシアンーーっ!


ようやく元々の年齢ぐらいまで戻ったのは良かったものの、翁と媼が、断っても断っても諦めないしつこいストーカー達のいずれかと結婚したらどうかと言い出した!

どうやら二人とも、自分達がいなくなった後の私の事を心配してくれているようだ。

とは言えですよ……。


なんだっけ、かぐや姫ってば無理難題をおねだりするんだよね、確か。

石作いしつくりの皇子には仏の御石の鉢を、車持くらもちの皇子には蓬莱の玉の枝を、右大臣 阿倍御主人あべのみうしには火鼠の皮衣を、大納言 大伴御幸おおとものみゆきには龍の頸の玉を、中納言 石上麻呂足いそのかみのまろたりには燕の子安貝こやすがいをお願いした。

かぐや姫の話の通りなら、偽物を持って来たり、作らせたり、残念な事になる筈。


石作の皇子はそれらしい物を持って来てはくれたものの、そんな筈はないので、偽物ですよねとカマをかけた所、呆気なく陥落。って言うか、仏の御石の鉢ってなんぞや?


車持の皇子が持って来た蓬莱の玉の枝は、偽物だと分かってもとても美しかった。金の枝に真珠が散りばめられて、キラキラと輝いていた。

偽物ですよね、と言ってもそんな事はない、本物だと言い張る。どうやって論破しようと思っていたら、枝を作った職人が、お代を払ってくれ! ……と皇子の元に来てくれたお陰で、偽物だと突っぱねる事が出来た。ほっ。


右大臣は火鼠の皮衣を持って来た。って言うか、火鼠って何よ? なんだっけ、とりあえず火を付ければ良かったような?

ファイヤー!

目の前で、火鼠の皮衣とか呼ばれていた物は燃えに燃えて、灰になった。

呆然とする右大臣の姿からして、どうやら本物だと信じて疑ってなかったみたい……。ゴメン。


大納言は乗った船が嵐に巻き込まれ、その嵐が龍の起こしたものだと教えられて断念したらしい。あれですかね、リヴァイアサン的な奴ですかね!


中納言は頑張って崖にある燕の子安貝を取ろうとして、無理をして落っこちてしまわれたらしく、大怪我を負ったとの事だった。これまでの偽物持って来た人達と違って、本気で頑張ってくれた中納言には申し訳なくて、お大事になさって下さいとお見舞いのお手紙を送っておいた。命あっての物種です、本当に。


よし、これで皆諦めてくれたかな! と思っていたら、今度は帝ですよ。

入内しろとか言って来やがりましたよ。やなこったです。

とは言え、この国の頂点に立つ人物の命令です。

とりあえず翁には、入内するくらいなら死にます(帝が)とは言っておいた。


帝は狩を口実に屋敷に押し入って来て!

ぎゃーーーーーーああああああぁぁ!!

強引に私を牛車に乗せて御所に連れて行こうとした。

モウダメダー! と思いながらも、牛車の車輪が外れるように祈ってみたり、牛が暴走して何処かに行ってしまったりするように祈った結果、帝は私を御所に連れて行く事を断念してくれた。せざるを得なかったといいますか。

でもね、何故だか文通が始まったのよね。私も暇だから文通は別に良いんですけどね……。

とりあえず、帝の人となりはよく分かりました、えぇ。


あっちとこっちでどのぐらい時間の流れが違うのか分からないけど、私、かなり長い事ルシアンに会えてません……。

ルシアンに会いたいよぅ……。うっうっ。

……ルシアン……迎えに来てくれないのかな。怒ってるかな。私のおっちょこちょいぶりに呆れてるかな。って言うか、どうやって迎えに来るんだろう……?

もしかして、もしかして、今生ではルシアンに会えない?!


泣いてる私を翁や媼が慰めてくれる。

皆優しい……良い人や……。

でも私は帰りたいんです、ルシアンの元に。


月を見る。

ルシアンと一緒に見た月が思い出されて、涙が溢れる。


……アレ?

月になんか模様が浮かび上がっているような……?


"十五夜に迎えに行きます"


ルシアン! ルシアンだ! 絶対ルシアンだ……!


嬉しくて嬉しくて泣いてると、翁と媼が声をかけてきた。


「かぐや姫や、何をそんなに泣くんじゃね」


「次の十五夜の夜、迎えが来るのです」


「迎え?」


「はい。月から迎えが来ます」


厳密に言うと月じゃないだろうけど、かぐや姫なんで、今。やっぱり月って言っておかないとね!


ルシアンが私を見捨てないでいてくれた事が嬉しくて、毎晩月を見て泣いていたら、何をどう勘違いしたのか、私が(月へ)帰りたくなくて泣いてるのだと思っているようだ。誤解だ。完全なる誤解だ。







今夜は十五夜。

やっと。やっとです。

ルシアンに会えます! いぇっふー!

……それにしても、外が騒がしいな。

そっと様子を伺うと、なんだか物々しいよ?!

なんでこんなに兵士がいるの?!


「姫や、安心すると良い。帝が姫を守る為に兵を遣わして下されたのじゃ」


えぇっ?! どうしてそうなった?!

って言うか、止めた方が良いよ!

ルシアンが怒ったら皆、大変な目に遭うから……!


「そのような事はお止め下さい」


何度訴えても聞いてくれず、私は屋敷の中の一番奥の、鍵のかかる部屋に閉じ込められてしまった。ドアの前に翁と媼が待機してるっぽい。


いやいや本当に、皆が大変な目に合う可能性が高いから止めて……!


