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転生を希望します!【番外編】  作者: 黛ちまた
イケメンカフェ リターンズ?
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お守り

「ミチル様のお話を伺うまでは、この大陸の民があちらの大陸に誘惑されないように、なんて思っていたんですけど、色々と整ったらあっちからこっちに来たがるかも知れませんね」


 調子の良いことをダヴィドが言う。それだけ順調ってことなんだろうけど。


「軽口言ってないで、現状を報告しなさいよ」


「はい」


 セラに促されてダヴィドが説明してくれる。


 カフェの店員ウェイトレスがなかなか決まらないらしい。それはアレですか、性別無視したうちの執事の所為ですかね?

 とは言え、時間がかかってはいるものの、少しずつ決まっていってるみたいなんで、ヨシ!

 歌劇オペラ場の場所、演者、衣装、とにかく色んなものが必要な訳ですが、どんどん進んでいってるらしいです。最初は興味がなかった貴族達も、己の領地の特産品が使われるかも知れないとなって目の色が変わったらしい。

 皇国だけ潤ってもなーと思っていたら、ギルドに加入している皇国圏内の王国の特産品もその対象に入ると教えられた。ははぁ、特産品って地元では当たり前すぎてあんまり売れなかったりするけど、他国からすれば珍しいものだったりするもんね。

 外貨獲得のチャンス到来となれば、ギルド加入をしぶる未加入国と加入済みの国との格差が広がりそうだよね。

 ミュージカルの方は楽しさと安さを第一の売りにするらしく、街の広場でやるらしい。

 楽器の文化はあるにはあるんだけど、前世のようなオーケストラはない。これから出来ていくのかな。

 絵画とかもそう。平民は描いたりしないんですよね。画家は貴族の男性がなるもの、という暗黙のナニカがあるんですよねー。

 平民の子供向けに学校作る予定だから、そこで絵を描くのとか、音楽とかを教えていきたいなー。女性も画家になってもいいと思うんですよー。

 才能が遺伝する家系もあるけど、突然生まれた才能だって大事ですよ。


 才能がある人を見つけるのも大事なんだけど、普通の人達のほうが圧倒的に多い訳で。(私のようにね!)

 普通の人でも安心して暮らしていける世の中が目標だけど、上手くいかないんだろうなぁ。

 安定すると大体の人は刺激を求めるっていうか、自分の置かれた状況が当たり前だと思って感謝しなくなるんだよね。


「欲は際限のないものです。完成すればそれで終わりではないということを簡単に失念します」


「そうよねぇ」


「順応性があるのは良いことですけどね、当たり前はよくありません」


 祖母やゼファス様が作り上げようとしているこの大陸の平和を、当たり前だと思ってくれていい。ただ、当たり前のことを維持するのも大変なのだと理解してもらわなくてはならない。

 毎日の食事が魔法で生まれるわけではなく、多くの時間や人の手間を経てそこにあるんだということを。

 ……なーんて偉そうなことを考えているけど、前世ではお店に行けば新鮮な飲み物や食べ物が買えた。そのことにすぐに慣れて、それ以上考えなかった。

 いや、本当に申し訳ない。

 それが悪いとは思わない。そういうものだ。時折思い出して感謝するけれど、ずっと意識なんて土台無理な話なんですよ。


 チラ、とセラを見る。


「どうしたの?」


「セラ、いつもありがとう」


「どういたしまして?」


 よく分からないまま返事をしているだろうセラに、笑ってしまう。

 視線を感じる。ダヴィドだろう。

 見ると目をキラキラさせてダヴィドがこっちを見ていた。

 犬っぽい。


「ダヴィドも。私にもルシアンにもよく仕えてくれていますね、ありがとう」


 振り返りありがとう、と言うと、アウローラはにっこり微笑んだ。

 皆がにこにこするから気恥ずかしくて窓に目をやると、ちょうど羽ばたいている鳥が見えた。

 春が近い。

 ラトリア様がマグダレナ大陸を出発する日取りはもう決まっている。

 必要なことだと分かっているけれど、あちらに行ってしまったら、ラトリア様にもう二度と会えないかも知れない。


 お義父様はラトリア様の血筋を残す道筋を作ってくれた。マグダレナ大陸から出て、あちらで第二のアルト家を作る。そうすることでオーガスタス様も、おなかの中の子も守られる。

 あの時は人でなしって罵って申しわけなかったけど、でも実際人でなしだよな、とは思う。


 下手だけれども刺繍をしてお守りを作った。

 近いうちに皇城で祖母からラルナダルトの話を教えてもらうときに、ついでにゼファス様にこのお守りに祈ってもらうんだ。なんか私よりゼファス様の祈りのほうが効果ありそうだし。ルシアンに頼んだら逆効果の祈りが込められちゃいそうだし。


「そのお守りにゼファス様の祈りを込めてもらいたいんだったら、ゼファス様のも作ったほうがいいと思うわよ」


 セラがお守りを見て言う。ダヴィドも頷く。


「ゼファス様に祈っていただくのに、ゼファス様の分も作るのはおかしいのではなくて?」


「拗ねるもの」


 拗ねる。


「間違いなく」


 間違いない?


「まさか、ルシアンではないのですよ?」


 いくらゼファス様が天邪鬼だからってそんな。

 むしろゼファス様のではなくルシアンのを作ったほうがいいのではないかと思えてくる。


「ルシアン様のも作ったほうがいいわよ」


「ラトリア様の無事を願うなら絶対に作ったほうがいいです」


 釈然としない。ルシアンならまだしも、ゼファス様はそんなやきもちなんて焼かないでしょ。

 大体どこにも行かないんだから必要ないし。




 セラとダヴィドに何度も言われてしまい、仕方なくゼファス様とルシアンのお守りも作った。

 二人はどこにも行かないんだから、交通安全というか、安全祈願のお守りは不要。

 ゼファス様のは健康祈願にしておいた。亜空間に繋がっていると思われるアイアンストマックだけど、なにがあるか分からないからね。

 ついでに祖父母のも作って、二人のは長寿祈願にしておいた。

 一番悩んだのはルシアンので、なにを願ったらいいのか分からん。

 満願成就とかにしたら私にもなにやら影響がありそうだし……長寿を願うには早いし、悩んで、色んな含みを持たせて家内安全にしておいた。

 大事だよネ、家内安全……。


 お守りを誰よりも先にルシアンに渡す。

 他の人を優先すると大変なことになるからね。学習しましたよ、私は……。


「これは、お守りですか?」


「そうです。ラトリア様にお守りを作ろうと思いたちまして、ルシアンにもと」


 私の下手な刺繍の刺さったお守りを手に、ルシアンが微笑む。


「ありがとう、ミチル。肌身離さず身につけます」


「気にいっていただけたなら嬉しいわ。必要があればまた、作ります」


 刺繍を撫でながら、「出来ましたら、次は満願成就でお願いします」とおっしゃる。

 敢えて避けた満願成就を指定してきた!


「……叶えたい願い事があるのですか?」


「えぇ、なんとしても叶えたいものが」


 笑顔が仄暗い。さすが腹黒。アルト家の男。

 ……コレ、聞いちゃあかん奴や。


「ミチルにも関係ありますよ」


 教えてくれなくてイインデスヨ……。


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