3:帰路
放課後、当然のように教室まで迎えに来てくれたこの美人でギャルな後輩、篠宮茉莉ちゃんはまたまた当然のように私に手をさしのべてこう言った。
「先輩、一緒に帰りましょー?」
誰かと帰るなんて何年ぶりだ……?いやいや待て待て落ち着くんだ幸村弥生。突然こんなに綺麗な子に好意(?)を向けられて浮かれる気持ちはとてもわかるがよくよく考えたら怪しいことだらけじゃないか?きっとこのままノコノコ着いていったりしたら高い服とか買わされるんだろうか。それともそんなのまだ可愛いほうで、裏路地とかに連れ込まれて怪しい男達に捕まった挙げ句臓器を売られたりするんだろうか……。
「……せんぱーい?」
「わ、私昨日も夜更かししたし夜中にチョコとか食べたし内臓にはあまり自信が……」
「ないぞう……? よくわかんないけど先輩は性格も可愛いと思いますよ?」
「じょ、冗談はよしてくれ……。わかった、帰ろう」
いかん、色んなことが久しぶりすぎて脳が処理できていない。臓器売買はまずないとして、服ぐらいなら……という気持ちで色々と吹っ切れた私は彼女と一緒に帰ることにしたのだ。
少し一緒に歩いてみて思ったんだが、この子すごく話上手だ。それこそ自分がコミュ障だということを忘れるくらいに……。もちろん私はさっきから赤べこのように頷くことしかできていない。だって緊張してるんだもの。
福島県の郷土玩具と化していた私は気づくと―――なんだかおしゃれな美容室の前に立っているのだ。
「……え? あのここ」
「美容室ですよ! 初めて見たときから思ってたんですけど髪、邪魔じゃないですか?」
なっ……、確かにあなたみたいな美人からしたら顔を隠すこの髪は邪魔以外のなにものでもないと思うが私みたいに人様に見せられないような顔を持った人には必要なものなんだって!
……なんて思っていたのは一時間前の私。頭では異論なんて百個と思いつくのに言葉に出来なかったのだ。コミュ障とは実にかわいそうないきものである。
美容師さんにケープを外された私の黒髪は肩程の長さで切りそろえられて、まるで日本人形みたいだ。それにこういう店の店員さんってもっとこうお世辞でも“お似合いですよ~!”とか言ってくれるものじゃないのか。口がぽかんと開いた間抜け面をしている。フォローすることすら出来ない仕上がりだったか。モデルが悪くて非常に申し訳ない。
「どう? 似合ってる?」
スマホを眺めて待っていた篠宮さんに向かってもうどうにでもなあれの精神で最高にへたくそなウインクをかましてやると馬鹿にしたとでもとられてしまったのか顔を真っ赤にして足早に店を出てしまった。
「え!? ごめんなさいそういうつもりじゃなくて!」
美容室代を払ってくれていたようなので一刻も早く返そうと思って追いかけた。
やっと追いついたので腕をつかんで振り向かせると、一瞬目が合うがすぐそらされてしまう。何事かと問おうとしたとき……
「ちょっと、可愛すぎてちゃんと見れない……んです」
再び顔を真っ赤にしてこう言うのだ。
ええ……さすが部屋にひじきを飾っている(かもしれない)人は言うことが違うなあ。……でも可愛いって……これ、褒められてる、のかな。
……ああもう!今日は真夏みたいな気温だ!