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潜入

「ったく、掃除くらいしろよな~」

「仕方ないですわ。お姉さま。もう何十周期も使ってなかったのですもの」


 惑星ヴィーダ。この惑星を支配する帝国首都にほど近いセプティム市の地下坑道を二人の娘が、小さなライトを頼りに手探りでゆっくりと進んでいく。姉の『疾風ミローナ』と妹の『暴風エトリン』だ。


 狭い地下坑道だったが、小柄なミローナはなんとか普通に歩けた。だが背の高いエトリンは天井に頭をぶつけないように精一杯身を屈めていなければならなかった。それでも一定間隔で、ゴツンという音と「きゃっ」という声がセットで生産されていた。


「昔はこんなの潜って闘ってたんだぜ」

「その頃のゲリラさんは大変だったんですね」

「テレポーターが帝国で十人もいなかったなんて信じらんねぇな」


 惑星ヴィーダでテレポーターが増えたのは、それほど昔のことではない。情報思念体のイメージを固定、記録、再生する『クレスト』量産がそれを可能とした。テレポートによる危険が軽減され、潜在的にテレポート能力を持った者の能力開花が促進された。今では帝国全土でテレポーターと呼ばれるものは八万人を超える。


「時代は変わるのですよ。姉さま……あいたっ」

「斬首作戦ってか。それでも援護なしって訳にもいかねぇんだよな」


 ミローナが愚痴る。


 外から派手に攻撃して注意をひきつけ、その隙に敵司令官のすぐ脇にテレポートして一撃で倒してしまう「斬首作戦」。それがゲリラ戦の中心となって以来、地下道を掘って潜入するやり方はすっかり廃れてしまっていた。


「御心配要りませんわ。たとえ一人になっても、ミローナ姉さまはこのエトリンがお護りしますから」


 天井にぶつけた頭をさすりながらエトリンが答えた。


「お前の世話にはならねぇよ」


 ミローナは強がってみせたが、エトリンのソルジャーとしての能力を一番評価していたし信頼もしていた。未知の対宇宙の世界では何が起こるか分からない。だが、エトリンが傍にいてくれればなんとかなる。そう思っていた。


「あ、み~いつけたっ」


 突然エトリンがしゃがみ込んで何かを拾った。ミローナがまたかという顔をする。


「姉さま、ほら、綺麗ですわよ」


 エトリンが手の平に乗せた小さな石を見せる。エメラルドグリーンの石だ。瑪瑙に似た白い縞模様が入っている。


「お前な、これから対宇宙にジャンプするってぇ時に、そんなん拾うなよ」


 ミローナが呆れたようにいう。


 エトリンには宝石集めの趣味があった。彼女の部屋は大小様々な石で溢れている。しかし若いエトリンにとって、高価な宝石は易々と手に入るものではない。彼女のコレクションの中で、宝石と呼べるものはほんの少しで、残りの殆どは荒々しいままの鉱石だ。だが、それら鉱石はエトリンが自分で見つけたものだ。エトリンは綺麗な石を見つけると、何でも拾ってしまう癖がある。今回、エトリンはクレストを持たされていたのだが、それだけに、彼女は宝石でもあるクレストを持てることに大喜びしていた。


「えぇ~。でもぉ。綺麗なんですもの。いいでしょ。姉さま」


 エトリンがおねだりする。ミローナは、邪魔にならねぇ程度にな、といって仕方なく許した。


 惑星ヴィーダではテレポート能力者の数に比べて、情報思念体を『クレスト』に封印、解除できるエミット能力者は極端に少ない。帝国全土で千人にも満たない。増してやテレポート能力とエミット能力を両方持つ能力者は更に少なくなる。ミローナはその二つの能力を持った数少ない能力者だ。


 だが、ミローナのエミット能力の源泉は後天的手術によるものだ。頭にある二本の角がそれだ。


 しかし、エミット手術をしたからといって、誰でもエミッタ―になれるわけではない。エミット手術は因子を移植するだけで、能力の発現には訓練を必要とする。しかも必ず発現すると限らないどころかその殆どが徒労に終わっていた。ゆえに、エミット手術をしようとする者は滅多にいなかった。それをミローナはやり遂げたのだ。


