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ラグビーリーグを作りましょうぞ!

 ラグビーはこちらの世界にも存在するけれど、小さな村同士の対決なんかでやるぐらいのもの。だから謎のローカルルールがあったりなかったり、なんだそうな。ルールやらなんやらを決め、各国に広めて統一するという案は、ルシアン先生によりあっという間に形になっていった。さすがの企画力と行動力ですよ! 私なんて屋敷に閉じこもってお茶しばいてるだけだっていうのにね。

 言い訳をすると、本当はもっと参加しようと思ったんですよ。脳筋と思われるクーデンホーフ公が張り切ってるから任せてあげましょうと言われましてな。(脳筋部分は勝手に補足しました)

 武闘派のほうが適任かもしれぬと手を引いたのですよ。公家が皇国に属する国々に目を光らせるためにも、任せたほうがいいのは分かる、うん。


 貴婦人としてはね、お茶会なんぞに参加したり開催したりするわけですけれども、得意じゃないし、禁止されちゃってるから、ありがたーくひきこもり生活を満喫しております。

 とはいっても、たまにはお出かけしたくはなるもので。喪中だから大手を振って出かけられないからと、ゼファス様の邪魔をしたのがよくなかった……。


"そんなに暇ならカテドラルで讃美歌でも歌ってきなよ"


 ……と、無限胃袋の殿下に言われてしまったのですよ……あれは本当に失敗だった。迂闊だった。忙しい人の前で言わなきゃよかったー……。珍しく笑顔になって、天使の微笑み! とか喜んでる場合じゃなかった。


 でも、讃美歌広めたいと提案したのは自分だし、言い逃げは許されないよね、やっぱり。これは他の公家の役割ではなさそうだしね……。


「ミチルちゃん、そろそろ諦めてもらっていいかしら? 聖堂に移動する時間だから、愛し子っぽく演じてちょうだい」


 優秀な私の執事により、死刑宣告がされました……。それにしてもですよ、愛し子を演じるって言い方!


「演じられるものなのかは分かりかねるけれど」


 椅子から立ち上がると、控えめにしておいたドレスの衣擦れの音がした。城に行くわけでもないからね。デイドレスですよー。祈りに華美さは不要だと押し切りました。とはいっても曲がりなりにも皇族なので、それなりに装飾はされております。なお足首とか見せるのはアウトなんで、裾が長い。つまり歩きにくい。


「祈りを捧げましょう」


 祈りの歌を捧げる間は、女神像に向かっていればよくって、参加者たちとは段差もあったりと距離があるとのことなので、ミチル安心。

 少し慣れてきたとはいっても、オーディエンスの前で歌うのはやっぱり緊張するのですよ……。


 讃美歌は教会で保護されている子供たちに教えられているらしい。少年少女による讃美歌とか絶対胸打つに決まってますよ。

 願わくば私の歌のあとに歌っていただきたい。だって少年少女の心洗われる歌の後に歌うってなったらハードル上がるじゃないですか……。


 セラの後ろをついて廊下を進む。足元には真っ赤なフカフカの絨毯が敷かれてるんだけど、こんなの前に来た時あったっけ?

 足元が気になるけど、愛し子モードスイッチオンしたので、気にせず進まねば。


 長い廊下の終わりには観音扉。聖職者と思われる白いローブを着た人たちが私を見て頭を下げ、扉を押し開いてくれたので軽く礼を伝える。

 開いた扉の向こう側に見えたのは、人、人、人! 満員御礼です。

 ……アレ? 今日私以外にも誰か来ることになってたのかな?(震え声)


 私の心の疑問に答えるように、扉の前に立っていた聖職者が笑顔で説明してくれた。


「本日カテドラルにてミチル殿下が祈りを捧げることを知った皇都の民が集まりました」

「入りきらなかった者たちのために、正面の扉を開放しております」


 ジーザス!!


 思わず後ずさった私を、アウローラが支えるように見せかけて捕獲してきました……。


「女神への祈りはラルナダルトの役目にございます」


 ……デスヨネ、アウローラさんってば、レーゲンハイムの人ですもんね……。

 セラと目が合う。あっ! にやりと笑った!! 皆知ってたんだ! 確かにこんなにオーディエンスがいるって知ってたら絶対来なかった! 来なかったよ!!(涙)


「人の熱気に少しめまいがしました。ありがとう、アウローラ」

「とんでもないことでございます」


 アウローラと目が合った。……目、笑ってた。セラも笑ってたけど。

 セラに続くようにして聖堂の中に入ると、わっと声がした。ヒィ……帰りたい……。

 人嫌いではないけどさすがにですね、この人の多さは腰が引ける。寿命縮む。

 逃げたいと思っていたら、見たことのある顔が。石工職人のグーマさんと、木工職人のウェンデさんだった。前に会ったときから結構経つけど、お元気そうでなにより!

 気付いたよ、とアピールするのに、笑顔になったら、グーマさんが泣きそうになってた。何故だ。


 案内されるままに階段を上り、女神像に向き合うようにして立つ。ヨシ! ここまでくれば後ろの聴衆は見えない! さっきちょっと緊張しすぎて階段踏み外しかけたけど、転けてないからヨシ!


