反省はしているんです、これでも
先日のやらかしを反省する。
あれ、まったくもって誤魔化せてないと思うんだよね……。とはいえ、これ以上触れるのは憚られる内容というか。
っていうかそもそも、祖母があんな空気にするから……と人の所為にしようとして、あれもわざとなんだろうなぁ、と思う。
同じ皇城にいるんだから、あの場で言わなくてもよかったはず。それを口にしたのは、ルシアンに聞かせるため? まさか私? 私じゃちんぷんかんぷんだけど、私がいることに意味があるとしたら、私が知ったことで、ゼファス様がなにかやりづらくなることがあるのではなかろうか……。いや、私基本的に止めない派なんだけども?
顔を上げてセラを見る。部屋には私とセラとアウローラしかいない。このメンバーなら、秘密の会話に……はならなさそう。裏で(ルシアン達と)つながってると思うけど、そこはぜんぜん問題ない。むしろありがたや。
「ゼファス様の上のお兄様のこと、聞いてもいいかしら」
「……詳しくは言えないわよ?」
知ってるのかー。アルト一門どうなってるんだ。
「上のお兄様も、シミオン様と同じレミだったでしょう。ゼファス様だけがフラウなのは何故かしら」
「……オットー家はここ何十年も、フラウの名を一族の誰にも名乗らせていないの。シミオン様、ゼファス様のお父上、先代のオットー公もレミなのよ」
特別な名ということなのか。
「何故、末の子のゼファス様なのかしら。母が異なるから?」
公家でもあるオットー家だから、なんかドロドロしたものがあったとか?
「エザスナ様とシミオン様の母君より、ゼファス様の母君のほうが皇家の血は濃かったみたいよ」
ディンブーラ皇国の皇族は血の濃さを尊しとするから、それでなのかなぁ。
同じ子供なのに、末の弟のほうが立場が上になるってことだし。それは長子のエザスナ様も面白くないだろうなー。シミオン様はゼファス様のことを弟として大切にしてるのが、見ているだけで伝わってくるけど。
「……エザスナ様の死後、ゼファス様は教会に身を置いたのよ」
……なにかあったんですね……(察し)。
「お義父様はシミオン様のご学友よね? それが縁でゼファス様とも親交を深めたと……」
「ここまでが、皆が知ることね。ここから先はいくらミチルちゃんでも教えられないわ」
何があったのか知ってるのかー……隠密集団だから知ってるのか、関与してたのかは不明だけど…………魔王、何もしてないよね?
ライ帝国のことまで出てきて、なにがなにやら。
「名前が強い意味を持つのね」
「ミチルちゃん、八公家が継ぐ名前がなんなのか知っているのよね? 教えてもらっていいかしら?」
私が名乗ってる"レイ"もそうだし。あれがないと皇宮図書館入れないし。
大体なんで八犬伝。八代目女皇のイルレアナは転生者で愛し子で、八犬伝ファンだった。ファンじゃなかったかもしれないけど、私、読んだことないから、どの名前が誰についててとか、意味とかまったく分からない。
レイは、礼だけど。あ、字のままか。
「私も詳しくは知らないのだけれど……」
ゼファス様が聞いたらおまえらしい(つまり適当だ)と言うだろうなー。いやでもさ、転生先のことまで考えて情報収集して生きる人なんていないからね?!
「信、義、智、礼、孝……」
と、五つまで口にして、そこから先を知らないことに気付く。そこは八公家を思い出せばいいのか。
シドニア公が信で、オットー家が義、エステルハージ家のトモ、ってもしかして智かな? チ、っていうミドルネームは確かに微妙かも? ラルナダルトが礼、バフェット公が孝。クレッシェン公がジンだから、
「仁」
クーデンホーフ公の忠、エヴァンズ公の悌。
「忠、悌。これで八人ね」
「フセとヤツフサは?」
「人の名前よ」
ヤツフサは犬だな、でもそれは言えないな……。
「ミチルちゃんは八公家が継ぐ名前がなんなのか知っているのね」
知ってるといえば知ってるけど、詳しくないし、物語だし……。フセは伏姫。ヤツフサは八房。神の裁きとしてはヤツフサよりフセのほうが合ってる気もするんだけど。好みの問題だろうか。
伏姫と八房は一応夫婦? なんだよね。
「神の裁き……アスペルラ姫が女皇になることを望んだ兄皇子はペルビアナ姫を女皇と認めなかったから国を興したのだったわね」
そのペルビアナ姫も反省して皇宮図書館に真実を残したって祖母は言ってたけど。じゃあ、あの図書館を作ったのはペルビアナ姫?
……知恵熱また出そう。
「皇宮図書館もペルビアナ様が?」
「違いますよ」
声の主人はルシアン。セラたちが流れるように退出していくのも見慣れた光景です……。
「違うのですか?」
「八代目女皇イルレアナが女神の命を受けて建設したそうです」
うちの夫も物知りだなぁ……。さすが暗殺集団の次期当主というべきか。
「ではあの図書館にはイルレアナ様の時代の書物も残されているということなのですね?」
何故八犬伝なのかとか、そういう日記めいたものがあったりするんじゃないかなとか、伝記とか。
「ミチルに是非読んでもらいたい本がありましたが、多分もうないでしょう」
ルシアンが存在を知っているのに、もうない?
意味が分からないでいる私にルシアンが言う。
「今はまだ知らないほうがいいというものなのか、永遠に知らないほうがいいのか、私にも分かりません」
「司書であるハル達は何処かに移動しているのですか?」
あの謎の双子。
「いえ、彼らは皇宮図書館から出られないそうです」
そういえばあの図書館出入り厳重だったけど、どうやって本を搬出したんだろう??
うーむ。ルシアンが分からないなら私に永遠に分からなさそう……アレ……?
「ルシアン、お祖母様がペルビアナ様によって歴史の改変が行われていないことを確認したとおっしゃっていたのを覚えていますか?」
「ええ」
ペルビアナ様の治世は千年前。八代目女皇イルレアナの治世はもっと前。
そんな時代からある本が無傷なはずがない。どれだけ大切に扱っても、有機物は経年劣化するはず。
「ハルたちに会えるならば、何か分かるかもしれませんわ」
ふむ、と頷くと、「そういった全てを見越した上での先日のカフェでの会話だったというわけですね」とルシアンが言った。
あの内容からして、ゼファス様と魔王様が何かしようとしていることは分かってきました。
「ミチル、アル・ショテルから技術団が来ます」
「まぁ! 是非お会いしたいわ!」
カメラを白黒じゃなくカラーに出来るようにしてもらって、ルシアンやロシュやリュリュ、ゼファス様たち皆の写真を撮りたい! せめてシャッタースピード上げたい!
興奮気味な私を笑顔で見るルシアン。
はっ! しまった! つい食い気味に反応してしまった! 誤解されてはいけない!
「か、カメラの技術改良をお願いしたいのです」
ルシアンがにっこり微笑む。
……あ、そうだった。カメラ、ルシアンに没収されてたんだった……。こっちもあかんかった……。
色々出てきたところで章完結で申し訳ありません。
頑張って続き書きます。