1話
ピピピピ ピピピピ ピピピピ……
目覚ましの音が鳴り響き、私は目を覚ました。いつもと変わらない朝。私はいつもと同じようにテレビをつけ、椅子に座り、朝のニュース番組を観ながらいつもと同じインスタントコーヒーを飲んでいた。私の前には椅子がある。もう誰も座る事の無い椅子だ。そして私の座っているこの椅子も、今日で座られることは無くなる。
先々週のことだった。私がお茶を飲んでいると、市の役員から電話がかかってきた。2週間後、つまり今日の午後2時に「お迎え」に行くとの事だった。私はすぐに身の回りの整理を始めた。貴重な品々は友人に渡し、持って行く物の準備をした。役員に聞いたら、この家は取り壊して、駐車場にするとのことだったので、私は部屋の風景や、窓から見える景色を写真に収め、現像してもらい、一緒に持って行くことにした。
時間を確認したら、約束の時間まで4時間もあったので、私は町を散歩することにした。32世紀にもなったが、この町の風景は、ビルやタワーの並ぶ町ではなく、小さな一軒家が並ぶ、まるで並んだドミノのようなところだった。私はこの町が好きだ。昔はもっと栄えた町に行きたいと思っていたが、いつの日かそんな思いは消え、小さな町に住み続けるようになっていた。途中見知った顔と挨拶し、別れの言葉を告げると、皆さまざまなことを言った。寂しい、悲しい、話し相手がいなくなる、など皆私と別れることを惜しむようだった。私もここに住む人々と別れるのは辛かった。しかし私はそれ以上に、早くあの惑星に旅立ちたいという思いがあった。あの惑星に立ち、長年連れ添った"連れ"と、再び会いたいという強い思いが・・・
そうこうしてるうちに約束の時間が近づき、私は家へと戻った。家に着き、ほんの少ししたらインターホンが鳴り、外へ出ると一台の黒いバスが家の前に止まっていた。バスの中から黒いスーツの男が出て来て、私に身分の確認を行ってきた。身分の確認が終わると、私にバスに乗るように言った。私はそれに従い、バスへと乗った。バスの中は意外と広く、通路を挟んで両側に1つずつしか席は無く、中にはすでに7人ほど人が乗っていた。皆私と同じようにリュックサック1つほどの荷物を持っていたが、明らかに違うところがあった。表情だ。誰もが悲壮感に囚われていたが、私は違った。出来る限り抑えていたが、期待に胸を膨らませ、少し笑顔をうかべていた。
席に座ると、バスが出発した。どうやら私で最後らしく、バスは電車の駅に向かっていた。電車とは言っても、それは物の名残りとして名前が残っているだけであり、実際は「ワープするコンテナ」という表現が正しい。原理は知らないが、地球の裏側まででも1分掛からないらしい。
バスが駅に着くと私を含めた乗客は、用意されていた電車に乗り込まされ、一瞬のうちに他の場所に来ていた。どうやらここから宇宙へ飛ぶみたいだ。他にも私たちのような人がたくさん集められていた。その後私たちは集められ、このあとの予定を聞かされた。出発は明日。今日は用意された部屋で、地球最後の夜を過ごせとの事だった。部屋は個室だった。家具はベッドしかなく、こんなもので最後の夜を迎えるのは嫌だったが、我慢することにした。
「これで私はあなたに会えるのだろうか」
そう呟いた。