終わりの始まり
翌日、母が仕事に行った後、朝食を食べながら、私はテレビのニュースを穴が開くほど真剣に見ていた。
「集団失踪事件 消えた人々の行方は?」
美喜と同じように、何人もの人間が姿を消した事を伝えるニュースだった。
(数日前から流れていたこのニュース、やっぱり美喜と同じように失踪じゃなくて消失なのかな)
いつ自分が消えるかわからない状況にみんなきっと不安だろう。私も少しだが不安はある。いったい消えたみんなはどこへ行ってしまったのか。死んでしまったのだろうか? あるいは生きていてどこかに隠れているだけなのだろうか? そんな疑問を抱えながら私は学校へと向かった。
この町の人たちもなんとなく暗い表情をしているように見える。商店街はいくつかシャッターが閉められたままの店もある。
「店主が失踪したため、お店は閉店します」
そんな張り紙のある店も数件あった。
教室へ入ると、暗くて重い空気に包まれていた。何人かでコソコソ話し合う人や、泣いている人もいた。どうやら家族や恋人を失ったらしい。
友美は自分の席でボーッと携帯をいじっていた。
「おはよう。」
「おう、おはよう。なんかすごいことになってんな」
「家族や友達がいきなり消えちゃったんだもん。仕方ないよ」
ホームルームが始まる合図が鳴る。ガラガラと音を立てて教室に入ってきたのは、いつものけだるそうな沢口先生ではなかった。背が高くて細身、かけた眼鏡の奥には鋭く吊り上った隈の濃い目があった。教頭の川本先生だった。
みんながざわつき始めた時、川本先生から告げられた。
「B組の担任である沢口先生は諸事情により担任から外れました。次の担任が決まるまでは、しばらく私が担任を務めます」
嘘だ。この教室の誰もが確信していた。沢口先生も消失したのだ。父である沢口先生をあれだけ嫌っていた友美でさえ驚きを隠せないのか、目の焦点が合っていない。消失事件はどんどん加速していった。最初に美喜が消失してから、校内の被害者はいつの間にか二十人を超えていた。学校側も帰る際はなるべく一人にならないよう呼びかけていた。だがそれはおそらく無駄に終わるだろう。
これは、異常だ。
人間の手でこんなにも大勢の人を誰にも見られず行うなんて不可能だ。
私は放課後、被害者たちと最後にあったという人たちを訪ねた。どうやら現場に服だけ残っていたという奇妙な現象は美喜だけではなかったようだ。まるでその場から肉体だけ消え去ったかのように、その場には服だけが残されていた。
(失踪した人たちに共通点は服だけが残されていたというただ一点のみ。いつ、何処で、誰が消えるかわからない。一体、今この世界で何が起こっているの………)




