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いざ、バトル!

電子音に混じってカタカタとキーボードを叩く音がする。

それもデスクトップについているような凹凸の大きいタイプ。それをとてつもない速さで打ち込んでいるような音。

寝ていた脳が起動準備に取り掛かる。脳内で演算が始まり、眠ってからどれくらいの時間がたったのかを計算し始めた。

人の脳はどんなスーパーコンピューターにも負けない演算回路を作り出すという。しかし、人間は脳の10%も引き出せていないというのだから驚きだ。もし、100%引き出せたらいったい人間はどうなるんだろうか。

カタカタと音が鳴り続ける。

脳が少し、周りの状況に興味を持った。

おかしい…さっきまで食堂にいたはず。それなのに周りからは喧騒もない、それどころか食器の擦れる音も聞こえない。

ただただ、キーボードを叩く音が…その音だけが聞こえる。

脳は準備を終えて再起動を始める。

ふと気が付くと掌が冷たいものに触れていることに気づく。鉄のような一枚の板。

ジジッと回路に電流が流れたような音がする。

平衡感覚が戻ってきた。

俺の体は横に寝ている。鉄のような板の上に横に寝かされている。

いったい、ここはどこだ?

一際大きくカタン…と鳴った。まるで最後にエンターキーを思いっきり叩いたような音が響く。

その音ともに視界に青と白い点が入り込んでくる。

秋空のような淡い青。それがどこまでも続いている。天井はない。しかし一ヶ所の四角く黒い場所を除いて。

空にたくさんの白い点が絶えず行き来している。

自分の置かれている状況を飲み込むために周りを見渡すと床と思われる色とりどりの配線の海の上にキーボードが浮いている。そしてそのそばに何かがいた。

それは尾びれで宙に浮いていて胸びれで配線をいじっていた。しかし、キーボードは触れもしていないのに勝手に打ち込まれている。

脳が再起動を終え、しっかりと状況を把握し始める。

「あっ、起きた?」

………その尾ひれで宙に浮いている生き物が俺の視線に気が付いた。

「おじいちゃ~ん、僕やったよ~‼」

俺を放置して一匹で盛り上がるそいつ。

置いて行かれる俺一人。

「なぁ…」

「あっ、自己紹介が遅れました。僕、ステイルと申します。此度は僕の招待状を受け取っていただきありがとうございます。僕はこれからシュウ様の身の回りのお世話をさせていただ…」