部屋に閉じ込められているから、昼なのか夜なのか分からない。分からないから、魂のコンパス機能を使ってみる。

一定の距離に感じていたルシアンが、少しずつ近付いてくるのを感じる。


ルシアンが迎えに来てる……!

そう思うと、嬉しくて嬉しくて、早く会いたくて堪らない。


屋敷の外が騒がしくなる。何と言っても平安時代?の建築ですからね、機密性とかない訳です。

あれは何だ! とか、天から光が! と言う声が聞こえる。

皆がルシアンに攻撃してルシアンが怪我したら嫌だし、かと言ってルシアンは容赦ないから、外にいる兵士も、皆、動けなくなりますように……!!


身体が!

動けぬ!


叫ぶ声が聞こえてきた。

オッケーオッケー! そのままでどうぞ!

って言うか、動けないに口は含まれないのか。

まぁ、何が起きてるのか大変分かりやすいですけど。


外からの光が屋敷の奥の私の元まで届いた。

ルシアンがもうすぐそばまで来てる。

やっと会える……!


バタン、バタン、と音をさせて扉が開かれていく音がする。音はこちらに近付いてくる。


「かぐや姫は渡さぬ!」

「姫!」


翁と媼の声がする。

差し込む光が私の足元まで届く。

感じる気配。


「ミチル」


外から聞こえたその声に、涙が溢れた。


「ルシアン……!」


ドアが開いて、牽牛姿のルシアンが立っていた。


「迎えに来ました」


私の前に伸ばされた手を取る。

どうでも良いんですけど、十二単みたいなのを着てるから、重くて、一人で立ち上がれないんです……。


牽牛ルシアンに支えてもらいながら立ち上がる。


「姫!」

「かぐや姫!」


行かないでおくれと泣く二人を見て、ルシアンが小声で言った。


「ミチルがお世話になった方達ですか?」


「そうです」と答えて頷く。


「では、礼を置いていかせる事にしましょう」


私は翁と媼に向き合って言った。


「おじいさん、おばあさん、これまで大変お世話になりました。私は月に帰ります。どうか、お元気で」


二人は泣きながら行かないでくれと言うけど、私が動けなくしちゃってるからね。本当スミマセン。解除はまだしないっス。


「重そうですね」


「とても重いのです」


本当に。キレイだけど、総重量凄い事になってそう。

ルシアンが私を抱き上げる。


誰もが身動き出来ない中、私を抱き上げたルシアンだけが進んで行く。

屋敷の縁側に出ると、目の前に牛車が。よく見たら牽牛ルシアンとこの牛だ。

私付きの女官達も迎えに来てくれたみたいで、皆、笑顔を向けてくれる。

お手数おかけして本当すんませんです。

牛車に乗り込む。


「出してくれ」


ルシアンの言葉に反応して、牛車が浮かぶ。

あぁ、やっと帰れる。

安心して、ルシアンに寄りかかった。




「それで、何故こんな事になったんです?」


帰りの牛車の中、当然と言えば当然ですが、ルシアンに尋ねられた。


(シャトル)を落としてしまって。それを拾おうとしたら何故か下界に落ちてしまったのです」


まったくもって意味が分からないよ……!


「そのような事は通常では考えられませんから、義父上の仕業でしょうね」


同感です……。

義父上とは、今生の私の実父、天帝です。


「ミチルの好きな物を手に入れたから取りに来るように義父上に呼ばれて参内し、戻ったらミチルがいないから慌てて探しました」


ますますもって、今回の仕業は天帝オトーサマの仕業としか思えぬ。


「天界中探して、下界にいると言う事が分かり、慌てて迎えに来ました」


「そちらではどのぐらい経っておりますか?」


実は私、かぐやとして六年ぐらいはいたんだよね。

最初はぐんぐん成長してみたんだけどね。


「六日です」


ため息を吐いてルシアンは私を抱き締めた。

そっか。六日か。それなら良かった。またルシアンに辛い思いさせちゃったかと思ったよ!

いや、私は大分辛かったですけどね……。ルシアンにもう二度と会えないんじゃないかとか、色々考えちゃって。


「本当に良かった。何処かで誰かに監禁されていないか、誰かの物に強引にされていないか、心配で堪らなかった」


心配事項は常にソコなんだネ。

知ってますケド。


「そのような人間がいたら始末しようと思っていましたが、その様子もなく、本当に良かった」


そうなるって分かってたからね! 死守したよね! いや、本当に!


髪とおでこ、顳顬こめかみにキスが落ちてくる。

その優しさにホッとして、泣きそうになる。

ルシアンの服を掴むと、服から手を離されて恋人繋ぎされた。


「うっかりなミチルには、心配させた罰として、お仕置きですね?」


うぅ……わざとじゃないけど、ハイ、覚悟してマス。


「はい……申し訳ありません……」


ふふ、とルシアンは笑う。


「冗談ですよ。今回のはどう考えても義父上がした事だと思います。迎えが遅くなってごめんなさい、ミチル」


首を横に振って、ルシアンに抱き付く。


「迎えに来てくれてありがとう、ルシアン」


「地の果てでも、迎えに行きます」


あぁ、もう。

発言がイケメン過ぎる。

それに、本当に迎えに来てくれた。


「本当にありがとう、ルシアン」


キスをした。

感謝を込めて。

それから、愛を込めて。


「愛してますよ、ミチル」


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