少女は母に夢を見る
あれ以来、時々夢に見るようになった。誰も信じてくれないので密かに痕跡を探したこともあったが収穫はなかった。私はあの出来事を昨日のように覚えているのに何も残ってない。父の血痕の一滴すら見つからない。ベランダから飛び降りた男も見つかっていない。本当に夢だったのではないかとすら思えてくる。
「凛、いつまで寝ているの。今日入学式でしょ。初日から遅刻するわよ」
「あ、そうだった。すぐ着替えるよ」
そう、今日は高校の入学式。小さかった私もついに女子高生になった。憧れの制服に袖を通す。うん、なんとなくわかってはいたけど制服に着られている感じがする。まぁそのうち慣れるでしょ。気を取り直してリビングへ向かう。
「おはよう、お母さん」
「おはよ」
「お母さんは、今日の入学式来るの?」
「行くわよ、と言いたいところだけど重要な会議が急に入っちゃって行けなくなった。写真は涼くんのお母さんに頼んでおいたから後でじっくり見させてもらうわ。行けなくてごめんね」
「う、ううん……会議なら…仕方ないよね。私のことは気にしなくていいから」
「そういってくれると助かるよ。朝ご飯は机の上に置いてあるから。じゃあ行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい」
また、来てくれないんだね。仕事が忙しいのはわかるけど娘の入学式くらい見に来てくれてもいいのに。
少々ふてくされながらも朝ご飯を食べる。思えば小学校の入学式以来、こういった行事に来てもらった記憶がない。いつも仕事か会議だ。正直少し寂しい。
そんなことよりご飯と重くなる心を払い退けて茶碗を手に取ると、母がつけっ放しにしたテレビのニュースに目が留まった。見出しはこうだった。
「怪奇現象! 集団失踪の謎に迫る!」
怪奇現象という言葉に興味をひかれたがすぐに机に向き直った。長時間労働やイジメが多発しているこのご時世、失踪など珍しくもない。集団というのは少々気になるが偶然にも数件の失踪が重なっただけだろう。マスコミは誇張して報道する癖があるから嫌いだ。
ふと時計を見るとあと十五分で入学式が始まる。とてもまずい。大変まずい。朝ご飯を無理矢理口に頬張り、お茶で流し込んで急いで家を出た。




