美樹を確保せよ
熊本発東京行の飛行機には、佐久間だけが
搭乗していた。
山川刑事には、熊本警察と連携し、三条春名の背後関係と動きを捜査する指示をしておいた。
飛行機が、順調に飛行している間、佐久間は三条春名の発言を思い出し、頭の中で整理していた。
(三条春名は、田中和恵のことを疎ましく考えていたことは明らかだ。どちらかというと美樹贔屓だ。田中大介と交際していた事実はあるが、もしかして、大介よりも美樹を愛していた?普通では、理解し難いがそんな気がしてならない。違和感は他にも感じた。美樹を操り、田中和恵を殺害したならば、田中和恵が死亡した話をした時に違う表情をしたと思う。何故、暫く黙って空を見上げたのか?計画を誰かに話して、実行されたことに、後悔した感じを覚えた)
窓の外から瀬戸内の海が見える。
四国上空を通過しているらしい。
(刑事の勘だ。もし、田中和恵を美樹と共謀し本当に事故に見せかけて、簡単に殺せるだろうか?遠く熊本から、東京の美樹に連絡し、美樹が前もって楠木に依頼でもしない限り難しいだろう。楠木が田中和恵と接触したのも偶然とは疑えばきりが無いが、現状では確認のしようがない。どちらにせよ美樹を確保し、事情を確認しなければ)
「・・・お客様に申し上げます。間も無く投機は予定通り、定刻に羽田空港に着陸いたします。着陸に伴い、揺れに備え、シートベルトをお締めください」
飛行機は、定刻通り、羽田空港に到着した。
羽田空港に戻ってきた足で、佐久間は警視庁捜査本部に戻らず、真っ先に墨田区にある美樹のアパートを訪れた。
三条春名からは、居場所を聞けなかったが警視庁で過去保護したことがわかった為住所が容易に特定できた。
熊本に行ったことは無駄ではなかった。
しかし、別の意味で、佐久間は後悔した。
三条春名から、美樹への接触情報が何処かに漏れた場合だ。
嫌な予感が、脳裏をかすめた。
もし、三条春名が黒幕で美樹を操り、田中和恵を殺害した主犯格であれば、手下の美樹を佐久間達より先に口封じに手をくだすだろう。
また、そうでなくとも美樹が田中和恵殺害に関与していたら、捜査の手が届く前に、誰かの手によって美樹は消されてしまうかもしれない。
羽田空港へ出発前に、熊本空港で捜査本部には連絡し、美樹の保護履歴から住所を特定し、確保をする旨依頼しておいた。
警視庁捜査一課が早いか、三条春名の動きが早いか、時間との戦いであると考えた。
(間に合ってくれ。)
アパートに到着した時には、何台かパトカーが、止まっていた。
(間に合ったか!)
佐久間は急いでドアを開けた。
「ーーーー!」
佐久間の目の前に、既に生き絶えた美樹の姿が無情にも転がっていた。
(間に合わなかった)
自分の捜査で、三条春名に接触したが為新たな犠牲者が出てしまった。
(美樹、済まない。お前さんを救ってあげられなかった。仇は取ってやる)
「・・・・警部?」
「誰か捜査本部に連絡を。それと熊本にいる山川刑事にも連絡を入れてくれ。間に合わなかったと」