消失の始まり
事件が起こったのは高校生活が始まってからすぐだった。学校はその話題で溢れかえり、どこに行ってもその話を耳にするようになった。話題の始まりは、三日前の全校集会で校長先生から告げられた言葉からだった。
「最近、ニュースでよくとりあげられている集団失踪ですが、我が校の生徒からも被害者が出てしまいました」
その時はただの失踪なのに“被害者”だなんて大袈裟だなとロクに聞いていなかった。しかし後に風の噂から得た情報で、消えたのが美喜だと知って戦慄した。入学式のあの時以来、それほど関わりは無かったが知人がいなくなるとやはり思うところはある。だが私は、不謹慎にも少しわくわくしていた。こういうアブノーマルな、イレギュラーな出来事が身近で起こると推理小説みたいで楽しい。昔から好きだった推理小説やドラマに影響されているのだろうが私のこういうところはいけないところだと自分でも思う。だが好奇心は止められなかった。
私は美喜と仲の良かったというバスケ部のマネージャーから美喜の住所を聞き出して美喜の家に向かっていた。というか、かなり前から玄関についているのだが人の気配が全くしない。一人暮らしをしていたとは聞いていないし、車もあるから親が家にいると思ったのだが何度インターホンを鳴らしても中から人が出てくる様子が無い。かれこれ二十分ほど待っているが誰かが返ってくることもなかった。あきらめて帰ろうとした時、フッと部屋の電気がついた。それと同時に玄関の扉が静かに開いた。
「あなた、いつまでいるのよ」
怪訝そうに扉から首だけ出して私を睨む。
「すみません。西田美喜さんの失踪についてお伺いしたいのですが」
「あなたもマスコミの回し者なんでしょ? あたしは騙されないんだから」
この様子から、かなり報道陣から粘着質な聴取をされたらしいと伺える。
「いえ、私は美喜さんと同じ学校に通うただの高校生です。美喜さんとは入学式の日にお会いしまして、仲良くさせて頂いておりました。美喜さんが失踪したと聞いたのですが、私には彼女が失踪するような人には見えなくて。真相を聞きたくて今日は参りました」
「………」
しばらくの間があいたが、美喜の母親は何も言わず扉を開けて中へ迎え入れてくれた。