表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/127

話題のチョイスは難しい

 こっそりお忍びでカフェに行こうとしたら、捕まりました。誰にって? ルシアンだと思ったでしょ? 残念、ハズレです。


「これがカフェというのね」


 まさかの女皇陛下おばあさまでござるよ……。なんでカフェに行くのがバレた……バラしたのはダヴィドかアウローラのどちらかだと思うんだけど。いや別にバレてもいいんだけどね。

 一応お忍びではあるらしく、私も祖母もそれらしい格好してるんだけど、普通に周囲に警護の人いるからさ、バレバレっていうか。大体さ、この前のカテドラルのことで私たちの顔を知っちゃった人もいると思うんだよね。

 祖母が帯同してるのも信じられないけど、一番信じられないのは……


「パパガスキーを」


 ゼファス様までいることですヨ……。

 忙しいんじゃなかったの?!


 気を取り直してスイーツを頼もうとメニューを見ていたところ、メニューを取り上げられてしまいました。隣人ルシアンがにっこり微笑んでおられます。無言の圧。オットスキー以外絶許ということですね、えぇ、分かりますとも。この点に関してはエスパーですとも。


「……私はオットスキーにいたします」

「私は愛し子オススメの季節のフルーツタルトで」


 私に続けてルシアンがメニューを決めた。見た瞬間これかなーとは思っておりましたよ。

 祖母はメニューを眺めた後、楽しそうに言う。


「せっかくですもの、この女皇お気に入りにするわ」


 全員のメニューが決まったところで、私、祖母、ゼファス様、ルシアンがそれぞれオーダーをする。店員緊張しすぎてオーダーの復唱で舌三回噛んでたよ……不憫……。本当すまぬ。


 空気を和ませようと、話題を振る。


「お祖母様がカフェに関心があるとは思いもよりませんでした」

「カーライルでは行けなかったけれど、一度は足を運ぼうと思っていたのよ。愛し子発案なのですもの」


 ……愛し子なのに、グッドルッキングガイに溢れた煩悩カフェを作ってスミマセン……。いやでも、あの時はそんなの知らなかったしさ……不可抗力っていうかさ……。


「お二人のお忙しさもありますけれど、安全面においても問題はないのですか?」


 女皇と皇太子と女皇の孫夫婦がこんな風にお外にいて安全面的に大丈夫なんだろうか。いや、なんか日本の忍者みたいなのを指揮してるゼファス様と暗殺者アサシン顔負けのルシアンもいるし、セラとロイエもアウローラもいるんだけどさ、って全然大丈夫な気がしてきた。銀さんもいるし。ルシアン曰く、祖父もめちゃ強いらしい。孫を長くやってますけど、意外と知らないことあるよね。


「貴女がこうして民に我らを知ってもらおうとしているのですから、私も今少し、民を知る努力をしてもいいと思ったのですよ」


 だからこそのメニューではあるのは確かです。愛される皇室をですね、目指しているのは確かなんですけれども。


「貴女の努力を無駄にせぬようにしなくてはね」


 ……何か副音声聞こえてきそうなこと言ってる。

 笑顔で返してみたりして。


「こちらとあちらの技術力の差は歴然としているわ。そのあたりは心配しなくていいと思っていいわね?」


 ゼファス様がちらとルシアンを見る。


「お気持ちに適う結果をお見せできるかと」

「ほほ。それは頼もしいこと」


 なんだこのパワーランチ……。

 なんとも言えない空気だけど、ミチルには難しいことは分からないということで、運ばれてきたスイーツを楽しもうっと!

 わー、美味しそうだなー!(棒)




 美味しいスイーツとお茶にほっこりしていると、祖母が立ち上がった。


「暴かれてしまったものは、もう秘密とは呼べぬもの」


 意味深!!

