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転生を希望します!【番外編】  作者: 黛ちまた
リュドミラ書庫もしくはなってみたシリーズ
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白雪姫

ちょっとだけ本編が行き詰まっているので、気分転換にリクエストのあった白雪姫です。


ある王国に、それはそれは美しいお姫様がおりました。

その肌の白さ、頬紅も付けていないと言うのに、うっすらと薄桃色に色付く頬。形の良い唇。誰もが美少女と表現する姫がいました。

あまりの色の白さと美しさから、白雪姫と呼ばれています。名をミチルといいます。


父であるゼファス王は年若い妻を仕方なく娶ります。ダイナマイツで、グラマラスな、ワガママバディの持ち主であり、顔も美しい女性です。名前をシンシアといいました。

ですが政略結婚であった為、夫婦仲は全然良くありません。

父王は暇を見つけては白雪姫の元にばかり入り浸っており、王妃は怒りを募らせていきます。そんな彼女の心の支えは、魔法の鏡との会話でした。


「鏡よ鏡、教えなさい。この世で一番美しいのは誰?」


自分と言わせようとしてるな、と魔法の鏡は思いましたが、そこは長く生きている道具として、壊されない為に忖度を……


『ゼファス王です』


「…………え?」


『この世で一番美しいのはゼファス王です』


忖度はしないポリシーのようです。

それにしても、まさか夫が一番美しいと言われるとは思っていなかった王妃は、呆然とします。

……が、己に都合の良い思考回路を持つ彼女は、聞き方を変えます。


「鏡よ鏡、教えなさい、この世で一番美しい女性は誰?」


『グラドル部門においてはシンシア様がダントツですが、アイドル部門ではスノーホワイトです』


「なによその、グラドル部門って?!」


『タイプが異なりますから、比較のしようがありません』


……怖いもの知らずの鏡のようです。


鏡はその後もクールビューティー部門だとか、色々言っていましたが、王妃はもう聞いていません。

同い年の白雪姫への怒りがふつふつとわいてきます。


──美しさだけでなく、夫の愛まで……!


完全な逆恨みも甚だしいです。そもそもの順番がおかしくなっています。


王妃は裏仕事に長けた猟師を呼び付けて言いました。


「スノーホワイトを森に連れて行って殺して頂戴。殺した証に肝を持ってきなさい、これは命令よ」


無理だ、と猟師は思いました。

王は白雪姫を溺愛しており、影まで付けている程です。

かと言って王妃の命令を無視すれば己の命が危ない。

それで素直にゼファス王に告げ口をしました。


「…………馬鹿なのか?」


ため息を吐くと、王は猟師に言いました。


「一週間待て。準備が整い次第呼ぶ」




ゼファス王からOKが出た為、猟師は白雪姫を連れ出します。王からの命令はこうです。


"森の奥にミチルを匿う為の小屋を用意した。王妃には適当に仕留めた獣の肝を渡せ"


白雪姫を連れて森の奥に向かいます。そこにはかなりガッチリした作りの小屋がありました。


「姫、ここには小人が住んでおります。王妃様に命を狙われた貴女様も、ここでならバレずに暮らせる事でしょう」


白雪姫は自分が継母となった王妃に疎まれている事は分かっていました。とは言え、命まで狙われるとは思っていなかった為、さすがに今回の事には衝撃を受けていました。


小屋の前で猟師と別れ、恐る恐る敷地内に入ると、突然小屋の扉が開き、白雪姫は強引に引き摺り込まれます。


「?!」


気が付けば椅子に座らされており、自分は見知らぬ者達に取り囲まれております。


──小人って言わなかった……?


