あの日の夜
小さな少女は、電気のついていない家の中を彷徨っていた。時刻は零時を過ぎていた。外は大荒れの天気で、雨が窓をたたく音と雷の音が部屋の中にこだましていた。
「パパ……どこにいるの? パパ……?」
大きな物音で目を覚ました少女は、いつもなら隣で寝ているはずの父親がいないことに気付いて捜し歩いていた。両親が共働きで母は毎日夜勤なので、夜はいつも少女と父の二人だけだった。
暗闇と雷の音に怯えながら少女はゆっくりと歩く。少女は恐怖心で泣きそうだった。
やっとの思いでリビングに入った。が、誰もいなかった。テレビがついたままになっており、砂嵐の雑音が響いていること以外は何も変わらなかった。
「もうっ、いつもつけっ放しにすると怒るくせに。パパだって人のこと言えないじゃん。」
少女は嘆息しながらテレビを消した。しかし電源ボタンを何度押してもテレビが消える様子はない。
「ん…、壊れちゃったのかな…」
すると突然、不気味な音と共に、テレビの画面が切り替わった。
古い木製のテーブルに淡いピンクのソファ。少女が一目ぼれをし、父親に頼み込んで買ってもらったソファにそっくりだった。そして手前に映る少女。
「私…?」
不思議そうに画面を触ると、画面の中の少女と手が重なる。
「おやおや、起こしちゃったみたいだね」
突然知らない男の声が後ろから聞こえてきたので思わず声が漏れる。
全身を覆うほどの大きな茶色のマント、顔はフードで隠されてよく見えない。部屋全体に不思議な沈黙が降りる。さっきまで耳障りなほど鳴り響いていた雨や雷の音が嘘のように止んでいた。
「音もなく静かに処理したつもりだったけど」
もう一度男は口を開くと、右手に持っていた何かをこちらに放った。それは、床とぶつかって重々しい音をたてながら、少女の足元に転がってきた。
少女は頭が真っ白になった。
人間の首。見間違いようの無い、少女の父親の首だった。
少女は目の前の光景に脳の処理が追いつかず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
男はクルッと向きを変え、窓からベランダに出るとこう言った。
「恨まないでおくれ。この男はこうなる運命だったのさ。諦めてお布団に戻りなよ、お姫様」
そういうと男は手を広げてベランダから飛び降りた。
少女は何が起こっているのか分からずパニックになり、段々と意識が遠退いて行った。