六話 休憩
それから二人は東へと進み続けた。途中、幾度とゴブリン達に出くわしたが、クロイが全て一撃で仕留めていたため、足留めにすらならなかった。
クロイは休憩なしでぶっとうし歩き続け、気付けばもう既に日は落ちていた。
「ね、ねぇ。もう日が沈んだんだしどこかで休んだ方が……」
「何言ってるんだ?別に疲れてなんかないんだから、このまま進んだ方が村に早く着くだろ」
「いや、そうだけどさ……。ボク達精霊はないけどさ、人間には食欲とか睡眠欲とかあるでしょ?」
「今は眠くもないし、腹もへってはない」
事実、今のところクロイの身体が食べ物を欲しているわけでも、眠気に襲われているわけでもない。加えるなら疲労もそんなに蓄積されている様子も見当たらないのだ。
「それに、夜は暗くて周りが見えづらいし……」
「大丈夫だ。ちゃんと見えてる」
どうやらクロイは夜目が効くようだ。
しかし、さっきからティノンの声にはあまり覇気がない。まるで、何かに怯えているような……
「……まさか、暗いのが怖いのか?」
「べ、別に!そんなんじゃないもん!ボ、ボクが何年生きてると思ってるのさ!十二億八千年だよ、十二億八千年!大体、お化けなんてそんな空想上のものをボクが信じているわけ……ひぎゃ!」
と、その時。突然吹いた風が周りの木々をガサゴソと音を立てながら揺らす。その音に驚いたのか、ティノンは変な声を出してクロイの後ろに素早く隠れる。
「……そういうことか」
「うぅ……そうだよ……ボクだって怖いものの一つや二つはあるんだよぉ……」
どうやら自身がお化けが苦手なことを認めたようだ。
そんなティノンの反応を見て、クロイはため息が漏れる。
「わかった、休んでやる。だからそんなに怯えるな」
「ほ、本当に?」
「あぁ、本当だ」
まるで小さな子供をあやしているかのような会話であるが、実際は十二億八千歳を十五、六歳があやしているのだ。歳だけで見れば、なんとも言えない状況である。
とりあえず、クロイは身体を休めるために近くの木に腰を下ろす。
「ね、ねぇ」
「ん?なんだ?」
「いや、そのー……朝になるまでくっついていてくれない?」
「あぁ、別に構わない」
「そう、それじゃあ……」
そういうとティノンの周りに光が集まり出す。その光は段々と大きくなっていき、直径二メートルほどの大きさまでに膨れ上がった。
次第に光が収まっていき、その場には小さな女の子が出現していた。
「……はぁ?」
一瞬、クロイの思考が停止するも、すぐに状況を確認する。突如ティノンの集めた光の中から現れた見知らぬ小さな女の子。周りを見渡すもティノンの光はなくなっている。
そこから導き出される答えは一つだろう。ズバリ……
「……ティノンなのか?」
「うん、そうだよ」
そう言われて改めてティノンの姿を確認する。
淡い栗色のショートボブの髪型に少し丸まった顔立ち。背は百四十センチギリギリくらいで、歳は明らかにクロイより年下に見える。
「……本当に十二億八千歳のクソババアか?」
「女の子に対してその発言はどうなんだろうね!!!」
クロイとしては別に口にする気はなかったのだが、どうやら本音がでてしまったようだ。
ティノンはそのことに対し、プリプリと頬を膨らませて怒っているようだが、その仕草がなんとも実年齢にはほど遠いものである。
「そ、そんなことより……」
「ん?」
ティノンはおずおずとした仕草でクロイの膝の上に腰を下ろす。
「ぜ、絶対に朝まで離れないでね?」
瞳を潤ませながらティノンはクロイへ声をかける。
それに対してクロイの反応は……
「……あぁ」
かなり素っ気ない返事であった。