どう考えても立派な大人が七人。白雪姫を取り囲んでいます。突然の事に戸惑う白雪姫に、リーダーらしき人物が名乗りました。


「ワタシはセラ。一応ここを取り仕切ってるワ☆」


セラは他の者達を紹介してくれました。

オリヴィエ、アウローラ、クロエ。この三人は女性です。


──良かった。女の人が四人いる。


どう見ても女性にしか見えないセラですが、れっきとした男性です。……が、それはさておいて紹介は続きます。

何故か一人だけ長老格の男性がいます。ニヒトというそうです。あまりにいぶし銀な雰囲気に、白雪姫は心の中で銀さんとあだ名を付けました。

黒髪黒瞳の青年と、銀髪赤瞳の青年は、それぞれロイエとアビスといいました。


白雪姫は全然小人じゃない七人と共同生活を送りました。

女の人だと思っていたセラが実は男の人だったり、初めての市井の生活に目まぐるしく日々は過ぎていったのです。


鏡は白雪姫が城から出て行った後もずっと、白雪姫の名を口にし続けました。(アイドル部門トップが白雪姫じゃなくなったとしても、自分がアイドル部門に入る事はない、と言う事に気が付けていない王妃でした)

スノーホワイトがまだ生きていると知った王妃は何人もの刺客を送りますが、それは全て、白雪姫の周りにいる七人によって、白雪姫の知らぬ間に片付けられていたので、白雪姫は何も知らないままです。


しびれを切らした王妃は、城に勤める薬師に毒を持ってくるように命じました。

王妃は薬師から受け取った毒を込めた林檎を手に、森に住む白雪姫の元へ行こうとします。それを、薬師が引き止めます。


「そのままの姿では直ぐに白雪姫にバレてしまいます。どうぞこれを」


王妃の前に差し出されたのは小さな小瓶。赤い色の液体が入っています。


「これを飲めば見た目を変える事が出来ます。王妃様だとバレる事はないでしょう」


満足気に微笑んだ王妃は、ローブを目深にかぶり、城から少し離れた場所で見た目を変える薬を飲みました。

胸が熱くなり、顔が熱くなりましたが、直ぐに収まりました。流れる川に自分の顔を映すと、そこには醜い老婆がいました。


──これなら私だと分からないに違いないわ。




珍しく小屋で一人、留守番をしていた白雪姫は、椅子に腰かけて編み物をしていました。

すると、誰かがドアをノックします。


「はぁい」


ドアの穴から外を見ます。

そこにいるのは老婆です。

ドアを開けると、老婆が言いました。


「林檎を買ってくれんかね、とても美味しい林檎じゃよ」


「ごめんなさい、私、お金の持ち合わせがないの」


「そうかい。それは残念じゃ。そうだ、一つあげよう。とても甘くて美味しいよ」


強引に林檎を渡され、白雪姫は戸惑います。

小屋で暮らしていますが、姫として育っていますから、そのまま林檎をかじるなんて出来ません。


「では、あとでいただきますね」


何としても目の前で白雪姫に林檎を食べさせたい王妃は、自分が剥いてあげようと言って、林檎の皮を器用に剥いていきます。正直にそのナイフで白雪姫を刺した方が早いとは王妃自身も思ってはいましたが、それだと足がついてしまうかも知れないし、せっかく作ったのだから絶対食べさせたいと思ってしまったのです。


