リュドミラ書庫<ラプンツェルまたはペトロシネッラ>
二人の日常感を出してみました。
とにかく何でも良いからミチルを構いたい、独占したいルシアンによるリュドミラ書庫 ラプンツェルです。
なりきりラプンツェルは割といちゃいちゃが激しめ?になりそうなので、自重した結果、こうなりました。
一冊の本を私によく見えるように胸の前に持って、ルシアンは言った。
「今日はこれを読んでみようと思います」
……え? なにゆえそれを私に言うのかな……ってリュドミラ書庫やないかーーいっ!!
リュドミラ書庫の所為で破廉恥被害に遭いまくりな私としては、ルシアンとリュドミラ蔵書を引き離したいんだけど、何処に隠されているのか不明なんだよね……。
組織ぐるみの犯行とまではいかないまでも、皆して私の分からない場所に保管してるんだと思われる。
酷すぎませんかね……?
ご丁寧にカウチに腰掛ける私の横に座り、本を読み始めるルシアン。
ここじゃなくて、書斎で読んでも良いんダヨ? むしろそっちを激しく推奨したいよ?
ちなみに今日のお話はラプンツェル。
ラプンツェル……ね……嫌な予感しかしないんデスヨネ。
実は私、ラプンツェルの原作とも言うべき童話をネットで読んだ事があるのだ。
ペトロシネッラ──和訳 パセリっ娘。
グリム童話のラプンツェルでは葉っぱとか赤かぶと言われているけど、こっちはパセリっ娘ですよ。パセリっ娘?!
母親がパセリ食べたくなって我慢出来なかった、って話なんだけど、妊娠した事ないから分からないんだけど、パセリばっかり食べたくなるって、よく分からんけど凄いよね。刺身のツマぐらいしか思ってなかったアレを、食べまくったわけですよ、ペトロシネッラの母は。妊娠のフシギ。
願わくば、ルシアンが持ってるラプンツェルが、問題部分を取っ払った、一番無害な奴でありますように……。
「ラプンツェルの胸には、ラプンツェル型のアザがあるんだそうです」
駄目でしたーー!!
それ、原作のまんまや……!!
原作のパセリっ娘、もといペトロシネッラは胸のパセリを王子に食べさせる訳デス。アザですからね、本当に食べられる訳ではないのはお分かりですね? つまり、そう言う事なんDeath!
いや、もう、グリム童話でも、失明した王子が彷徨った先に男女の双子と暮らすラプンツェルがいたってあるから、二人がそういう関係だったのは明らかなんだけどさ。
原作は胸のパセリを食べさせて愛の饗宴を催しました、って書いてある訳です。
……童話じゃなかったのか?! 童話の定義とは?!
それを持って来ちゃったルシアン。
展開を考えるだけで吐血したい。いっそ吐血して楽になりたいよ、ママン……!
饗宴ですってよ?! 意味はもてなしのさかもり。うん、ここまでならオッケーよ。問題ないのよ。でも、愛が付いちゃうのですよ。愛の饗宴?! ロクでもないよ!
部屋の主人はペトロシネッラなんだから、もてなす側じゃない? だからパセリのアザを食べさせて……?!
……はっ?! これは胸がさほど大きくない私をさりげなくディスって……?!
…………コホン。
「……私にはアザはありませんわ……」
とりあえず抵抗を試みる。オヤクソクヨ!
貴婦人の中には、オトナだからね、私にアザがあるかどうか、お確かめになる? とか、私の何処にパセリがあるのかご存知? とか聞いちゃう猛者もいる訳ですけどね。
それ、私には無理だから!
ルシアンは目を細めて艶然と微笑んだ。
「知っていますよ」
細く長い指が私の頰をなぞる。
ぅあああああああ!
開始十分で危険域に突入の予感であります!
拒絶の筈が知ってる発言でダメージがきた!
それ以上言うてくれるな! という私の願いも虚しく、ルシアンが話し始める。
「ラプンツェルは素直で、大胆ですね」
え? そんな描写あったっけ?
「魔女と違う声に合言葉を言われて、髪を塔の下に下ろすんですから」
それ、ただのアホな子なのと違うかな……。
「美しい髪、美しい歌声、美しい容姿。塔の上にラプンツェルの髪伝いに上がった王子は、すぐさま彼女に求婚します」
王子! 色々しがらみあるでしょ! そういうの大事だから取っ払わないで! 理性も飛ばさないで!
