初心忘るるべからず?
ぅぬ……。
ルシアンの邪魔をしないようにしつつ、私の血中ルシアン値を上げようとしたのに、あっさり見つかってしまって、それは大変な事に……モゴモゴ。
考えてみたら、アサシンファミリーのルシアンやロイエにバレずに遠巻きに見つめるとか、不可能だったんだ。
ロシュフォールやリュリューシュのお母さんをちゃんとしつつ、ルシアンとの時間もちゃんと取りたいのにーっ!
いつも夜になるとクタクタで、気が付いたら朝で!
二人とも離乳食になってるんだから、以前程体力を消耗しない筈なのに、何故?
「普通に睡眠時間足りてないでしょ」
バッサリとセラに切られました、えぇ。
でも、そうですね。その通りです。いつも眠くてぼーっとしてる気がスル。
眠すぎて何も掬ってないスプーンをロシュフォールの口に入れてる時とかある。大人しいロシュフォールはそのままスプーンかじってるけど。
「ミチルちゃんは毎日8時間の睡眠を必要とするのに、今はそんなに寝れてないでしょ?」
ロシュフォールは夜泣きをしないんだけど、リュリューシュが夜泣きをする。
って言うか、ロシュフォールって殆ど泣かないし、大丈夫なのかな?
ちょっとルシアンが赤ちゃんだった時、どんなだったのか、お義母様に聞いてみたい……。
手紙送ってみようかな。
「ルシアン様のご命令で、お二人は今夜から別の部屋でお休みになられるわ」
えっ!?
「驚いてるけど、普通よ? 貴族の夫人は自身で子育てはあまりしないもの」
あー、前世の記憶(実経験はないから中途半端な知識)でもって育児をしちゃってるのか、私?
「ミチルちゃんの睡眠が乱れる事をルシアン様は良く思ってらっしゃらないわ」
……いや、なんかそれ、違う気が……。
否定したい私の視線に気付いたセラは、首を横に振る。何て言うの、皆まで言うな的な。
「言いたい事はあるかも知れないけど、確定事項です。このままだとミチルちゃんが倒れるわよ?」
育児ノイローゼって事ですか?!
それとも単純に睡眠不足?!
「ルシアン様も本当ならミチルちゃんの好きなようにさせてあげたいとお考えだったけど、流石に今の状況じゃね」
うぅ……。
面目ないデス……。
「起きたらいつも通りなんだから、夜ぐらいちゃんと休んでちょうだい」
「御意……」
なんか……落ち着かない……。
ソワソワしてる私を見て、ルシアンが笑う。
「落ち着かない?」
素直に頷く。
あるべきものがないと言うか。あまりに静か過ぎて落ち着かないとでも言いますか。
「落ち着かないです」
「大丈夫、すぐに慣れます」
そう言って私のこめかみにキスを落とすルシアン。
心なし、機嫌が良い気がする?
それにしても、二人っきりの夜、久々だよね。
妊娠中も二人だったけど、ちょっと状況が違うし。出産後はロシュフォールとリュリューシュがいたし。
……アレ? 一年半ぶりぐらい?
「!」
「ミチル?」
きゅ……急に緊張してキタ……。
アレッ、こういう時、どうすれば良かったんだっけ?
ルシアンの顔を見る。目を細めて柔らかく微笑むイケメン。ぐはっ! 今更ながらに、ルシアンのイケメンっぷりを直視してしまった!
って言うかこの顔をよく平気な顔して見れてたな、私?!
「顔が赤い」
「ソゲナコトナカトデス」
もはや何処の言葉かも分からん言い回しで誤魔化し……誤魔化せたか、今の?!
「もしかして」
あっ、ヤメテ! それ以上言わないでっ!
「緊張してるの?」
ぎゃーーーーあああああああああ!! 言われたああああ!!!!
「はぅ……」
はぅじゃない! はいでしょ、はい!
あああああ! 顔が熱い! 心臓がバクバクいってる!
ルシアンは無表情のまま、私の顔を見てる。
「相変わらず、ミチルは予測がつかない」
ふふ、と笑うルシアンに、私の胸はずっきんずっきんですよ!
ご尊顔過ぎて目がーーっ!!
おでこ、まぶた、鼻、頬にキスが落ちてくる。
あっ、やっぱり何て言うか、そう言う流れですよね? そうなんですよね?
だ、大丈夫かな、私の心臓もつかな?
手入れは、エマとクロエがしてくれてるから大丈夫だけど、体形とか戻ってたっけ?!
この前はそんな心構えもないままになし崩し的にアーレーな事になったけど!
えっ、自信ない!
思わずルシアンの顔を手で押し除ける。
「……ミチル?」
はっ! 久々に、この声聞いた。ちょっと不機嫌な奴。
「ち、違うのです! 嫌とかではなくてですね!」
「うん?」
「……じ」
「じ?」
「自分(の色々)に自身自信がナイデス……」
こんなにも皆にフォローされてるにも関わらず、育児でいっぱいいっぱいで、見た目とか、行動とか、全然ちゃんと出来てなかった気がする……! いや、今更ですよ?! 今更なんですけどね?!
「淑女に自信を与えるのは紳士の役目、だそうです」
うん?
ルシアンの言葉の意味を図りかねていると、身体が浮かんだ。
はっ! ヤバい! 逃げたい……!
「る、ルシアン……!」
「大丈夫」
全然大丈夫じゃないDeath!
ルシアンの腕の中でジタバタしてみたものの、びくともせず、寝室にそのまま運ばれてしまった。
子供までいる癖に今更って言うかも知れないけどね?!
何て言うかやっぱり万全の状態で迎え撃ちたいって言うか、がっかりされたくないって言うか……!
いや、それでもキレイだよとか言われたいとかそういう願望も無きにしもあらず、って、ルシアンは身体の事一切言わないな……?
身体がベッドに沈む。しかも上に乗られた!
わああああああ! 逃げ場なし!
「ミチルが自信を取り戻せるまで、愛し続けますね?」
はっ?! えっ?! それは死ぬ!
「イエッ、私、ルシアンに愛されてる自信はありますっ! ありますからーっ!!」
なんとか思い止まっていただこうとするも、目の前のイケメンは楽しそうに笑うばかりで。
「私が、愛したい」
きゅんときたーー!
ってそうじゃない! そうじゃないよ、ミチル!
「愛してますよ、ミチル」
アーーレーー!
ミチル如きがルシアン様に敵う筈はなかったのでアリマス。