 視線の先にはゼファス様。僅かにゼファス様が緊張しているのが分かる。空気が一瞬にしてひりつく。


「よく持ったほうと言えるでしょう。よくぞ守り抜いたと言うべきなのかしらね」


 笑顔の祖母が怖いです。


「それともう一つ、閉じ込めたところで何も解決しないことは貴方が一番分かっているでしょう」


 祖母の視線がルシアンに移る。


「公に伝えなさい。その案はすぐに露呈すると。勿論、それだけでどうにかなると思ってもいないでしょうけれど」


 私にはさっぱりちんぷんかんぷんな、一方的ともいえる会話? がされた後、祖母は私に笑顔を向けた。


「女皇お気に入りのスイーツ、美味しかったわ。次は皇城に遊びにいらっしゃい」

「なによりのお言葉にございます。近いうちにまたお伺いいたします」


 笑顔で頷くと、祖父と銀さんを引き連れて祖母は去って行った。そういえば祖父はなんのスイーツが好きなんだろう。護衛みたいに立ってたけど、皇配殿下なんだよね、祖父。


 ちらりとゼファス様を見ると、ぷいっと顔を背けられてしまった。うむ。大丈夫そうだ。さすがあの祖母と渡り合うだけありますね……。


 ……まだ何も、始まってないと言えば始まってないんだよね。

 マグダレナ大陸の国力というかそういうのを上げるぞと思ってやってるけどさ、何故、女神マグダレナ様があっちの大陸に魔素を蔓延させたのかとか、何一つ解明してないもんね……。……いや、魔王とか魔王の息子とかぺ天使とかは実は分かってる気もするな……。特に魔王。

 ただまぁ、そこは私の領分ではないんだよね。私は、私の出来ることをする。背伸びしたくなってしまうけど、悲しいかな、私の浅知恵なんて邪魔にしかならない。それならやりたいことを(ほどほどに)言って、周囲が上手くコントロールしてくれる、これが一番問題が少ないのだと、これまでの経験から学んだわけです。だからって何でも口にしたりはしないけど。それぐらいの分別はついてると、思いたい。


 暴かれた秘密はもう、秘密じゃない。

 隠しておきたかったこと。ゼファス様が?


 そっとゼファス様を見る。いつもと変わらぬ表情でスイーツを口に運んでる。

 前にも少し思ったけど、ゼファス様の過去って波瀾万丈みたいなんだよね。漏れ聞こえた情報だけでも。詳しく聞いたことはないけど。


 沈黙に耐えきれなくなった私は、話題を変えるつもりで、前から少し気になっていたことを口にした。


「シミオン様はレミですが、ゼファス様はフラウですよね。意味がおありなのですか?」


 空気が凍った。

 ……あー……あぁー……これ、聞いちゃあかん奴だったんだ。もしかして当たり前すぎるとかの可能性もあるけど、とりあえずあかんかったっぽい。

 助けを求めようとルシアンを見ると、笑顔だった。え? この状況で笑顔? 無表情じゃなく? 私に甘すぎる夫目線では、このうっかりさんめ、みたいな感じなんだろうか??

 どうしていいか分からないでいると、ゼファス様が答えてくれた。


「神の裁きって意味らしいよ」

「レミの意味ですか?」

「フラウが」

「教皇のゼファス様に合っている、と申し上げていいのかしら」


 ……天然っぽく言ってみるけど、さっきのが何かの地雷を踏み抜いたことは、鈍い私でも分かる。場を凍らせた責任を取って、なんとか和ませねば。


「レミは、庇護者」

「まぁ、ご兄弟でそれぞれ別の名をいただいてらっしゃるのですね」


 実はゼファス様が三男だとか、二人の兄はレミでゼファス様だけ違うとか、知ってるけど知らんぷりする。ゼファス様とシミオン様は母親が違うから違うのかな、ぐらいにしか思ってなかった。軽い気持ちで聞くんじゃなかった……。


「フラウとは、神の裁きという意味だ、ルシアン」


 ゼファス様の言葉に、ルシアンが静かに頷いた。


「ありがとうございます」

「……その様子だと気付いていたみたいだね」

「はい」


 神の裁きっていえば雷。そういえばライ帝国って燕国が雷帝国って書いてるんだよね。今じゃディンブーラの言葉を日常的に使ってるけど、祖国 カーライルはロストア語で、ロストア語でライは……。


 顔を上げると、ゼファス様が私を見ていた。


「珍しく察しが良いね」


 鈍感でスミマセン……。それから何も口にしてないのに察しないで……。


「ライ帝国は、神の裁きを下す為に作られた国だよ、アスペルラ姫の兄皇子 シラン・ディンブーラによってね」


 最後の一切れを口にすると、ゼファス様は呆れた顔をする。


「そうは言っても千年も前のことだからね、今じゃただの言い伝えでしかないよ」


 そうだよねー。さすがに千年前だもんねー。

 当初はそうだったってだけだよねー。

 ……そういうことに、しておこう。それから二度と話題に振るまい……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