5
神咲遙香は失踪した。
僕が冷静でいられたのは、週明け、彼女が学校を休んだ日の朝までだった。
彼女の不在は無断欠席の類ではなかった。
様子がおかしいのだ。
誰も神咲に言及する者がいない。
訪ねても、話が噛み合わない。
そもそも、彼女の席が無い。
いじめの類かと疑った。
しかし、こと彼女については、そんなキャラクターではなく、それは考えづらい。
いや、万が一そうなのだとしても、教員ですら彼女に言及しないというのはあまりに不自然だ。
焦燥する僕を置き去りにして、瞬く間に時間は進んでいく。
とうとう、誰一人、神咲遙香に触れることなく、一日が終わった。
――次の日も、その次の日も、日常は進行した。
嫌悪するでもなく、無視するでもなく、神咲遙香を置き去りにして、世界は忙しなく進行する。
――まるで、神咲遙香など、もともといなかったかのように。
彼女を忘れてしまったのは、人間だけではない。
彼女はこのクラスの名簿からも姿を消していた。
彼女が参加していた部活の部員名簿も同様だ。
僕は最後の手段に出ることにした。
場所なら知っている。
僕は神咲の家へ向かった。
道中は気が気ではなかった。
そこに答えがあるという根拠の無い期待と、悪あがきへの自嘲と、それから諦念が入り混じって、消化不良の感情を塞き止めることに必死だった。
住所に着く。
――ああ、そうか。
僕は諦めた。
直視することが怖くて、奥底に追いやった推理は、やはり正しかった。
――家は、無かった。
僕は悟った。
到底、その状況を理解はできない。まして肯定などできるはずはない。
それでも、見て見ぬふりをしようとした、歴然とした事実を、ただありのままに受け入れ、認める。
――失踪したのは、世界の方だった。