少女の悪夢
小さな少女――相田凛は目覚めの悪い朝を迎えていた。
(またあの夢か…)
あの日、リビングで気を失った私は自分の部屋の布団で目が覚めた。夜勤から帰ってきた母がリビングで寝ている私を見つけて部屋まで運んだらしい。私は昨夜の出来事を思い出して、布団から飛び起き、リビングへと向かったが、そこにはいつもと変わらない様子の母がいるだけだった。
「おはよう。あんた昨日ここで寝ていたのよ。すぐ風邪引くから、ちゃんと部屋で寝なきゃダメじゃない」
「そんなことはいいの! パパは? パパはどこなの?」
そういう私の顔を見て母は不思議そうな顔をした。
「あんた、寝ぼけているの?」
「寝ぼけてなんかいない! パパはどこなの?」
「……あんた今日は学校休みなさい。きっと疲れているのよ」
何かがおかしい。母はまるで父親などいないかのような口ぶりだ。だが少女には、昨日まで仲睦まじく暮らす家族三人の姿がはっきりと記憶されていた。
後で聞いたことだが、この時父親はすでに亡くなっていることになっていた。
結局、少女の話にはだれも耳を傾けてはくれず、少女が父親を欲するあまり、おかしな夢でも見たのだろうということで片づけられてしまった。