「ちょっと待って」

「はい何でしょう?」

まるで何か疑問に思うことでもありますか?というようなつぶらな瞳を俺に向けてくる。

いろいろ聞きたいことがある。無いわけがない。

「まず、いくつか聞きたいんだけど……」

「はい」

「ここはどこ? そして君は何だい?」

「招待状にいろいろ書いてあったはずですけど…僕のことはさっきも言いましたよね。僕はステイルで…」

そしてさっきの話をもう一回話し出す。

そうじゃなくて、君という存在はいったい何なんだと問いたいのだ。

じっとりとした眼差しで目の前に浮かんでいる生き物を見つめる。見た目はイルカに似ているがイルカは宙に浮かばないだろう。その前に話すらできないはず…。

相変わらず淡い青空は白い点を行き来させている。

「そもそも招待状って何だい」

「えっ…SNSのメッセージ機能で送ったはずですけど?」

「あぁ、あの文字化けかい」

………………………。

二人の間に無言の時間が流れる。

時間がたつにつれてイルカ…ステイルは汗らしきものを流し始める。

「もしかして…」

そうつぶやきキーボードのほうに体を向ける。

そしてまた触れもせずキーボードが叩かれる。いったいどういう原理なのだろうか。

「うわぁあ…やっぱり文字コード間違えてる……」

ステイルの背中が一目見ただけで分かるくらいに落ち込んでいる。こうも目に見えて落ち込まれるとなんとかしなきゃいけないような気持ちに俺は駆られる。

昔からそうだ、落ち込んでいたりしてる人を放っておけないというか見捨てて行くことができないのだ。

「まぁ…そんなに落ちこ……」

ステイルの背中をさすろうと手を伸ばした自分の手がおかしい。

毛むくじゃらである。もっさりしている。フカフカである。掌を見てみると肉球がついている。プニプニしている。

プニプニプニプニプニプニプニプニ……

「な…なんじゃこりゃぁぁぁああ‼」

俺の声に跳び跳ね、あわあわと慌てているステイル。

視界の隅にその姿を捉えながら自分の体を隅々見てみる。

身体中柔らかい毛で覆われている。それどころか尻尾まで生えてる始末。

「おい、どうなってるんだこれ!」

「あぁ…それは僕が一から構築したプログラムでシュウ様をその体に……」

「今すぐ戻せ!」

「それは出来ません」

急に真顔で顔を向けてきて言い放った。

「ここは僕のウェブサイトです。ここでは僕のプログラムでないと活動することができません。なお、このウェブはアニマルフィールドとなっております。そのためヒューマンモデルのプログラムは侵入、および行動が許されていません」

ステイルはそう言うとにっこり笑ってわかりましたか?と俺に訪ねてきた。

俺は勢いに押され、首を縦に振る。

「まぁ、別のウェブにも合わせて行動できるようにプログラムしたからヒューマンモデルにもなるけどね。でも、ここではその姿じゃないと動けないんだよ」

急に敬語を止めたと思ったらまた俺に背中を向けてごそごそと足元に広がる配線の海の中から一冊の薄っぺらな本を見つけ出す。そしてその本はステイルの胸びれから離れて俺の目の前にふよふよ浮かぶ。

もう、さすがにこれくらいでは驚かない。

手を本の下にかざす。するとストンと掌に落ちてきた。

「招待状マニュアル…?」

「うん、本当は文字化けを起こさなければ読めたはずなんだけどね」

そういうとステイルはまた配線を弄り出す。

そしてまた俺は暇になる。しかたないから本の中身を見てみようと思い、ページに力を加える。

「ふんっぬぅ……!」

だが開かない。その薄っぺらい本はぺったりと糊でくっついているかのごとくページを擦ることができない。

歯を食いしばりながらページを擦ろうと頑張っているとステイルがこちらの状況に気が付いた。

「あ、それスクロールするだけで開くよ?」

……表紙に人差し指を置き右にスッと動かすと先ほどまで格闘してたのが馬鹿みたいに開いた。


<招待状マニュアル>

招待するにあたり記載しておかなくてはおかなければいけないこと。

その一. 招待状という題名で送ること

その二. 招待する理由を記載

その三. デジタル世界において最低限守らないといけないことを記載

その四. サイトマスターは自分のフィールドの特記事項を記載

その五. 精神誠意でお招きしますという心意気

                   以上。



「どこの旅館だよ…」

そういうつぶやきが口から洩れた。

スッと次のページに送ると例文が載っていた。



(例文)

忙しい中この招待状に目を通していただき誠にありがとうございます。

さて、本題に入らせていただきますが今回あなた様にこのような文を送らせていただいた理由としましては「理由」

上記の事柄に特に問題がなければ下記のバナーをクリック…またはタップしていただけると幸いです。

  「ウェブサイトのバナー(人間をデータ化するようにプログラム)」



「どこの釣りサイトだよ…」

本当にこの本が正しいのかよくわからない。そもそもステイルがこの本を俺に見せて何をしたいのかが分からない。

次のページを開いてみると練習スペースらしき場所にステイルが打ち込んだのであろう文章が書かれていた。おそらくここを見せたかったのだろう。

今までのはただの突っ込み要素でしかない。



忙しい中この招待状に目を通していただき誠にありがとうございます。

さて、うだうだとあいさつをしてもあれなのでいきなり本題に入らせていただこうと思います。

今回、あなたにこのメッセージを送らせていただいた大きな目的としていくつかあります。

一つ目、あなたの考える力が必要だということ。

二つ目、あなたが一番私のプログラムに適していたこと。

三つめ、こちら側に来ていただいてウイルスプログラムと戦っていただきたいということ。

以上の三つです。

上記のことに目を通していただいた後、下記のバナーをタップしていただくと契約終了です。

なお、私はどのようなことがあってもあなた様を守ることを誓いましょう。



「理解できた?」

「まぁ…」

「じゃあ行こう!」

「……どこに?」

ステイルは決まってるじゃないとにっこり笑う。

「バトルだよ、バトルしに旅に行こう。はい、これ武器ね?」

と言って手渡されたのは木刀。

………。

「なんか違う…」

「なにが?」

「なにが、じゃない! そもそも俺の考える力が必要って、ウイルスと闘うって何のために、俺がお前のプログラムと適してるってなんだよ! 俺をもとの世界に戻しやがれぇ‼」