しかもラプンツェルの人となりとか一切無視! 外見重視! 何者なのかも分からないのにイキナリのプロポーズ!
「王子の求婚を受けたラプンツェルは、王子を受け入れて、胸のラプンツェルを食べさせました」
あの……本のあらすじを聞くだけなのに、どうして私ってばルシアンに押し倒されて……いるのかなーナンテ……。
「ミチルの身体を全て知っているつもりでいましたが、考えてみたら、明かりが灯っていませんでしたから、自信がなくなってきました」
いやいやいやいや!?
変な方向に持っていこうとしてるでしょ?!
明るい時にだって、その、あったでしょ?!
「おふざけはお止めになってっ」
押しのけようとするも、びくともしない。
「愛しい妻を愛するんです、ふざけてなんていませんよ?」
「嘘つき……っ!」
し、したいなら、普通に、普通に声をかけてくれれば良いと思うのよ! こんな、童話にひっかけてって……直球で表現しないのも貴族の美徳なんデスよね。言葉遊びと申しましょうか……。
ふふ、とルシアンは笑う。
「愛の饗宴を幾夜も過ごし、ラプンツェルは王子の子を身篭ります。そしてそれが鬼女に知られ、追放される訳ですが……」
原作とグリム童話がぐっちゃぐちゃだよ……。原作は鬼女で、王子とペトロシネッラは二人で逃げる。ここだけ見ると、日本の神話の、黄泉の国に降りてイザナミから逃げるイザナギのような感じで、桃や橘の代わりにどんぐりを投げて逃げ果せる。
グリム童話だと妊娠がバレて、ラプンツェルは追放されて、移住先で王子との子供を産んで生活する。ラプンツェルが追い出されたと知った王子は(ラプンツェルが死んだと思い込み、)あまりのショックで塔から身投げして、その所為で失明する。何年も彷徨って、ラプンツェルの元に辿り着き、ラプンツェルの涙が目に入って王子の目は治り、ハッピーエンドになる。
「ミチル、愛の饗宴は好きですか?」
「?!」
コレは何て答えるのが正解ですか、グー●ル先生!?
「は……」
破廉恥、と言おうとしたら、ぷっ、とルシアンは吹き出した。
「ミチルはブレませんね。これまで何度となく私と愛し合ってきたのに、まだこんな反応をするのだから」
……お、これ、もしかしちゃって、ルシアンのえっちな気持ちを萎えさせたりとか……。
「いつまで経っても可愛い」
駄目でした!!
ブレないのはルシアンの方だよね……。
「ルシアンは、どうしてこんなに私の事が好きなんでしょうね」
ふふ、と笑ってルシアンが頰にキスをする。
「ミチルはいつも理由を欲しがる」
自分に自信がないもので……。
「ルシアンを求める人は世の中に沢山いると思うのです」
そっと手を伸ばして黒く柔らかな髪に触れる。
「ラプンツェルに出てくる王子のように、ルシアンが失明したとしても、私はルシアンが好きですわ」
何かが欠けても。
ルシアンの事が好きだと思う。
貴族社会では、失明してしまったら、後継者から外される。婚約していたとしたら、解消される。
愛より実利を取るこの社会では、ほんのちょっとした事で足元を掬われる。世の中厳しいよね。
「月並みですけれど、私が貴方の目になります、ルシア」
最後まで言わせてもらえないのが最近ルシアンの中で流行っていてですね。
どう言う衝動なのかは不明。
とりあえず、物理的に口を封じられて言えなくされる。
「それ以上言わないで。我慢出来なくなる」
既に我慢してないよね?!
抗議するように視線で訴える。
「していますよ? 十分に。でも、ミチルがそう言うのなら、お言葉に甘えて、我慢を止めようかな」
そう言って笑うルシアンから、絶好調に色気がダダ漏れていく。枯渇しないのかい、ユーの色気は。同じように出したら私の色気は直ぐに枯渇しそうだと言うのに……けしからんイケメンである。
「それにこんな熱烈な愛の言葉をいただいたのに、応えないのは、夫として駄目でしょう?」
まぶたにキスが落ちてくる。
「私のラプンツェル。アザがないなら、作ってあげましょうね。私だけのアザを」
甘い、キスが、降ってくる。強い独占欲と共に。