神の御心とか分かるわけない
……え、それってつまり、オーリーやイリダの民に、創造神を捨てて自分を崇拝しろってことだよね?
こっちの大陸に来てもいいけど、崇拝しないなら魔力の器は体内にできないからずっと毒を受け続けなさいよ、と。
慈悲といえば慈悲なんだろうけど、それって……とも思ったり……いや、でもマグダレナ様はオーリーやイリダの民を強引にこっちに連れてきたわけではないし、改宗しろなんて言ってない。
自発的に改宗して、それが心からのものならば、次世代から加護をあげましょう、その信仰心を続けるならば、って言ってる。
捧げられた祈りは受け取りますよ、と。
受け入れてくれているんだよね。その上で選択させている。しないでもこの大陸で生きていける。
だから慈悲は与えているんだよね、間違いなく。
ただ、そう、無条件じゃないってことで。滅びの祈りだってそうだもんね。マグダレナ様はマグダレナの民以外の全てを消し去る祈りを授けているんだから。いざとなれば、必要になれば滅ぼすといってるわけで。ただ、攻めてこなければよかった。長い間マグダレナの民以外が大陸に住むことだって許してきた。
そう考えれば十分優しい。でも、仏の顔も三度までと言うように、マグダレナ様の堪忍袋の緒が切れたって言われてもやむなし……。そうだよねぇ……。侵略だったもの……。
悪者を退治したからハイ、終わり、とはならないんだよねぇ……。それはなんていうか、加害者側の勝手な都合っていうか、願望っていうもので、被害者側からすればなかったことにはならない。
そう、なかったことにはならないんだよね。
……で、怒ってるマグダレナ様はあっちにも魔素を広げた、と言うのもなんというか仕方ない気がするよね。
慌ててオーリーが対策に乗り出してきて。加害者として罰を受けるのは当然だと思ったとしても、国として、民を守るために行動に移すよね、それは……。
その上でオーリー神を捨ててマグダレナ様に信仰を寄せる、っていうのはもうしょうがない。
しょうがないって、私たちは思っちゃうけど。
「……オーリー神は己が民の裏切りを許すのでしょうか」
「それは分からないわ。けれど、二千年」
静かな部屋に、扇子をパチリと閉じる音が響く。
「二千年も民に背を向け続けたのだから、捨てられてしまうのも仕方のないことなのではないかしらね」
うーん、それはそうなんだけど。
それはなんていうか、人の感覚っていうか。
オーリー神って脳筋だよね、いわゆる。思考がめっちゃシンプルなんじゃないかって勝手に想像してるんだけどね。白黒はっきりしてる、の言い方のほうが語弊がないかな。ダヴィドはマッチョだけど頭脳派でもあるから、脳筋一括りは失礼だったなと反省。うむ、ミチル反省です。頭脳派マッチョもいるね、うん。
オーリーとイリダの民は戦いました。どちらが優れているかを証明するために。結果として卑怯な手段だったとしても、オーリーの民はイリダに負けました。
負けは負けだと考えて、イリダの支配下にあるのはやむなし、とオーリー神が考えたら?
それとマグダレナ様の下に入るのは同じなのかな?
「あの時の戦いは、マグダレナの民とオーリーの民の戦いと認められるのでしょうか?」
「……今の女神の行いを、オーリー神が侵略と受け止めるのではないか、レイはそう言いたいのかしら?」
「神の御心を私如きが推し量ることなどできようもありませんが……」
でも、マグダレナ様の怒りも分かる。
ユーの民をずっと受け入れてきたのに、なに攻めてきちゃってんだYO! ってことだから。
あの時だって思うところはあるって言ってたし。
……え、これ、どうするのが正解なの?
「これまでのマグダレナの民は守りに徹していました。ですがあの時の戦いを受けて、それだけでは駄目だと認識した」
祖母を見る。
「それだけのことですよ、レイ」
にっこり微笑む祖母。
祖母、怖い。
隣のルシアンを見る。こっちもにっこり微笑んできた。
夫も、怖い。
屋敷に戻った私は久々の体育座りです。
仕方ないって思ってたけど、知れば知るほどリアルに迫ってくるものがあって、気持ちが落ち着かない。
「どうしようもないんじゃないかしら?」
ほうじ茶ミルクティーの入ったカップが置かれる。
「そうなのかもしれないけれど……」
でも戦争とか起きたり、オーリー神がビームとか放ったら被害に遭うの一番弱い存在じゃないですか。
脳内でマグダレナ様と筋肉ムキムキ?なオーリー神がケンカをしている姿を想像する。こんな感じでそちらでお話し合いをですね、していただけないかな、なんて思ってしまう。
力では負けちゃうよね、なんの力かさっぱりだけど。単純な筋力じゃなくって、神力っていうの? 知らんけど。それがたっぷりあればマグダレナ様が負けないのだとしたら。
「祈りましょう!」
そうだそうしよう! それがいい!
ミチル心込めまくって歌います!
マグダレナ様応援し隊ですよ!!
なんかもう頭働かなくなってきた!
兄妹間でおハナシ合いして欲しい!!
「熱でもあるの?」
ひどっ! 祈りは毎日してるじゃない?!
「その考えに至ったのは祈りが女神の力になるからなんでしょうけど」
ソウソウ、ソレソレ。
首振り人形よろしく、コクコクと頷く。
「一番良いのは、戦いにならないことよ」
ぐぅ、正論……。
「それは、そうだけれど……いざという時のための備えは必要でしょう」
勿論よ、と頷いてセラもお茶を飲む。
「女神はオーリーの民を支配したいと本当に考えているのかしら」
「魔素はただの嫌がらせということ?」
命かかってるからね、嫌がらせが重い。
ただこっちは侵略されかけたりもしたから、それに対してやり返したのだとしたら全然軽くないっていうか、至当なんじゃないのって思っちゃう。
「オーリーの民がマグダレナ様に宗旨替えしなければ問題は解決するのかしら……?」
でも魔素があるっていうし、魔素を魔力に変える人たちを沢山派遣して、できた魔石をあっちのギルドで販売、とか!
……前世では信仰の自由があった。その所為なのかなんなのか、オーリーの民がマグダレナ様を信仰してもいい気がスル。逆も然りで、マグダレナの民がオーリー神の筋肉に惚れたっていいんじゃないの。
ミチルの中でオーリー神=マッチョ、って決めました。
……でも、魔素だったり、この大陸特有の特性を考えるとそんな簡単な話でもなかったりして……。
「人類皆兄弟」
「熱でも出たの?」
むしろ熱を出して寝込んで、目覚めたらすべて解決していて欲しい……。