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秘宝の乙女は海賊に囚われる  作者: 柘榴アリス
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ブラッディパンサー号の船長

イリスがそう感心していると、ミハイルはシリウスに向き直り、

「あなたも自分の行動には十分に気を付けた方がいい。あなたの行動で船長がどう思うか…、それをお忘れなきように…。」

「言われなくても分かっている。」

ミハイルもシリウスも船長には気をつけろと同じ事を言っている。幹部は皆が皆、船長を重んじている様子だ。一体どんな人なんだろう?もし、船長の機嫌を損ねた場合、自分はどうなるのだろう?イリスが不安に瞳を揺らしていると、

「大丈夫?アラン。」

大きな黄緑色の瞳がイリスを覗き込んだ。アロイスだ。イリスは思わずアロイスに聞いた。

「あ、あの…、アロイス様。」

「アロイスでいいよ。確かにここでは僕が先輩だけど見た所、年齢は僕よりも上なんだし。」

「…えっと、じゃあ…、アロイス。あの…、ただ船長ってどんな人なのかなって思って…、」

イリスはずっと気になっていた事実を聞いた。

「へえ?君、もしかして、船長の事知らないで入ってきたの?」

「す、すみません…。噂程度にしか知らなくて…、」

「ああ。違う違う。大抵は船長目当てで入ってくる奴らが多いから珍しくてさあ…、」

アロイスは船長を知らないイリスを面白そうに見つめた。

「何だあ。お前、船長を知らねえのか?…だったら、特別にこの俺が教えてやるよ。ただし、条件付きでな。」

「条件…?」

デリックの言葉にイリスは聞き返した。

「今夜、俺の部屋にでも…、」

「おいおい。それはいけないな。船長を知らずして、この船の一員は名乗れねえぜ。よし!そんなに聞きたいなら教えてやるよ。」

グレンはデリックの言葉を遮ってそう言った。

「船長は冷酷非道、残虐で血に狂った海賊と言われているんだ。船長が手にかけた人間は数えきれない程いる。女子供、老人もそうだが強者の海賊や戦士、兵士もいる。中でも海軍を屠った数は尋常じゃない数だ。海軍殺しという異名まであって軍には恐れられているんだからな。船長は海軍嫌いでな。…勿論、船長は味方にも容赦がない。逆らったり、裏切った人間は平気で斬り捨てるし、海に放り投げて、鮫の餌食にする。ああ。そういえば、この前はちょっと反抗的な態度をとった攫った女の一人を鎖につけて海に捨ててたな。…結構、いい女だったし味見もまだだったから勿体ないって思ったもんだぜ。」

イリスはぞっとした。鎖をつけて海に捨てるなんて何て惨いことをするのだろう。それが海賊…。イリスが飛び込んだ世界の常識なのだ。目の前のグレンだって勿体ないと言うがそれは人の命が奪われるという事に悲しんだのではないのだ。口ではそう言っても現に彼はその女性を助けもしなかったのだろう。

「ってことで、お前も気をつけろよ。可愛い顔してるからって命乞いしても船長には通用しないぜ?」

グレンの揶揄うような物言いにイリスは恐怖を覚えた。膝ががくがくと震える。

「おいおい。グレン。あんまり、新人を揶揄うなよ。」

「揶揄ってないさ。これは、助言だよ。先輩からの貴重な助言。」

ジャミールに窘められながらもグレンは楽しそうだ。

「おい。やめろよ。こいつってば、本当にびびってるぞ。ぶるぶる震えて生まれたての小鹿みてえだ。」

「いい加減にしろ。」

ミハイルとの会話をいつの間にか切り上げたシリウスが崩れそうになったイリスの肩を支えた。シリウスに睨まれ、グレン達は肩を竦めた。すると、

「船長だ!船長のお出ましだぞ!」

ざわりと今まで以上にその場が騒がしくなった。イリスはドキリとした。船長の登場に心臓がドキドキと早鐘を打つ。それは緊張感からくるものだった。自然と目を伏せてしまう。軽やかな足音が近付いてくる。

「騒がしいわね…。何の騒ぎ?」

イリスは耳に届いた甘く柔らかい高い声に違和感を抱いた。男性には持ち得ない女性特有の声…。イリスはそっと顔を上げた。

「えっ…?」

そこにいたのは想像していた海賊とは違った。スラリとした長身ではあるがしなやかな手足に豊満な体つきをした美しい女性が立っていた。

―なんて…、なんて綺麗な人なんだろう…。まるで天使みたい…。

男を惑わす妖艶な肉体美を持ちながらその清楚な美貌は無垢な天使のようだった。闇夜のように濃い色をした黒髪にエメラルドグリーンの神秘的な瞳…。肌は雪のような白さ、唇は血のように紅い。イリスは同性でありながらもぽーと魅入ってしまった。

