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一話 始まり

そこは、青々とした木々が茂った森であった。

木々の隙間からは太陽の光が差し込み、森の中は薄暗いこともなく、少し明るいくらいだ。

小鳥のさえずりや、近くにある滝の音が響き渡り、自然が生み出した空間がその場には構築されていた。 しかし、この場に相応しくない(おと)が微かに混じる。


「……う、うぅ……」


その(おと)は普段はこの場に存在しないものの、人間のうめき声であった。

うめき声とはいっても、それには苦しみや憎しみなどの感情など込められておらず、純粋なる意識の覚醒によって漏れたこえである。


次第にその(おと)の主の意識は明確になっていき、瞳を開く。


「……暖かい……」


木々の隙間から漏れ出た太陽の日差しに身を寄せ、そんな言葉を呟く。

初めて(・・・)抱いた暖かな光に包まれる感覚を味わい、目覚めたばかりの男は夢の世界に旅立とうと瞳を閉じかけて……


「キミ、不思議なオーラを纏ってるね」


突如かけられた言葉により、男の意識が再び明確になる。

目を開いてみると、視界には淡い虹色に輝く小さな光が存在した。


「……誰だお前?」


気がつけば男はその光に対して声をかけていた。

男は直感ではあるが、自分に声をかけたのが目の前に存在する小さな光であると確信がもてたのだ。


「おや?案外驚かないんだね。普通の人間なら、『なんだこれ?』ってみたいな顔になってボクを見るんだけど……、なんでそんな不機嫌そうな顔をしてるの?」


少年とも少女とも取れる声が男に話しかけるが、そのことに対し男は少し不機嫌な顔になっていた。

男は再び口を開く。


「質問に答えろ。お前は誰だ?」


どうやら自分の問いに答えなかったことに苛立ちを覚えているようだ。


「短気だなぁ。まぁ、別に気にはしないけどね。ボクはティノン。十大精霊の一人、知の大精霊と言えば分かってくれるかな?」

「いいや、サッパリだな」

「うん、即答だね。しかし珍しいね。十大精霊はかなり有名なんだけどね」

「ふーん」


男は興味なさげな相槌を打つと、その場から立ち上がり、滝の音がする方へと歩きだす。


「ちょ、ちょっと待ってよ!少しくらいは気になったりはしないの?」

「あぁ、全く」


男はティノンの問いには答えてはいるが、大して気にしてない様子で歩みを進める。

するとすぐに森を抜け、目の前に広がっていた光景は五メートルほどの高さから流れ落ちている滝と、直径七メートルほどの滝つぼであった。


男は滝つぼに近づくと、水面を覗きこむ。そうすることにより、男はようやく(・・・・)自分の姿を確認できた。

黒眼黒髪に鋭い目付きに、若干幼さが抜けきれていない顔つきをしているため推定十五、六歳程であろう。

服装は動きやすさを重視した革鎧を身につけており、腰には短剣が装備されていた。


「あ、そうそう。キミの名前は?ボクだけ質問に答えてキミだけ質問に答えないってことはないよね?」

「あぁ、別に構わないんが……」

「ん?」


男は少し間を開けてこう答えた。


「生憎、俺には名前がないもんでな」

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