衝撃の事実
「はあ…。」
イリスは溜息を吐いた。シリウスと取引をしてからというもの、何も進展がない。姉の手がかりが何も掴めてないのだ。このままここにいても、意味がないのではとイリスは落ち込んでいた。そう思っても現状を打開する力はイリスにはないのだが。
―シリウス様の元から逃げるにしても、この船の上だし…、それに、他の海賊達だって怖いし…。
「アラン。」
「は、はい!?」
いきなり、話しかけられイリスはびっくりしながらも返事をした。シリウスはそんなイリスに薬草の入った箱を渡し、
「これを部屋に持って帰って片付けておいてくれ。俺は船長に呼ばれたので行ってくる。」
「あ、あの!」
いつもなら、大人しく頷くイリスだったがこの時は違った。イリスは焦っていたのだ。今、この何もできない状況に。
「あ、姉の事なんですが…、や、やっぱり何か少しでも手がかりを掴みたいんです。だから、その…、」
「アラン。それは部屋で聞く。今はその話はするな。」
「で、でも!」
シリウスにひたと見つめられる。それだけで威圧感があり、イリスは押し黙る。
「いいな?」
「…はい。」
結局頷くしかイリスにはできなかった。
「ふーん。」
そんな二人の姿を物陰から面白そうな表情で見ていた人影がいた。
「よお。アラン。」
「え、あ…、」
シリウスと別れて部屋に戻ろうとするイリスに声を掛けたのはグレンだった。会釈をするイリスに二人は近づき、
「ここでの生活は慣れたか?お前、船旅は初めてなんだってな。あいつの世話係は大変だろ。無愛想だし、融通は効かないし、堅いしで。」
「あ、ありがとうございます。でも、大丈夫です。シリウス様も不慣れな私によくして下さってますし…、」
「そうか。そうか。そうだ。そういえば、お前の歓迎をまだいていなかったよな。良かったら、これから一杯どうだ?」
「えっ?」
「いい酒が手に入ったんだ。特別にお前にも飲ませてやる。」
「えっ、あ、あの!ちょっと!?」
断る隙も与えずにグレンに腕を引かれ、そのまま彼らに連れていかれてしまった。
「さあ!遠慮しないで飲め!」
イリスは注がれた酒に困惑した。実はイリスが酒が飲めない。そういえば、海賊は酒好きで酒乱だと聞いたことがある。しかも、ブランデーとかラム酒といった強い酒を好む傾向にあると。初心者のイリスにとってはかなりハードルの高いものだった。けど、断ると気を悪くさせてしまうかもしれない。イリスは覚悟を決めて一口酒を口にした。その瞬間、喉がカッと熱くなり、咽こんでしまう。咳き込むイリスにジャミールは呆れた視線を投げかける。
「ほら、見ろ。グレン。だから、言ったんだ。こいつにはまだ早いって。見ろ。こいつ、涙目じゃねえか。」
「何、言ってんだ。海賊になるならこれ位、今のうちに慣れとかないと駄目だろ。それに、どうせ野郎と飲むならまだ女顔のこいつと飲んだ方がまだマシだろ。」
好き勝手に言う二人の言葉は激しく咳き込んで呼吸を整えるイリスの耳には入らない。
「アラン。女なら酒に弱いのはまだ可愛げがあるけどな。男が酒に弱いとモテねえぞ。」
グレンの揶揄うような言葉にイリスは戸惑った視線を向ける。どう答えればいいのだろうか。
「ああ。もしかして、お前ってそっちの気か?だから、女にモテなくてもいいって?ってことは…、シリウスともう寝たのか?」
「なっ!?ち、違います!そんなのある訳ないです!」
必死に否定するイリスにジャミールが窘めた。
「よせよ。グレン。こいつ、本気にしているぞ。」
「ああ。悪い。何かからかい甲斐のある奴だから、つい…、」
「それに、アランは人捜しに夢中でそれどころじゃねえんだろ?」
イリスは顔を上げた。何故、それを…、そんな疑問に答えるようにジャミールが言った。
「聞いたぜ。お前、姉を捜す為に海賊船に入団したんだってな。お前の姉ってことは顔が似てるんだろ?だとしたら、結構、いい女なんじゃねえの。」
「へえ。そうなのか!お前の姉って幾つなんだ?」
イリスの姉に興味を示した二人。何となくだがあまりいい意味ではない気がする。二人の好色な視線にイリスはそう感じた。
「姉は私より…、四つ年上です。小さい頃に生き別れてしまって…、でも、私と姉は全然似てないんです。姉はどちらかというと、華やかな美人で…、」
「ほおほお。お前と同じ珍しい髪をしているのか?」
「いえ。姉は鮮やかな赤い髪をしていて…、瞳は琥珀色で…、」
その時、イリスはふと気が付いた。
「あ、あの…、そういえばここにわたしが来る前は赤髪の女性がここに乗っていたと聞いたんですけど…、」
「ん?…ああ。そういえば、いたな。」
「そ、その人はどうなったのでしょうか!?どうして、今ここには…、いないのでしょうか?」
イリスはずっと気になっていた。この船に乗るきっかけになった噂の真相を。赤髪の女性の行方を…。シリウスは詳しく教えてはくれなかった。でも、もしかしたら…、そんな希望を持ったが
「確かに赤髪の女はいたけど…、多分人違いだと思うぜ?だって、そいつは魔力持ちの女だったし。」
「魔力持ち…!?」
「まあ、魔力持ちとは知らなかったけどな。あの女が暴走して初めて魔力持ちだと知った位だし。」
「暴走?」
「ああ。アランは知らないのか。魔力がある人間はな、感情のコントロールが利かなくなると魔力が暴走するんだよ。そうなると、周囲を巻き込んで大惨事を引き起こす。聞いたことないか?突然変異の自然災害や火事や嵐みたいな異常気象による被害…。あれって、あんまり知られてないけど実は魔力が暴走したことが原因だったりするのがほとんどらしいぜ。」
「えっ?じゃ、じゃあ…、その女性が暴走したって…、」
「魔力持ちとは知らないで船員の一人がその攫った女を襲ったんだよ。面倒な事に処女だったから魔力が暴走しちまって…、魔力持ちでも女が純潔を失うと魔力が暴走する傾向にあるみたいだぜ。それこそ、街一つ消し飛ぶ位の強大なのもあるらしい。」
イリスはあまりにも女性に対して酷い扱いに絶句した。
「まあ、ミハイルの魔力が強かったからあいつの魔術が全てを呑み込んでくれたおかげで無事だったけどな。女はそのまま死んじまったけど。」
「そ、んな…。」
イリスは愕然と呟いた。もし、それが姉だったら…、姉はこの世にいないのだ。イリスは目の前が絶望に染まった。