 顔を上げ、女神像の顔を見る。

 マグダレナ様、もし緊張して音を外しても許してくださいね……。


 息を吸って、吐いて。

 いつものように、歌い始める。


「"緑深き森の奥に 光射す

優しい風が吹けば 鳥たちも集いさえずり

けもの達も足を止め 喜び踊る"」


 身体の中に、魔素が流れてくる。入ってきたときは、そよ風のように感じる。身体の真ん中、胸のあたりに集まった魔素は、私の中で魔力に変わる。変成により溜まった汚れは錬成によって浄化されるというけれど、それを実感する。祈りの歌を捧げた後、身体がすっきりする。清々しい気持ちになるのですよ。


「"雨よ降れ降れ 地を潤し

新たな命を芽ぶかす力を与えたまえ

風よ吹け 種を 花を運べ

新たな命を生み出す力を与えたまえ"」


 魔力は私からあふれだして、私のまわりを渦のように回る。光を帯びた魔力が私と女神像を包んでいく。


「"乾いた風も 冷たい雪も

全ては新しい命を生み出す為に

穢れを払い 命の水となり

美しき年がまた 始まる為に"」


 歌い終えると、魔力は大きな渦となって天井に向かっていき、障害物なんてないかのように天井を突き抜けて空に向かっていく。

 毎日見ているけど、飽きない光景なんだよね。

 今日もお勤めやりきった! という満足感もある。マグダレナ様に届けー!


 あまりの解放感に、聴衆のことを一瞬忘れていた私は、歓声に思わずびくっとしてしまった。

 振り返るのが怖いけど、愛し子になりきれってセラにも言われてますからね……。

 諦めてそっと振り返ると、聴衆たちが興奮した様子で私を見てた。あー……人気芸能人の気持ちってこんな感じかな。あの状況を喜べる人が芸能人やっていけるんだろうなー、なんて考えてしまうのは、現実逃避という奴です。

 笑顔を向けてみたりして。対応としてあっていたか、後で執事マネージャーに答え合わせしないと……。


 興奮していたのは聴衆だけじゃなかったみたいで、子供達がわっと駆け寄ってきた。セラたちが止めないところからして、これ、仕込みですよね?

 子供たちは目をキラキラさせて私に感想を述べる。一部やらせではあるものの、子供たちは喜んでくれているようで良かった。


「今度は私たちが歌うの! 愛し子様、聴いててね!」

「勿論です」


 笑顔で答えたけど、愛し子様って呼び名はちょっと変えてもらうよう後でお願いしよう……。


 前世のテレビでしか見たことのない、少年少女による混声の讃美歌は、まだ不慣れさというか、たどたどしさがあったけど、とても優しい気持ちになった。チラッと聴衆を見たら、みんな微笑ましいって顔してたし!


 歌い終えた子供たちがまた駆け寄ってきた。褒めてもらおうと寄ってくる子供たちが可愛すぎる。


「あなたたちの祈りの歌は、間違いなくマグダレナ様に届きました」

「私たちの歌、愛し子様みたいに光らないけど、女神様喜んでくれたかな?」

「えぇ。マグダレナ様は慈悲深き神。心からの祈りを捧げる者たちを愛おしいと思ってくださいます」


 ……たぶんだけど。

 この前の話からして、そういうことだと思うんだよね。マグダレナ様は祈りを求めてる。錬成ができないから意味がないなんてこと、ないと思いたい。

 だってそうじゃなきゃ、オーリーやイリダの民とマグダレナの民の間に生まれた人たちに魔力の器はできないと思うし!


 やったー! と大きな声で喜ぶと、神官たちに呼ばれて子供たちは去って行った。……アレ? もしかして今、私も一緒に下がるべきだった?

 どうしよう?! となっている私の前に現れたのは祖母だった。聴衆、平民たちは祖母が何者か分からないようでザワザワしてる。


 私はカーテシーをした。ここで一番立場があると思われる私がこうすることで、察する人もいる、はず、たぶん。


 セラ、アウローラ、神官たちが一斉に跪いたのを見て、平民たちが更に動揺してる。そうだよねー。


「女皇陛下」


 静まり返った聖堂で、私の声は思ったより響いたようで、平民たちも慌ててその場に平伏した。


「驚かせてしまったようね」


 祖母が手を上げると、銀さんが声を張り上げて言った。


「面をあげよ」


 私たち貴族はまぁ、慣れていることだけど、平民たちはそうではないのだろう。どうする? 顔上げていいのかな、とお互いの顔を見合っているのが見える。

 祖母は身体の向きを変え、平民たちを見た。銀さんがもう一度、顔を上げるように言うと、皆顔を上げた。表情には戸惑いが見える。

 それはそうですよねー、突然女皇が姿を見せたんだから。普通ならありえない。貴族の姿を見ることだって普段からないのに、貴族の頂点に立つ女皇が現れたんだから……。いや、私もビックリですよ、本当に……。


「ディンブーラ皇国の民よ、私はこの皇国を治める者 イルレアナ・フセ・ディンブーラです」


 お年を召してるとは思えないほどに張りのある声。威厳のある姿。私が年をとってもあぁはなるまい……。


「我らは祖が異なるものの、長きに渡りこの大地にて共に生きてきた。皇国はこれから大きく変わる。他の大陸からも人が訪れよう。移り変わりの激しさに戸惑いを覚える者もいよう」


 誰もが固唾を飲んで祖母を見つめてる。次に何を言うんだろうって。言葉を発した瞬間から、この場の主役は祖母になった。なんていうの、カリスマっていうの?


「私は約束する。女神マグダレナの御為に、この国を治めていくことを」


 ……これ、誤解する人たち結構いると思うんだよね。女神マグダレナは慈悲の女神といわれているから、そのマグダレナ様の為にって言うと、なんかそういう治世を目指すって言ってるように思えちゃうじゃないですか? でも、女神の為って言葉、玉虫色すぎない……?


 チラッとセラを見たら目を閉じられてしまった。


 祖母は私に笑顔を向け、聴衆に向けて手を上げると去って行った。

 ……あー、私、もしかして人寄せ……。あのペ天使!!(お約束)


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