「あら?その子は?見ない顔ね。」

イリスを見て女海賊がそう言った。翡翠の瞳に見つめられ、イリスはどきりとした。女はイリスに近づく。白いシャツと黒いズボン、宝石や金色の釦で装飾された真紅の外套を羽織り、白い羽根で飾られた緋色の帽子がよく似合っている。シリウスはイリスを紹介した。

「アランだ。新しく世話係として雇った。俺専属としてな。」

「へえ…。」

女は目を細めた。イリスは頭を下げた。

「は、初めまして!アランと申します。」

「そう。アラン。…もっと、顔をよく見せて。」

船長にクイ、と顎を持ち上げられ、顔を覗き込まれる。天使のように美しい女性に見つめられ、イリスは落ち着かない気持ちになる。相手は女性なのに何故かドキドキしてしまい、頬が赤く染まる。スルリ、と頬が撫でられる。びくりとするイリスに女船長は笑みを深める。

「あら…。とってもいい肌触り…。滑々して柔らかいのね…。それに…、まるで吸い付くような…、」

「あっ…、」

頬だけではなく、唇にまでほっそりとした指を当てられる。何だか擽ったいだけではなく、ぞくりとした別の感覚が身体に走った。

「私は…、メアリー。このブラッディパンサー号の…、船長よ。」

女船長…、メアリーはイリスの耳元に囁いた。反対側の耳も触られ、イリスは身体を震わせる。

「あら、耳も弱いの?…可愛い。」

ぺろり、と赤い舌で舌なめずりするメアリーにイリスはぞくりとした。未知な感覚にイリスは意識がクラクラする。

「船長。もうその辺で。こいつは、そういった手合いに慣れていない。」

シリウスが船長に声を掛けた。すると、船長はイリスからあっさりと身を退いた。

「あら、そうだったの。ごめんなさい。可愛かったからつい、ね…。」

何とか我に返り、熱くなった頬とまだ高鳴る胸の鼓動を落ち着かせようと深呼吸するイリス。そんなイリスを見て、メアリーは目を細め、

「ねえ…、シリウス。この子…、少しだけ私に貸してくれない?」

「駄目だ。」

船長の甘えた声は男ならば誰でも頷いてしまう魅力があった。が、シリウスは即答で断った。

「どうして?別に譲れって言ってないのよ。少しの時間だけ私に貸してくれるだけでいいのに。…大丈夫よ。ちゃんとあなたに返すわ。だから…、」

「生憎…、これはそれなりに気に入っているのでそう簡単に手放せないんです。例え少しの間だけでも他人に貸したくはない。」

メアリーは目を見開いた。幹部や周りの船員もざわりとした。イリスは固唾を飲んでシリウスを見上げた。

「そう…。残念。なら、仕方ないわね…。」

メアリーは溜息を吐いてそう言った。そして、シリウスの肩に手を置き、何かを囁いた。シリウスはぴくり、と眉を顰めたが何も答えようとはしない。イリスはメアリーが何を言ったのかよく聞き取れなかった。メアリーはイリスを見ると、

「アラン。シリウスに何かされたり、逃げたくなったらいつでもあたしに言ってね?力になるわ。」

「あ、ありがとうございます!」

親切で好意的な言葉にイリスはぱあ、と顔を輝かせた。もうすっかり先程聞いた恐怖と緊張感は消えてなくなっている。

―優しそうな人…。本当に天使様みたいだ…。

この人になら事情を話したら協力してくれるかもしれない。イリスはそう思った。

「アラン。…話がある。来い。」

「えっ?」

グイ、と手を引かれ、そのままシリウスに連れていかれる。船長と幹部達に会釈をし、イリスはやや強引にシリウスに引っ張られていった。船長たちはそんな二人の姿を楽し気に見つめていた。

「見た?シリウスのあの様子…。あの世の中には何も興味がありません、って顔して常に冷静で氷のような無表情しかしない男があんなに執着するなんて…、これは面白いことになりそう。」

「何だあ?船長はあんななよなよした餓鬼が好みなのか?」

「あら、たまにはいいでしょう?ああいうタイプも新鮮で。それに…、シリウスがあそこでまで気に入ってるなんて益々興味が沸いてきたわ…。」

「船長。しかし、シリウスはあの少年を重宝している様子。さすがに手を出すのは…、」

「分かってる。ただ…、味見をするだけ。それだけよ。」

メアリーはそう言ってクスリ、と笑みを浮かべた。



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