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名前のない物語  作者: 莇 玖音
出逢い
3/6

3話

 




 *****




 その少女は美しかった。


 金色の髪をなびかせて屈託のない笑顔で走り回るその姿は天使そのものだった。

 家柄は決して裕福というわけではなかったがそれなりに欲しいものは誕生日になれば買ってもらえたし、十分に甘えて育ってきた。


 しかしその生活は一変する。


 ある夜両親ともに帰りが遅く一人で留守番をしていた時だった。突然窓ガラスが割られ見知らぬ男三人が入ってきて、シエラを囲むように立った。



『このガキで間違いないんだな?』

『あぁ、こいつだ。間違いねぇ、()()が反応してやがる』



 そう言って一人が持っていたのはコンパスに似たものだった。針はグルグルと回転し方位の狂ったコンパスとその動きも似ていた。



『本当に、支配する者(ルーラー)なのか、コイツ?』

『……連れてくぞ』



 その一言でシエラは逃げることも出来ぬまま捕まり、連れ去られた。

 そして気づくと地下牢に閉じ込められていた。


 男達は黒いマントで体を覆い、顔もフードのせいで全く見えなかった。

 捕まってしばらくは牢から出される度何か実験のようなことをしようとしていた。ただ、その実験には()()が足りない様でいつも失敗に終わっていた。



『なぜ覚醒しない!?』



 男はそう叫んでいた。

 シエラには覚醒する何かがあると言うように話は進んでいた。しかしシエラ本人にはなんの事か全く検討がついていなかった。覚醒とはなんの事なのか、人違いなのではないか、そう思った。


 しばらくすると牢からついに出ることはなくなった。男達もご飯を運んでくる以外姿を見せることも無かった。

 そうして気づけばどのくらい地下にいただろう。初めの頃は寂しくて怖くてどうにかなってしまいそうだった心も、いつの間にか何も感じなくなっていた。


 でもあの日、感情を思い出したから。


 出たいと思えたから。

 今、ここに居る……。





 *****



 話終えるとシエラは一口お茶を含んだ。


 レイヴァルは腕を組み「支配する者(ルーラー)ね……」とぽつりと呟いた。



「知っているのですか……? 彼らの言っていたそのルーラーというものを」

支配する者(ルーラー)は正直実在しないと言われている魔術の名前だ。支配の名の通り、理を支配して好きなようにねじ曲げられるなんて言われているな」



 レイヴァル自身その存在は聞いた事だけあるが、実際に見たことがなかった。そもそも理を支配しねじ曲げるなんてこと、魔法でどうにか出来ることではなかった。もし本当に出来るのならそれは魔法などではなく、神にでもならないと無理だとレイヴァルは思った。



「そんな力が、本当に……わたしが?」

「どうだろうな。あんたの家は代々魔法使いの家系なのか?」

「……いえ、違うと思います。両親も普通に仕事をしていましたし、聞いたこともありませんでしたから……」



 だろうな、とレイヴァルは息を吐き腕を組んだまま天井を仰いだ。


 そもそもシエラから魔力は感じない。魔法を使える家庭に産まれたのであれば少なからず魔力を感じるはずだった。本人が使えても使えなくてもそれは変わらない。


 だからこそ不思議だった。


 その男達がなぜシエラを「支配する者(ルーラー)」だといい捕まえて牢に閉じこめていたのだろうか。



「あの……」

「あぁ、すまない。考え事をしていた」



 彼女の声で腕組をとき顔を元に戻す。


 ひとまずこの少女をどうするか、レイヴァルはそれを考えることにした。


 行く宛はないだろうがここで自分が面倒を見る、というのも少し考えものだった。理由としてレイヴァルは独り身だが、だからこそ異性と同棲は少しまずい。年齢的には兄弟にしか見えないのだろうが、レイヴァルにとっては異性は異性、気まずいものがあった。


 だからといって資金だけ渡して好き勝手させるのも、正体のわからない男達がいつ来るかもわからない状態で不安だった。


 しかし他に方法がない……。



「シエラ、だったな。あんたこれからどうする?」

「……わたしは、ここがどこかも分かりません……、そこで…、なのですが」

「なんだ?」

「宜しければ、一緒に住まわせていただけませんか……? 無理を言っているのは承知の上です、なにかお手伝いもします! なのでっ!」



 ガタンッと席から立ち上がり必死な様子で頭を下げるシエラに、驚いたようにレイヴァルは目を丸くした。


 何もそこまでしなくても、とシエラを落ち着かせ一旦座らせる。



「今のあんたに行くあてがないのは知ってるし、このまま放置したりもしない」

「じゃあ……」

「ただ、俺は一人暮らしだが……」

「……? 何か問題でも?」



 彼女には危機感や羞恥心といった感情はないらしい。


 シエラの反応に色々考えた自分が、アホらしくなったレイヴァルは「分かった」と苦笑を浮かべて右手を差し出す。



「レイヴァル・ユーゲンだ、これからよろしく、シエラ」

「はいっ! こちらこそよろしくお願いします!」



 これがシエラとレイヴァルの出会いだった。






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