7
僕は寝転がっていた。
まどろみの中、思うのは、神咲遙香のことだ。
僕は彼女を思い起こす。
彼女との出会い。
彼女との繋がり。
彼女の髪。
彼女の声。
彼女の目。
彼女の口。
彼女の表情。
――表情――。
僕は最後の記憶を連想した。
彼女は、僕のことをずるいと言った。
くじ引きの結果がずるいのだと。
あの言葉の真意は何だったのだろう。
神咲は昔からずっと、快活な女の子だった。
前向きで、明るくて、素直で、真っ直ぐで。
曖昧な僕とは違って、明瞭だった。
あの時、確かに、神咲は曖昧だったように思う。
――別れ際、彼女はどんな顔をしていた?
いや。
神咲は、ずっと。
最初から最後まで、一貫していたのかもしれない。
あの時のあの言葉も、あの行動も、彼女の中では明瞭で。
有耶無耶にしたのは、僕の曖昧さの方かもしれない。
彼女との記憶の最後――。
どうしてもその時の表情だけが思い出せない。
けれど、その表情を見た僕はきっと、拍子抜けするような、稚拙な感想を抱いたに違いない。
神咲遙香の表情だ、と。
思い出せないのは、僕が曖昧にしたからだろうか。
そんなことまで、僕は曖昧にしてしまうのだろうか。
それとも。
――僕まで、神咲遙香を、忘れてしまうのだろうか。
僕は、今確かにある、彼女との記憶を。
神様に見つからないように、そっと、閉じ込めて。
眠りに落ちた。