「いただきます」


林檎をひと口食べた白雪姫は、その場に崩れるように倒れました。その姿を見て王妃は高笑いをすると、小屋を出ていきました。

そして、城の近くに戻りましたが、いつまで経っても薬の効果が切れません。


城から出て来た薬師を捕まえ、何とかしろと詰め寄ります。すると薬師は笑って言いました。


「本当に使ってしまうとは思わなかったよ」


「いいから早く直しなさい!」


薬師はふふふ、と不敵に笑うのです。


「私はひと言も、元の姿に戻れるとは言っていないけれどね?」


その言葉に王妃は衝撃を受け、へたりこみました。


「誰も今の貴女を見て、王妃だとは思わないだろうね」


愕然とした顔で薬師を見上げます。


「過剰な欲は身を滅ぼすとは、よく言ったものだ」


そう言って薬師はいなくなってしまいました。

王妃だった女が、その後どうなったのかは不明です。




全然小さくない七人が小屋に戻ると、白雪姫が倒れています。


「予定通りとは言え、良い気分はしないわぁ」


セラがため息を吐きながら白雪姫を抱き上げるとベッドに寝かせます。


「オリヴィエ、アウローラ、クロエ、姫の身支度をお願いするわね。ワタシ達は準備をするから」


三人は頷くと白雪姫を着替えさせます。

他の七人は姫を納める為の棺を準備していきます。

花をたっぷりと敷き詰め、真っ白いドレスに着替えさせられた白雪姫は、棺に納められます。


そこへ、馬に乗った青年が訪れました。

黒髪に蜂蜜のような金色の瞳をした青年です。


棺に納められた白雪姫を見て、青年は衝撃を受けます。

そこにいたのは、幼い頃に将来を誓い合った婚約者だったからです。

青年は隣国の第二王子であり、白雪姫と結婚してこの国を継ぐ事になっていたルシアン王子でした。


たまには婚約者に会って来いと父王に言われ、白雪姫に会いに来てみれば、こんな森の中で婚約者は息絶えているではありませんか。

本当は会いたくて会いたくて堪らなかったのに、父親が駄目だと言うから必死に王子としての職務を遂行し、ようやく会えると思った矢先でした。


「……一体何があったのか教えてくれ」


セラが説明します。

嫉妬に駆られた王妃が白雪姫に毒の入った林檎を食べさせたのだと。

怒りにルシアン王子の身体が震えます。


懐から黄色い液体の入った瓶を取り出すと一気に口に入れ、白雪姫を抱き起こし、口付けます。

王子は唇を離すと、白雪姫の頬を優しく撫でます。


日が暮れても、王子は姫を離そうとしません。

セラ達が強引に小屋に連れて行っても、王子は姫を腕から離しませんでした。




翌朝、白雪姫はイケメンの腕の中で目覚めました。

金色の瞳が、じっと自分を見つめています。よだれを垂らしてなかったか心配になった白雪姫です。


「ミチル姫……良かった……」


「……ルシアン様……?」


──謎の老婆から林檎をもらって食べたのは覚えてるけど、どうしてルシアン様がここに……?


目覚めた白雪姫と王子に、セラが説明しました。


王妃が白雪姫の命を狙った為、白雪姫を城から出して、その間に王妃を失脚させる為の準備をしていたのだと。

あれでいて王妃はそれなりに大きな国の皇女なのです。嫌い、じゃあ離婚、とはいかなかったのです。

城から白雪姫を遠ざけても王妃は白雪姫の命を狙い続けました。白雪姫を守る為に用意されたのがこの小屋であり、七人の従者だったのです。


王妃に毒を渡したのはルシアンの父王でした。

このままでは友人の娘である白雪姫が王妃に狙われ続ける。その所為で白雪姫と王子の婚姻が先延ばしになる事を危惧し、元から王妃の出身国をよく思っていなかったのも手伝って、ゼファス王に言って薬師の振りをしていたのです。

騙された王妃は毒を林檎に入れましたが、その毒は眠り続けると言うもので、解毒薬でしか眠りをさます事が出来ないものでした。

その解毒薬を息子であるルシアン王子に持たせ、たまには婚約者に会って来い、と何食わぬ顔で追い出したのです。


王妃を完全に罠に嵌める為、顔が変わる薬をそれらしい事を言って飲ませる事に成功します。飲まなかった場合には別の手法で王妃が城に戻れないようにはするつもりでした。


こうしてルシアン王子の持つ解毒薬により白雪姫は無事に目覚めました。

城からの迎えも到着し、七人の小さくない人たちを伴い、ルシアン王子と白雪姫は城に戻れたのです。


二人の結婚式は盛大に行われ、晴れて夫婦となったのです。ですが二人はたまに、この小屋にやって来ます。

姫の事が好き過ぎる王子は、二人きりになりたくなると姫を連れて小屋に来て、姫を閉じ込め、独占するのです。


「愛してます」


溺愛に免疫のない白雪姫ことミチル姫は、ルシアン王子に今日もドロドロに甘やかされています。


「私のミチル」


溺愛にまだ慣れていないミチル姫は、覚束ないながら何とか夫の想いに応えようと必死です。


「わ、私も、ルシアンが好きです」


「愛ではないの?」


意地悪く王子は笑い、姫に口付けます。


「愛してると言わないのは、私の愛が足りない?」


「そっ、そんな事は……っ!」


「沢山、愛を確かめ合いましょうね」


耳まで赤く染めた姫は、口をぱくぱくさせたまま、今日も王子に押し倒されるのでした。



めでたしめでたし。


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