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秘宝の乙女は海賊に囚われる  作者: 柘榴アリス
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星空

空には美しい星が煌いていた。綺麗…。まるで宝石みたい。そう思いながら、見とれていると、

―見て!イリス!星がとっても綺麗!

昔…、姉と二人で星を見ながら楽しく語り合った日々を思い出した。甲板に出たイリスは空を見上げた。それは、昔姉と一緒に見た星空のように美しかった。

「アラン。」

声を掛けられ、振り向くとシリウスが立っていた。

「シリウス様。どうしましたか?何かあったのですか?」

「いや。用はないが…、お前の姿がないから気がかりになって…、」

―私を…、捜していた?シリウス様が?

「また、グレンやデリック達に絡まれていないかと思ったが…、大丈夫みたいだな。」

「は、はい!大丈夫ですよ。今日は忙しい位ですから声を掛けられる事もありませんでした。」

「今日はこき使われて疲れただろう。早く休むといい。」

「大丈夫です。逆に色んな仕事ができて楽しかったですよ。一日があっという間に過ぎてしまいました。…もう少しだけ星を見ていたいんですが駄目ですか?」

「星…?」

「はい。今日は特に星空が綺麗なので折角だからもう少し見ておきたいなと思って…、」

シリウスは夜空を見上げた。

「成程…。確かに美しいな。…今まで星を見るなんて、思いつきもしなかったが。悪くない。」

イリスはシリウスを見上げた。

「いつもこんなに綺麗な星を見ることができるのに勿体ないです。」

「…そう、だな。」

ぽつりと呟くシリウスはどこか遠くを見ている様で何だかその姿を見ているとイリスはギュッと胸が締め付けられた。

「シリウス様…?」

「昔、お前と同じ言葉を言った人がいた。それを…、思い出しただけだ。その人も今のお前と同じように星を見るのが好きな人だった。」

「大切な人なのですか?」

「ああ。」

懐かしむように目を細めるシリウスにその人に対する想いの深さが伝わる気がした。その時、急に強い風が吹いた。その冷たさにイリスは思わずくしゃみをしてしまう。すると、シリウスが着ていた上着を脱ぐと、

「これでも着ていろ。何もないよりはましだろう。」

そう言って、イリスに自分の上着を羽織らせた。

「え…、でも…、それじゃあシリウス様が…、」

「海の夜風は身体に冷える。お前はただでさえ船旅に慣れていないんだ。体調でも崩したらどうする。俺は慣れているから気遣いは不要だ。」

「あ、ありがとう…、ございます。」

イリスはシリウスに羽織らせてもらった上着の裾を掴んで前でかき合わせた。シリウスはもう一度、星を見上げた。

「いつ以来だろうな…。こうして、星を眺めるのは…。」

シリウスはぽつりと呟いた。

「シリウス様はあまり、星を見られなかったのですか?私は、よく自分の部屋のバルコニーや窓から星を見ていましたよ。」

「…ああ。星を見たいという思いすらなかった。そんな余裕もなかったからかもしれない。」

イリスはシリウスを見上げた。

「だが、まだ俺が幼い頃はそうでもなかったな。その星好きの人と一緒に毎晩のようにこうして、夜空を見上げたものだ。星が好きなだけあって、星座に詳しい人だったからたくさんの事を教えてもらった。」

