ある皇帝の嘆き
私の名はシラン・リヴァノフ・ライ。
ディンブーラ皇国女皇の第一子としてこの世に生を受けたが、男子であることを理由に皇位継承権を与えられなかった。そのことに不満を抱かなかったといえば嘘になるが、皇家は女神マグダレナに仕える者。女神の御心に添い、祈りを捧げ、民を導く。そうあるべきなのだ。そのような気持ちを抱くなどあってらならない。そう思い、鬱屈とした気持ちを鎮めたことは数えきれない程。
我が妹 ペルビアナは父に似て傲慢であり、女神マグダレナの御心にかなうような者ではない。権力を求める愚か者達を周囲に侍らせる様は醜い。分かっていてあの者達を御せるだけのものをペルビアナは持ち得ていないからだ。
もう一人の妹 アスペルラは慈悲深く、信仰心も篤い。なにより女神マグダレナの愛し子なのだ。己が女神に選ばれなかったことは悲しくもあるが、そもそも、女神は愛し子を滅多にお選びにならない。愛し子のいる時代に生きていること、それが自分の妹であることを喜ぶべきだ。心の中に靄を抱き続ける私に比べて、アスペルラの心が濁ることがない。そういった意味でも、妹は愛し子に相応しい。
次の女皇に相応しいのはアスペルラだと、母である女皇に何度進言しても無駄だった。私の計画は失敗に終わり、親しい者達と国を離れた。
腐った皇国を女神はお許しにならない。許されてはならない。
私は同志達と共に新しい国を興した。
作り上げた雷帝国は、アスペルラの──愛し子のためのもの。アスペルラが皇位を継ぎ、私はそれを支える。それが正しい形だ。
それなのに、アスペルラはディンブーラ皇国のラルナダルト家に降嫁してしまった。
優しいあの子は、兄である私と姉のペルビアナがこれ以上争うことを厭うたのだろう。
雷帝国──ライとは神の裁きを意味する。
我が子孫よ、忘れるな。
我らは本来の主人の代わりにこの座を守っているのだということを。
ここに、私の知る全てを記したものを残す。