盆栽で無双しよう その1
「盆栽をテーマに異世界ハーレム作れってどういうこと!?」
「言った通りです。ある作家さん志望がそれの素材を求めています」
絶叫する創太をよそに、フミ華は話を続ける
「依頼主の方は定年退職を迎えた方で、今後の生活資金を稼ぐために小説家として名をあげたいとのことです。趣味である盆栽の知識を生かせる小説なら書けるかも知れないので、その素材を考えてほしいとの依頼です!」
「うわぁ俺の親父より年上の依頼人かよ」
創太の職業であるプレゼンターの概要はこうだ
小説家を目指したいが、どんな小説を書けばいいかわからない
こんなものを書きたいという漠然としたテーマは決まっているが、それをどうまとめればいいのかがわからない
設定自体考えるのが面倒くさいけど、小説家にはなりたい
とにかく売れたい
といった困ったちゃん達が居たとする
出版社はその中から、もしかすると輝くことが出来るかもしれない原石を見つけ出し、コンタクトを取る
本来なら、小説家と編集者が互いに協力しながら作品を作っていかなければならないが、近年とある問題が出てきた
小説家志望の数があまりにも多くなりすぎて、編集者の数が足りなくなってきたのだ
自分が書きたいものがはっきり決まって、形もある程度出来ている小説家の卵ならともかく、
何を書けばいいのかわかってない小説家の卵未満など、とてもじゃないが面倒を見る余裕が無くなってきた
そこでプレゼンターの出番である
本来なら切り捨てる小説家志望にどんな小説を書いてみたいのか情報を聞き取り、
出版社からの依頼でプレゼンターが『設定、キャラクター、大まかなストーリーの流れ』の素材を代行で考える
そしてその素材をもとに小説を作ってもらう、という流れだ
因みに素材そのものはどのように扱ってもよいことになっている
素材の通り小説を作るもいいし、変えたいところがあれば変えてもよい
以前学園で青春ものというオーダーで素材を依頼した小説家志望は、その後内容を変えてラブコメデスゲームものでデビューをしたこともある
ここまで面倒を見てあげておいて、何も生み出すことが出来なかった作家は出版社の利益にならないと判断される
素材を使って面白い作品を作れればそれで良し、出来なければ今度こそ完全に切り捨てられる
素材の提供は、小説家になるための最後のチャンスでもある
ちなみにプレゼンターの存在は一般には知られていない
この存在を知っているものの中からは『いわゆるゴーストライターではないか』との批判もあるが、出版業界は次のように考えている
「我々は素材を提供しているだけであり、それをどのように扱うかは小説家しだい。料理で例えれば、食材を提供しただけであり、それをどんな調理法でかつ何の料理を作るかはそいつ次第。ゴーストじゃない」
苦しい言い訳にも思えるがそのスタンスをとっている
出版社側としても売れて金を稼げて利益が出ればそれでよいのだ
プレゼンター側も素材を提供した小説家が売れれば、売れた分だけ給料が上がる。なのでより良い素材を提供しようと常に必死だ
「だからって盆栽は無い!!」
「じゃあ一緒に考えますから頑張りましょう!」
だが偶によくある頻度で滅茶苦茶な依頼が来る
滅茶苦茶な要望に出来るだけ応えてあげるのが彼の仕事なのである