そう語るシリウスの表情はいつもより柔らかく、優しい色を含んでいた。何だかイリスはシリウスの心の距離が近付けた気がした。

「楽しそうですね。そういえば、私もよく姉と一緒に星を見たりしました。夜空に浮かんでいる星を指さして星座の名前をつけたりして遊んだりして…、とても楽しかった…。」

「確かに…、それは楽しそうだな…。」

フッとシリウスは微笑んだ。イリスはその優しい微笑みにドキリ、とした。イリスはそれを誤魔化すように慌てて会話を続けた。

「あ、あの…!良かったらこれからも時間がある時はこうして、星を見る機会を作りませんか?そ、それで…、折角の綺麗な星を一人で見るのは勿体ないなので…、その…、」

イリスはその先の言葉が恥ずかしくて中々言い出せない。が、イリスが言うよりも前に

「…悪いが夜は俺も必ず時間が空いている訳ではないから必ずしも時間を割くことはできない。」

「あ…、そ、そうですよね…。」

最近のシリウスの態度からもしかしたらと思ったがよく考えてみれば彼は幹部であり、船医で忙しい身だ。船長に頼まれて古代語の解読や薬の調剤もしている。そんな彼に貴重な時間を自分の為なんかに作るのは難しいに決まっている。イリスはシリウスの言葉にシュン、と落ち込んだ。が、シリウスは続けて言った。

「だが…、用がない時以外なら時間を空くことは可能だ。その隙間時間でいいならたまにこうして、星を見ることもできる。それでどうだ?」

「…!は、はい!勿論!」

途端に先程までのしょんぼりとした様子からぱああ、と顔を輝かせるイリスを見てシリウスはフッと笑い、

「全くお前は…。見ていて、飽きないな。」

そう言っておかしそうに笑うシリウスにイリスはそんなに分かりやすかったかな?と恥ずかしくて顔を赤くした。そんなイリスを見てシリウスは眩しそうに目を細め、

「お前は本当に思っていることがすぐに顔に出るな。…疑っている自分が馬鹿らしくなる位に。」

「え?あの…、すみません。最後の方よく聞き取れませんでした。何と仰ったのですか?」

「いや…。大したことじゃない。気にするな。」

「そうですか?」

シリウスにそう言われたら、きっと本当に大したことではないのだろうと思い直した。

そんな二人の姿を物陰からじっと見つめる人影があった。

「船長?どうしました?」

「あれを見て。ミハイル。」

ミハイルが指さした方向を見ると、そこには甲板でシリウスとアランがいた。星を見ているのだろうか。アランが楽しそうに何かを指さしてシリウスに話しかけている。

「シリウスのあんな顔、私初めて見たわ。…あんな風に笑えるのねえ。」

そう。シリウスが笑っているのだ。彼はあまり笑わない男だった。笑う時もあるがそれはどこか冷笑のような嘲笑のようなものでしかなかった。笑っているといっても微かに口角を上げている程度のものだったが柔らかい表情を浮かべていた。そんな表情はメアリー達でも目にしたことがなかった。

「あの子の影響かしら?ねえ、ミハイル。」

「さあ…。私には…、」

ミハイルはそう答えながらもイリスに視線を移す。シリウスに対して、信頼と尊敬の眼差しを向けているイリスにミハイルは眼鏡の奥の瞳を細めた。

「シリウス様。あれは、何という名前の星座ですか?」

「どれだ?」

「ほら、あそこの…、」

「シリウス。」

シリウスに星座を教えてもらいながら二人で星を眺めていたが話しかけた人物がいた。振り向けばそこにはミハイルが立っていた。

「船長がお呼びです。」

「船長が?」

シリウスははあ、と溜息を吐くと

「…すぐ行く。アラン、お前もそろそろ部屋に戻れ。」

「はい。」

そして、シリウスはミハイルと一緒に行ってしまった。その後姿を見送る。イリスはシリウスの上着を着たままだったことに気づいた。しまった。行く前に返せばよかった。が、イリスはやっぱりもう少しだけこの上着を着ていたい気もした。何だかシリウスの温もりに温まれているかのようだからだ。

―あったかい…。あ…、薬草の匂いがする。

シリウス様らしいとイリスはくすり、と笑った。ほっこりした気持ちでイリスは部屋に戻ることにした。部屋の扉まで行き、扉を開けようとした時だった。

「アラン。」

呼ばれた声に顔を上げればそこには、ミハイルが立っていた。

「あ、ミハイル様。どうかされましたか?」

「シリウスが忘れ物をしたそうなのです。あなたに届けて欲しいと言付けを頼まれましたので。」

「私に?」


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