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彼女は忘れられた  作者: ぽぽぽぽ
9/11

8

かつて、心から大切な人がいた。



僕と半生を共にした彼女は、ある日突然、この世界から消失した。


世界に置き去りにされた彼女を、世界に繋ぎ止めておけるのは、僕だけだ。

だから、世界が彼女を忘れても、僕だけは、彼女を忘れない。



彼女は確かに存在していたのだと。

僕は証明しなければならない。



それがどうだ。


覚えているのは、忘れてはならないということと、靄のかかった記憶の断片だけ。



もう、彼女の名前さえ思い出せない。



僕は冷笑した。



ここ数日、僕は眠りにつくのを怖れた。


目が覚めれば、彼女のことを少しずつ忘れるから。


忘れることに、抗えないから。


このいざないに敗北すれば、彼女の記憶を失うことを知っているから。


彼女が、確かにこの世界に存在していたことを、誰も肯定できなくなるから。




――きっと、この後目が覚めたときには、僕は、もう名前も知らない彼女のことを、とうとう何も思い出せないんだろう。



そもそも、本当に彼女なんて、実在したのだろうか。



拠り代は、ただ、存在した、という僅かな記憶だけだ。


そんな曖昧で、何を肯定したらいいのだろう。



もう、それは意味など無く、エゴですらなく、たちの悪い足掻きでしかないだろう。



――きっと、それでも、否定したくないのだ。


ただそれだけなのだ。



――まどろみの中、僕の視界に入ったのは、くたびれた個包装だった。



おぼろげな記憶の終着点、最後の瞬間に、その個包装と、かたい感触があったことを思い出した。



あれは飴玉だ。

僕と彼女の、つなぎ目だ。



僕ははっとした。



――ああ、そうか。



点と点は線になった。

彼女は――。


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