 ミローナはエミット能力を身につけるために、血の滲むような、いや文字どおり血を流す努力を積み重ねてきた。エトリンはその姉の努力をその目で見ている。その困難さも。


 だからエトリンは、姉の角を馬鹿にする者を許さなかった。


エトリンはテレポート能力を持っていなかった。ミローナと一緒に次元調整に入ったエトリンは、最初からソルジャーとして、強化筋繊維、強化金属骨置換手術を受けた。その体躯に見合う金属骨格と強化筋線維は次元調整機構にいる数多のソルジャー達の中でも群を抜くパワーを与えた。


あるときミローナの角を嗤った次元調整機構のソルジャーがいた。その哀れな男はエトリンの報復を受けた。完膚なきまでに叩きのめされた。


 それ以来、エトリンは『暴風』の二つ名を冠され、彼女の前でミローナの角の話はタブーとなった。いつしか二人は『風の姉妹』と呼ばれるようになっていた。


 今、その『風の姉妹』は、かつて「島の記憶」の支部であった建物へ潜入しようとしていた。ここに対宇宙へジャンプするための六角転送基がある。古代文明遺跡から発掘されたこのシステムの目的と操作方法の一部が分かったのは「宙の王」がいたからだ。


 「宙の王」は太古の記憶の断片を呼び起こし、転送基に関するメモを当時使われていたであろう先史古代語で書き残した。それらを解読することで、対宇宙へジャンプする方法が分かったのだ。しかし、ジャンプした対宇宙からこちらに戻ってくる方法は、やはり先史古代語で書き殴られたメモを解読するしかなかったのだが「宙の王」が残したメモは断片に過ぎず、完全には分からなかったのだ。


 ミローナとエトリンの二人は、次元観測機構が占拠する、かつての自分達の家に潜入、六角転送基をジャックして宙の王のいる対宇宙へジャンプしようとしていた。


 ミローナだけなら簡単に「斬首作戦」ができる。夜陰に紛れて、転送基の部屋に直接テレポートして、中の衛兵を片づけるだけだ。だが、テレポート能力がないエトリンと一緒となるとそうもいかない。結局昔ながらの地下からの潜入となったのである。


 『風の姉妹』が地下坑道を抜けると、ちょうどそのタイミングで、耳に取り付けた超小型無線機が振動した。


「どうだ。『風』は抜けたか?」


 本部からの通信だ。深眼のネヴィスがその「深眼」で二人の行動を「観て」いたのだ。


「お蔭様で。ネヴィス様」


 自分の耳の無線機を右手の人差し指と中指で抑えながら、エトリンが返答した。


「よし。これから直接誘導する。指示に従って移動してくれ」


 深眼のネヴィスが向かうべき道筋を教えてくれた。警備の交代時など、人がいなくなった一瞬のタイミングを突いて二人はスルスルと建物に潜入する。ちょっとしたドアは、ミローナがテレポートして中から開け、頑丈にロックされた閂も前まで使っていた鍵で殆ど開けることができた。いくつかの新しい閂は、対侵入者システムが自分達を敵と認識していないことを確認してから、ミローナが怪力で引き千切った。こうして、二人は転送基のある部屋の傍まで難なくたどり着いたのである。


「やっぱ、三セグエント程度じゃ、何も変わんねぇか。あいつら中身を改装するくらいやるかと思ったのによ」

「私達が居た頃と変わってませんわね」

「鍵すら替えねぇとは手ぇ抜き過ぎなんじゃねぇのか」

「ふふふ。でも、こうしてお姉さまと一緒に作戦だなんて、昔を思い出しますわね」

「ふん。こういうとき昔話は御法度なんだぜ」


 エトリンを窘めるミローナだったが、彼女も実は、次元調整機構を辞め、エトリンと一緒に「島の記憶」に入った頃を思い出していた。敗北感に打ちひしがれていたあの日。未来の希望を失っていたあの日。そして「宙の王」と共に生きようと誓ったあの日――。

 

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