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彼女は忘れられた  作者: ぽぽぽぽ
3/11

2

土曜日。時刻は十三時二十二分。

現在地は駅前。

昼ごはんは、食べていない。



神咲遙香は、まだ来ない。



持て余した時間で僕が考えていたのは、大幅に遅刻の彼女に、どんな悪態をついてやろうかということだった。

時は金なり。二十二分という時間は価値だ。

自分から誘っておいて、これだけ待たせる奴があるか。


僕は手に持ったコーラの缶を揺らした。

小さな気泡が立つ音がする。


ぐっ、と、コーラを仰いだ。



「お待たせ」



僕は逸った。

考えた悪態を喉元に準備する。

スイッチの入った頭の回転、第一声が颯と組み上がっていく。



――しかし、第一声は、どこかに吹っ飛んだ。



浴衣。



僕は息を呑んだ。

息と一緒に、悪態も呑みこまれて(いや、物理的にはコーラか。)、僕の頭はすっかり仕切り直された。


「や、やあ」


僕の口から出てきたのは、悪態でも何でもなく、素っ頓狂で、繕うような言葉。

きっと、ばつが悪いのだ。


「似合う?」


「…客観的に見て、似合ってるんだと思う」


僕は見惚れていることを、客観を盾にしてはぐらかした。


綺麗だと、そう素直に思ったのだ。


だが、その感情が言葉に表れることは無い。

十年間という連続は、その感情に蓋をするには十分な期間だった。


不意を突かれ、溢れかけた感情は閉じ込められた。

いや、閉じ込めたのかもしれない。


僕の頭は沈着した。


「客観的って何よ。あたしに見惚れたでしょ」


「客観的に綺麗だとは思う。似合っているとは思う。それだけだよ」


「もう。少しくらい感想言えっての」


「それより、なんで浴衣?今日は昼食と映画じゃなかったか」


「夕方は夏祭りがあるじゃん」


「そうじゃなくてさ、どうして祭りに行くつもりだと言わなかったのかって聞いてる」


「だって、お祭り行くって知ってたら、何かさ、驚きっていうか、ネタバレっていうかさ?」


「?」


神咲はバッグから何かを取り出した。

取り出したそれをこちらに放り投げる。


白い個包装――ちゅぱちょんキャンディだ。

"Milk flavor"、とある。


「飴ならいらないって」


「「ばーか」」

「よく反省することだね」


「「ばーか」、って…」



やはりこの、飴言葉という慣わし、もとい、神咲遙香という幼馴染は、土台分からない。

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