3
映画を観終えた。
主人公とヒロインが仲良くなって、紆余曲折あって、最後は離れ離れになって、流行りの歌手の感情的な新曲が流れて、盛り上がって。そんな話だった。
神咲曰く、マジ泣けて、マジエモくて、マジイイ話、だそうだ。
僕は特別に感想を抱かなかった。
「いる?」
「いらない」
「甘くない味だよ?」
「…じゃあ、もらおうかな」
僕は茶色い個包装を受け取った。
――"Coffee flavor"。
僕は口に含んだ。
からん、と、篭った音がする。
神咲は僕をまじまじと見る。
少々こそばゆい。
「「ばいばい」」
――唐突な彼女の言葉は、時を止めた。
僕は答えない。
答えないのは、口に飴玉があるから。
だから反応できない。
止まった世界で動くことが許されたのは、飴玉だけだった。
からんという音が響いた。
神咲には、聞こえただろうか。
――「飴言葉」
世界は、神咲遙香の声を合図に、時間を取り戻した。
「コーヒー味って、苦いでしょ?きっと、苦い味はね、ほろ苦いんだよ」
ちょうど、さっきの映画みたいでしょ、と、彼女は付け足した。
「苦いんだから、そりゃ苦いよ」
「あはは。そりゃそうだよね」
神咲はおどけた。そして、半歩後ずさった。
ちょうど彼女は夕日と被った。
ああ、西日だ。
神咲遙香は、今、どんな顔をしてるだろう。
「行こっか、お祭り」
彼女は嬌笑を引き連れて、太陽を抜け出した。
――土台、分からない。