「もぅ…さっき、まぁ…って言ったじゃない。いちいち質問が多いよ。そもそも僕は容量がそんなにないからたくさんのこと聞かれると処理落ちしちゃうんだけど…まぁいいや、答えてあげる」

そう言ってステイルはスイッと空を見上げ、空に手をかざす。そしてステイルは何かプログラム名らしきものをぼそっとつぶやくと今まで空だと思っていたものに四角く切り取られたような穴が開く。

「その剣、ちょっと貸して」

すっと俺の手から木刀をとるとその指のないでぐっと握る。

「じゃあまずは僕たちのことからだね。僕たちはアンチウイルスソフトウェアだよ。僕たち…アンチソフトウェアは本来、ウイルスなどの特徴を記録したデータファイルと、この内部でやり取りされるデータを比較してウイルスを検出しているんだ。そうして自分のフィールドをウイルスやクラッカーから守っているんだよ。でも、今はネット社会の時代、ウイルスの種類は僕たちのデータファイルよりもはるかに多くなってしまったんだ」

俺は話を聞きながら四角く開いた空を見上げていた。

空は穴の開いている場所だけ真っ暗でその向こうに白い点が行き来していた。

「それだけでも大変なのにある時、どっかの天才が素数の仕組みを解明してしまったんだ。つまりどんなパスワードでも開くことができるようになってしまったということだよ。しかも、その天才はプログラムというものに興味を持ってしまった。そしてあらぬ事を考えた。ウイルスに意思を…つまり考えようとすることができるようにしたらどうなるか…と」

ふざけた話だよね、と軽口をたたくと前傾姿勢をとる。

「さぁ…衝撃くるよ!」

「衝撃って…」

なんだよと続きを言う前にバキンッと何か固いものを力で無理やり砕いたような音が聞こえた後、爆風が俺の体を吹き飛ばす。

「―――――ッ、僕のプログラムをよくも…!」

穴から出てきたのは小さな黒い物。俺のこぶし大くらいの大きさの小さな四角い箱。

俺の第一印象はあんなのがウイルス?といった感じである。ただの箱にしか思えない。

「あれはファイアウォールを突破するときの衝撃に耐えられるようになってるだけ、油断しちゃだめだよ」

ステイルはもう一度、木刀を強く握りしめる。すると木刀はどういうわけか鉛色に鈍く光を放つ刀に変わる。俺が驚いているうちにステイルは尾びれで空を強く打つと黒い物体に飛んでいく。

その鉛色の輝きを放つその刀をズドッと音を立てて黒い物体を配線だらけの床に貼り付けにする。

「終わり…?」

そう思って俺はその黒い物体にゆっくり近づく。

「触っちゃダメ‼」

「えっ?」

あと数センチで届くというところで俺の毛むくじゃらになった手は止まる。

するともぞりと刀が刺さったままで黒い物体が動き出す。

「いhtfgljgbんぎィィィィィィィィィ―――――――ッ‼‼‼‼‼‼」

「うおっ」

機械音のような鋭く甲高い音を立てると箱の四隅から何やら足のようなものを生やし、ガタガタ震えだした。そして黒い箱からネジのようなものが抜ける。するとカッと黒い箱の隙間から白い光が漏れる。

