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名前のない物語  作者: 莇 玖音
始まり
6/6

3話

 


 頬を染め照れたように言うシエラに「どういたしまして」と声をかけると、休憩スペースの椅子へ彼女を座らせた。



「アキラさん、こいつにお茶を出して貰えませんか? あと小物も揃えたいのでもう少し手伝ってください」

「ここは喫茶店じゃないのよ? ……でもまあ、いいわ。沢山買ってもらったしね」



 言うと店の裏へ入っていって行きしばらくしてカップとティーポットの乗ったトレイを持ち、アキラが戻ってくる。カップは人数分あった。

 三つに注ぐとアキラは「どうぞ」と二人の前に紅茶の入ったカップをそれぞれ置いた。



「俺の分まで、すみません」

「いいのよ、男子はこう言う買い物疲れやすいから、おまけよおまけ」



 言いながら「小物って?」とお茶を飲みながら問いかけてくる。レイヴァルは右手を折りながら「あれとこれと……」と思いつく限りのものを述べていくと、「あー、そういう系ね。いいわ、彼女のもの見繕うわ」と再び店の奥へと消えていく。


 これでいくらになるか、と自分の財布を開き中身を確認していると横からシエラがそっと口を開いた。



「……本当に、良かったのですか?」

「ん、何が?」

「その……色々と買って頂いているので」

「俺が言い始めたことだし、気にしなくていいさ」



 そう言っても気にするんだろうな……。


 ぼそっと彼女に聞こえない声でいい、小さく笑うとカップに口をつけた。


 何をしてもらっても「私なんかに」と自分を下にしてどこまでも遠慮する、そんな気がした。気持ちはなんとなくわかる気もするし「申し訳ない」という気持ちも察することが出来る。


 しかし、少しくらい……。



「……甘えるとこを覚えても、良いのかもしれないわねー?」



 突然の声に驚き息を飲む。


 振り返ると大き目の紙袋を持ったアキラが立っていた。どうやら必要なものを全て揃えてくれたらしい。



「いつからそこに?」

「ついさっきよ? 奥って意外と声、聞こえるのよ」



 びっくりした。自分が知らないうちに声に出していたのかと思った。



「まあ? そんなに簡単じゃないのは分かってるから、気にしちゃダメよ?」

「……えっと、はい?」



 突然振られた会話についていけていなかったシエラは、首をかしげながらも何となく返事を返し、レイヴァルの方へ視線を向けてきた。その視線に笑みで返すと「帰るか」アキラから紙袋を受け取った。



「会計は?」

「はいこれ、明細ね」



 受け取り確認すると服と小物の金額の他に『サービス代』というものが一番下に追加記入されていた。


 レイヴァルはそれを見つけると、アキラを睨むように視線を向け「これなんですか」と思わず問いかける。するとアキラは満面の笑みで答えた。



「お茶代と見繕った手間賃よ」



 この時全てを任せたことを後悔した。しかし今更どうこう言っても意味がない。ここはおとなしく支払っておくことにしたレイヴァルは、財布の中から札を十枚ほど抜き出すとアキラへ差し出した。それを見るとにっと満面の笑みを浮かべ「まいど」と受け取り、また来なさいね、とシエラの頭を撫でていた。



「もう少し、休んで行くか?」

「大丈夫です」



 立ち上がるシエラを横目に、レイヴァルは紙袋を持つと「それじゃ」と店を後にする。大通りへ出ると市場は来る時よりも活気にあふれていた。夕食の時間が近くなっていることもあり通りは色んな食べ物の香りで溢れていた。


 さすがに腹が減ってくるな。


 レイヴァルはシエラの様子をちらりと確認する。彼女は賑やかな雰囲気に胸踊らせているようであった。


 疲れているだろうから早く帰りたいとは思ったが、シエラのその表情を見てしまえば「さっさと帰ろう」なんて言えなかった。



「夕飯、ここで買っていくか」

「えっ! 良いのですか」

「まあ、帰ってもなんもないし。せっかくだ、食いたいもの買って帰ろう」



 レイヴァルの提案に嬉しそうに頷くと、近くにあった焼き菓子の店の前に走る。


 食いたいもの、とは言ったが飯じゃなくてお菓子かよ……。


 女子だなー、と遠巻きに見ていると彼女はひとつの小袋を手にして目を輝かせていた。珍しいのだろう、とレイヴァルは小さく笑みを浮かべると彼女のそばへと歩いていった。




 ……遠巻きにレイヴァル達を見ていた人物がいた事に、その時、誰一人として気づきはしなかった。





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