八話 ホブゴブリン
「なにをそんなに驚いている?」
「だ、だって!普通はホブゴブリンなんて滅多に現れないし、、いたとしても一つの群れに一匹くらいしかいないんだよ!ただでさえ上位種は元々の個体よりもかなり強くなってるのにそれが三匹……まさか!?」
ティノンの顔色が段々と青ざめていくのがわかり、僅かではあるが身体は震えだした。
「……ゴブリンキングがいてもおかしくない」
その言葉を口にした途端、ティノンの身体の震えは大きなものへと変わっていく。
その姿から、少なくともティノンにとってはゴブリンキングというのは恐怖の対象であることは容易く想像できた。
「に、逃げてクロイ!ゴブリンキングなんかに出会ったら流石のクロイでも殺されちゃう!」
「……そうは言われてもな……」
正直、今この状況で目の前のホブゴブリン達から逃げ切れるなどとクロイは思わなかった。
今自分はティノンを抱えているのだ。重くはないが邪魔で邪魔で仕方がない。
こんな状態ではホブゴブリンから逃げ切ることは……
そんな奴など置き去りにして逃げればいい
突然、脳裏にそんな言葉が浮かび上がった。
確かに、ティノンを置き去りにすれば逃げ切れる確証はある。
しかし、それと同時にもう一つの確証だってあった。
「ティノン。ちょと投げるぞ」
「へ?投げるってなに……ひにゃぁあああああ!」
クロイは片手でティノンを木の上に投げつけるとすぐさまホブゴブリン達へと肉迫する。
「グオォォォォ!」
ホブゴブリン達はこちらに向かってくるクロイに対し、腕を振り上げている。
(右拳を握っているのが二匹、左手で爪を立てているのが一匹)
二匹が右腕を振り上げているのに対し、一匹だけ左腕を振り上げているのは、先ほどクロイがその個体の右腕の神経をズタズタに傷つけられたため、動かそうにもまともに動かせないのだ。
それを確認すると、クロイは全ての攻撃を最小限の動きで避け、拳を握っている二匹の間へと滑り込む。
そして、クロイは短剣を大きく振りかぶりながら動くことで、すれ違いざまに右側にいたホブゴブリンの片足の建を切り裂き、その勢いを乗せたまま切り返し、もう片方のホブゴブリンの首筋を一突きににした。
「グガァアアアア!」
足の建を切り裂かれたホブゴブリンは叫び声をあげながら地面に倒れ、首筋を突かれたホブゴブリンは叫び声をあげる間もなく絶命していた。
クロイが勝てると確証を抱いたのは、ホブゴブリンも普通のゴブリンと大差ない特徴、知能が低かったことだ。
先ほどからの動きはどれも単調なものばかりで、明らかに力にものをいわせて動いていた。
そのため、次の動きが読みやすく、隙がかなりできているため、こうもアッサリと一匹を片付けることができたのだ。
その後、残りの二匹のホブゴブリンは簡単に殺せた。
敢えて右腕を負傷した個体を残しておいたこともあるが、クロイの最初の一撃が適確に致命的な部分を攻撃していたことが大きかっただろう。
最後に、残っていたゴブリン達を始末して戦闘は終了。既に日はのぼり始めていた。