四話 哀れなるゴブリン
「……なんだこいつら?」
「えっ……って、あぁ、そういえば記憶喪失だったね。コイツらはゴブリンっていって、かなり弱いモンスターだよ。といっても、流石に普通の女子供じゃ厳しいだろうね。特徴としては知能は低いけど繁殖力が高く、一匹いれば近くに二十匹はいると考えておけと言われているんだ。そして……」
急にティノンの声が怪訝なものへと変わる。
「……不衛生だからすごく臭いんだよ。肉にまでその臭いが染み付いてるから食べられたものじゃない」
「そうか」
素っ気ない返事を返したクロイは、ゴブリン達の方へ視線を移す。
「グギャ!グギャギャギャギャ!」
一匹のゴブリンがいきなりクロイへと襲いかかる。他の二匹もそのゴブリンに続く。
最初に突っ込んできたゴブリンが右手を上げ、爪を立てながら振り下ろ……
「グギャァアアアアア!」
響き渡るのはゴブリンの叫び声であった。
後ろにいたゴブリン達はその叫び声を聞き、足を止めている。
「グギャァ!グギャァアアアア!」
ゴブリンは自身の右腕を押さえて未だに叫び声をあげている。
よく見てみれば、そのゴブリンの右腕の関節部分が抉れており、見ているだけで痛々しい。
この場で一体何が起きたのかは、ゴブリン達も、ティノンも理解していなかった。ただ一人、この状況を生み出したもの、クロイだけがその答えを知っていた。
「へー。この短剣、案外手に馴染むな」
グリップの部分を再度握り返し、手の馴染みを確認するクロイ。
さっき起こったことを簡単に説明するなら、クロイが短剣を素早く引き抜き、それをゴブリンの右腕の関節へと刺し込み、肉を絶つのではなく抉ることによって神経をズタズタに傷つけたのだ。
「とりあえず、もう少しこの短剣に慣れたいから遊ばせてもらおうかな」
その一言は、ゴブリン達にとっては死よりも辛い蹂躙の始まりの合図であった。
「グギャ……。グ……ギャ……」
ついに三匹のゴブリンは痛みに耐えきれず力尽き、それと同時に酷く辛い蹂躙から解放された。
三匹のゴブリン達の死骸の姿は見るにも無惨なもので、四肢は切り口がグチャグチャの状態でバラバラにされれていることからかなり雑な有様であり、顔の鼻、唇、耳等の顔の凹凸部分が切り取られ、体の皮膚はの毛並み剥がされ、終いには両眼をくり抜かれていた。
これは、ここまでやったクロイの異常性を咎めれば良いのか、ここまでされてやっと死んだゴブリン達の生命力を賞賛すべきか非常に悩むところだ。
「う……うわ……」
ティノンの声から判断するに、明らかにクロイにドン引きである。
流石に向こうから手を出して来たからといって、容赦なくここまでやるのは相手からすれば割に合わなさすぎだ。
「それじゃあ、先に進むか」
この無惨な光景を生み出したはずの張本人は、まるで何事も無かったかのように歩を進めはじめた。
「……ボク、クロイが記憶を取り戻すことが不安になってきたよ……」
そんなティノンの呟きは、周りの茂みから響き渡る音にかき消されたのであった。