「離れてッ!」

俺の体をステイルが弾き飛ばし、それと同時に爆風が俺の体を襲う。

キィィィィイィィィイン…と甲高い耳鳴りのような音があたりに響き渡った。

その音は辺りの配線を波打たせ、刺さっていたはずの刀を吹き飛ばす。刀は俺の頬を掠めて後ろに飛んでいく。

黒い箱は穴が開いた場所から0と1が流れ出す。

しかし、止まらない。がたがた体を軋ませながら俺めがけて進んでくる。俺は倒れた体を起こしてこのばから離れようと足を動かす。

足が震える、耳鳴りがひどい、肺が押しつぶされそうなほど苦しい…。

ステイルの身体が見える。半身しかなく、身体の片割れはどこにも見当たらない。見たくはなかった。

俺をかばったばっかりにステイルは………。そのステイルの半身の向こう側にステイルの握っていた刀が見える。

俺のせいだ、俺の、俺の、俺の、俺の俺の俺の俺のおれのおれのおれのおれのおれの……。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」

残りの体力すべてを使って走りだす。それと同時に黒い箱も飛び出す。

ステイルを飛び越え、刀を引き抜く。しかし、刀は俺が握ると同時に木刀に戻ってしまう。

「なんでだよッ!」

振り返るとこちらに向かってくる0と1を撒き散らしながら黒い箱が走ってくる。

ガンッと俺の腕にぶつかると俺の体を吹き飛ばす。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

俺は確かにいつもと違うことが起こればと願ったけどこんな世界は願ってない!

黒い箱はがたがた揺れながら突き進んでくる。

「うわぁぁぁぁぁぁぁあ!」

もう当てずっぽうで振り回す。なんとも言えない衝撃が木刀を通して伝わる。

硬いでもなく柔らかいでもない、すこし湿った段ボールを棒で叩いた感じ。弾き飛ばした黒い箱はひしゃげた段ボールのような形で転がる。

「はぁ……はぁ……」

息が荒く、肩の上下が一向に収まらない。

何故、木刀なんだろう。さっきまで鉛色に鈍く光る刀だったのに……。

力……力が欲しい。今この状況を突破出来るような力が……。

そう願っても木刀は一向に形を…形質を変えない。いったいどうやったら形が変わるのだろうか…。

そういえばステイルがこの世界で俺の考える力が必要だと言っていた。

…ちらっと手元の木刀に目線を落とす。考える力…つまり想像力だ。俺の中で最も強そうな武器のイメージを…。

ガタガタと体を歪ませた箱が近づいてくる。

頭の中に0と1が流れ込んでくる。その0と1は頭の中を埋め尽くしていくだけでなく運動神経まで隅から隅まで0と1で情報伝達が行われる。

バリッと掌の中から電流が流れ、木刀だったものがすらっと長く伸びたいわゆる日本刀といえるような形になっていた。

ガタンとひときわ大きく箱が音を立てる。

それと同時に俺の体は自然と動きだす。この刀の扱い方、身のこなしのすべてが脳を介して運動神経を通して筋肉を動かす。飛び上がった箱に俺は動じることなく一太刀を浴びせる。

不思議と呼吸は落ち着いている。体が軽い。まるで俺の体ではないようだ。

ふぅ…と大きく息を吐き出すとさらにひしゃげた箱に近づく。足が数本取れて、もはや動くこともできなくなった箱に俺は日本刀を突き立てる。

すると再び俺には理解できないような機械音を発したのち跡形もなく消えてしまった。それとともに頭の中を埋め尽くしていた0と1が消えていく。

「今度こそ終わり?」

「シュウ様……大丈夫? 怪我はない?」

後ろから声を掛けられたので振り向くと半身しかないステイルがいた。正直、えぐい。

「おおおお前のほうこそ大丈夫なのかよ!」

俺は後ずさりしながら尋ねる。

「うん、僕はデータだからね、バックアップがあるからなんてことないよ?」

時間はかかるけどね、というと配線の海に突き刺さった日本刀を引き抜く。

「さ、バックアップも持ったしさっさとここ離れよう、シュウ様」

「そのシュウ様っていうのやめて…なんかムズムズする」

「は~い、学習履歴から削除しま~す! さ、行くよシュウ!」

「どこに?」

「別のウェブ」

そういうとステイルは嬉しそうに笑った。



さぁ、この話……急ピッチで進めております。

このステイルには珍しくネタが浮かんでから三ヶ月ほどで形になったものであります。

という形なので書き貯めをしておりました。

次は一ヶ月くらい後かなぁ?

…………久しぶりで後書きがこれでいいのかわかりませんが……以上。


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