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うちの妹は魔法少女だった

「…………」

「…………」


 扉を開けたままの姿勢で硬直する俺。

 俺のベッドに転がったままの姿勢で硬直する柚子。


 そのまま何事もなかったかのように服装の乱れを整え(ちなみに今日は普通の私服だ)出て行こうとした妹を、俺は今度は逃がさない。

 むんずと捕まえて、ぺいっとベッドの上に投げつけた。

 すると柚子はとんでもないことを叫び始めた。


「いやああああっ! お兄ちゃんに犯されるううう!」


 バ、バカ! 声でかい! 近所に聞こえる!

 俺は慌てて妹の口を塞ぎにかかる。


「むーっ! むむーっ!」


 いや、もちろん手で、ですよ?

 でもどうしても、ベッドの上で妹にのしかかるような姿勢になってしまう。


「よ、よし、柚子、落ち着け。話し合おう。……な?」


 俺がそう言うと、ベッドで俺の下になっている柚子は、抵抗をやめて頬を染め、くてっとベッドの上に横たわった。

 ……うん、その無駄に艶めかしい仕草もやめようか。




 その後、長い奮闘と説得の後、俺はようやく、柚子とまともに対話できる状態を作り出すことに成功した。


「で、どういうことなのか説明してくれ、柚子」


 俺は椅子に座り、柚子はベッドの上に正座させている。


「……好きなんだもん」


 柚子がボソッと、小声で漏らす。


「何が」

「お兄ちゃんの匂い」


 ……変態だった。

 説明を求めるまでもなく、そのまんまだった。


 けどなぁ……。


 いや実際、どうすんだよこの状況。

 今日の用事は諦めた。ぶっちゃけそんなものはもうどうでもいい。

 それはいいんだが。


 柚子は、兄としてのひいき目を差し引いても、かなりの美少女だと思う。

 先日の朝の密着状態とか、さっきの押し倒したような姿勢のときとか、本気で理性が吹き飛びそうだった。

 兄弟だとか社会的な命だとか全部無視して、狼さんになるところだったぐらいだ。


 とは言え、冷静になれば、妹は妹だ。

 まともに考えれば、この状況はヤバイ。色んな意味でヤバイ。

 こんなことを続けられれば、俺の理性だっていつまでもつか分からん。


 ──と、そんなことをぐちゃぐちゃ考えていたとき。

 唐突に、柚子のすぐ近くの空間が光を発した。




「なっ……!」


 光がやむと、そこには「妖精」のようなものが浮いていた。

 可愛らしい少女の姿を身長20cmぐらいに縮小したような姿で、背中には羽根が生えている。

 服装は、どこか現代離れした感じのファンタジックなものだ。


「ユズ、大変っす! また街にヤツらが現れたっす!」


 その妖精らしきものは、突然部屋の中に現れたかと思うと、柚子に向かってそんなことを言い始めた。


「そんな、また……!? ごめんお兄ちゃん、この話はまた今度で!」


 それに対して柚子も、意を得た風の返答を返す。


「飛ぶっすよ、ユズ!」


 妖精が言って、何やら呪文を唱え始める。


「おい、待てよ柚子! これは何なん……」


 突然のわけが分からない出来事。

 俺が柚子に向かって手を伸ばしたとき、視界が光に包まれた。




 光がやむと、俺と柚子の2人は、屋外の路上に立っていた。

 ついでに言えば、さっきの妖精もいる。


「な、なんで……さっきまで部屋にいたはずだろ……?」


 俺が驚いていると、柚子とその傍らに浮いている妖精が、こちらも別の意味で驚いた様子をしていた。


「お兄ちゃん! どうして……」

「おかしいっすね。転送範囲にいても、魔力を持たない人間は転送されないはずっすけど……むむっ?」


 妖精が俺の方にふよふよと寄ってきて、難しい顔で俺を注視してくる。


「これは……お兄さんのこの魔力は……」


 だが妖精が何かを言おうとしたそのとき、


「きゃあああああっ!」


 遠くから、絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえてきた。

 さらに、「ドカーン!」とか「ズガーン!」とかいうような、建物が壊されるような音が響いてくる。


「──って、それは後っす! もう被害が出始めてるっす! ユズ、変身するっすよ!」


 妖精がまくし立てる。

 ……変身?


「で、でもお兄ちゃんの前でなんて……」

「そんなこと言ってる場合じゃないっすよ!」


 何やら渋っていた柚子だが、次第に納得したようで「うう……でも、そうだね」などと返している。


「お、おい柚子、一体何がどうなって……」


 一方、俺の方はまったくわけが分からない。

 そんな狼狽するばかりの俺を一瞥して、妹が言う。


「お兄ちゃん、私ね──魔法少女なんだ」


 そして柚子は、右の手のひらを高く掲げて、何やらファンシーな呪文を唱えた。

 それに呼応するように、柚子の体がまばゆい光を発する。


 光がやむと、そこにはアイドルのような可愛らしい衣装を身に纏った美少女がいた。

 まっさらな黒髪は、ナチュラルな栗色の髪に染まっている。

 先日、寝起きのベッドの中で出会った、あのときの美少女の姿だった。


「柚子……なのか?」

「……うん。行ってくるね、お兄ちゃん。ちょっと──この街を守ってくる!」


 そう言って柚子は、キッと遠くを見据えると、とんでもないスピードでそっちの方角へと走って行った。

 人の走るスピードじゃない。あれは……高速道路を走る自動車のスピードか、それ以上だった。




 俺は柚子を追いかけた。

 走る柚子に追いつくことはとてもできなかったが、建物が壊れる音や悲鳴を頼りに現場へと辿り着く。


「な……なんだ、これは……」


 俺は思わず、呆然と呟いてしまう。


 俺のいる場所から50mほど先で、巨大な蟹のようなものが、所狭しと暴れ回っていた。

 怪獣映画の怪獣を現実に持ち込んだら、こんな大きさになるんだろうか。

 3階建ての建物すら優に見下ろす大きさのその蟹が、大きさの異なる左右のハサミをぶんぶんと振り回し、辺り構わず蹴散らしていた。


 その足元で、何か小さなものがちょこまかと動き回っている。

 その小さなものは、とんでもないスピードで動き回り、あるいは巨大な蟹の頭頂部よりも高くまで跳び上がり、巨大蟹に対して強烈なパンチやキックによる攻撃を加えている。


 そのスピードのせいではっきりとは見えないが、俺は、あれが柚子なんだろうと直観した。


「まずいっす……。今回のアイツ、今までのヤツとは比べ物にならないほど強いっす……」


 俺の横に浮かんで様子を見ていた妖精が呟く。

 と、そのとき、巨大蟹の振り回した大きなハサミが、ちょこまかと動き回る柚子の体を捉えた。


 キュン──ドガァンッ!!!


 俺のすぐ横、風を感じるほどの位置を、大砲から発射された砲弾のような勢いで、何かが通過した。

 俺の背後にあった、コンクリート製の頑丈そうなビルの壁が破壊され──


「ぐっ……がふっ……!」


 俺のすぐ背後、崩れたビルの壁に埋もれるように、柚子の体がくずおれていた。


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