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名前のない物語  作者: 莇 玖音
出逢い
1/6

1話



2018/09/02

魔術師→魔法師 へ変更しました。

 



 憧れていた。幸せな家庭に。


 憧れていた。温かな生活に。


 憧れていた。誰かがいる家に。


 憧れていた、そんなことが当たり前の生活に。




 気づけば真っ暗で冷たいその場所は、私にとって当たり前の生活空間だった。

 いくら冷たくても寒くてもひとりで孤独でも、私にとっては唯一の居場所だった。


 でもいつからだろう。そんな生活を終わらせたいなんて思いだしたのは。抜け出したいなんて思いだしたのは。

 外からの光が入り込まないこの場所で私は空を仰ぐように顔を上げた。無機質な黒い天井になんだか光を見出した気がした。どうすればここから踏み出すことができるのだろう、どうすれば私は自由になるのだろう。



「神様にでも……お願いしてみようか」



 何もないと分かっていながら宙に手を伸ばす。分かっていても期待せずにはいられなかった、抜け出したいと思ったこの瞬間何かしら行動しないといけない気がした。意味がなくてもこうすることに意味があるんじゃないかと思い込みたかった。


 だから驚いた。手を伸ばし気がついたら見知らぬ森の中にいたことに。





 *****




 驚くほどの快晴だった。


 連日の大雨で川の水位は上がり農家では作物が雨によって少なからず被害を受けていた。その様子を横目に少々不安げな表情を浮かべながら通り過ぎていく青年がひとりいた。



「レイ、今日は早いね」



 畑にしゃがんで土の状態を見ていた一人の老父が彼を見つけ立ち上がる。

 レイと呼ばれた青年は声を聞くと立ち止まり老父を見つけ微笑んだ。



「こんにちはマルスおじさん」

「はいよ、こんにちは。レイも大変だなぁ、連日の雨でこっちも被害が甚大だ」

「お手伝い出来たらいいんですが、俺も気になって……。向こうが確認出来たらすぐ来ますね」

「いつも悪いね。でも、無理はしちゃいかんよ? こっちはゆっくりやってるから」



 そういうマルスに手を上げて「また後で!」と森の方へ走って行く。


 レイヴァル・ユーゲン。

 これが青年の名だ。青年は街ではそれなりに名の知れた青年だった。

 彼は数年前までこの街唯一の魔法師として国の機関に所属し、出現する魔物や魔法を悪用する組織などを相手に戦った来た。しかしある日突然「もう疲れたから辞めます」と告げ今住んでいる街へやってきた。この街は親戚が住んでいたことのある土地だったこともあり馴染むまでそう時間はかからなかったし、街の人たちも親切で優しい人ばかりだった。


 そしてこの街へ来てすぐ、彼は街から少し離れた森の中に小さな家を買っていた。そこで彼は薬草やハーブを育てていたのだが、マルス同様、雨の影響で植物たちが心配でこの日はいつもより早く森へ向かっていた。



「にしても、いい天気だな……」



 あんなに降っていた雨が嘘のようだ、と続けて呟き木々の間から漏れる日差しを眩しそうに見上げる。

 早く行って状態を確認しなくてはと一度止めた歩を再び進める。

 その時だ。


 ガサッと茂みの奥から音がして、レイヴァルは身構える。

 だいたいの魔物は倒したし魔物除けのハーブや結界も、しっかりしてはいたがどこかに穴でもあったのか。

 ゆっくり近づき茂みをかき分ける。息を殺し一気に茂みを抜けるとそこには見知らぬ少女が倒れていた。



「……こんな所に、なんで」



 綺麗な金色の髪は汚れており、服も布を切って巻いただけの簡素なものでこちらも汚かった。

 そして何よりレイヴァルが思った。


「この子は痩せすぎている」と。


 ひとまずここでは体に良くない、と少女を抱きかかえると森の中の家へ連れ帰ることにした。

 小さく呼吸を繰り返す少女は見た目十六、七歳ほどに見え「俺より下か?」とレイヴァルは思った。



「軽いな……」



 仮眠用の簡易ベッドにゆっくり横にさせると、薄手の毛布をかけてやる。小さく寝息を立てる彼女に一度視線を向けるとレイヴァルは自分の仕事をしよう、と家を出て裏に広がる薬草園へ向かった。


 種類ごとに分けて植えられた薬草たちは、不思議なほどに被害を受けていなかった。多少土が流れ根が出てしまっているものもあったが、倒れたり折れたりといったことはなくレイヴァルは安心したように息を吐いた。



「この感じだと土を盛るだけでよさそうだな」






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