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うちの妹は真正の変態だった

 やあ、諸君。おはよう。

 唐突だが、諸君は寝起きが良いほうだろうか。


 俺はまあ、ぼちぼち起きられる方だ。

 こんな寒い冬だとさすがにしばらく布団に包まっていたくなるが、「あと5分~」とか言って二度寝するというようなことは、そうそうない。


 それにだ。

 今日は何というか、寝起きなのに、いつもより温かい気がする。

 人の温もりがある、とでも言えばいいのか。


 ……いや、正直に言おう、比喩じゃない。

 俺が目を覚ますと、俺が寝ているのと同じベッドに、美少女が眠っていたのだ。


 というか、目を覚ました俺の目の前に、互いの鼻とか唇とかが今にもくっついてしまいそうな距離に、その少女がいた。

 一緒の布団の中、である。


 柔らかな栗色の髪、幼いながらも整った顔立ち。

 白い首筋に誘われるように視線を下へと移してゆくと、布団からはみ出た肩が、フリルで彩られたアイドル風の衣装に覆われていた。

 胸元は、大きな宝石のあしらわれたブローチで留められている。


「んぅ……お兄ちゃん……」


 美少女は寝言を呟き、その手足を俺の体に絡め、抱きついてきた。

 少女特有のやわらかな肢体の感触が、体温が伝わってきて──じゃなくって、何だこの状況は!?


 目の前にいるのは、おそらく俺の妹だ。

 髪の色とか服装とかが見たことない風だったから最初は分からなかったが、よくよく見てみれば、俺の妹の柚子ゆずにそっくりだ。


 だが、俺の記憶が確かならば、俺と妹との関係は、普通だ。

 少なくとも、夜から朝まで一緒のベッドでにゃんにゃんするような関係ではなかったはずだ。


「ん……ちゅー……」


 寝ぼけた柚子はさらに、そのやわらかそうな唇を、俺に向けて近付けてくる。

 待て待て待て待て! おかしい! 何もかもおかしい!


 俺は慌てて妹を振りほどこうとする。

 ……が、俺に抱きついた妹の膂力は恐ろしく強く、俺がどんなに力を込めてもまったく引きはがすことができない。

 嘘だろ。どう考えても中学生女子の筋力じゃねぇぞ。


 そして、そうこうしている間にも、柚子の唇が近付いてくる。


 ヤバイヤバイヤバイ!

 何なのこれ!? ご褒美!? 社会的抹殺!?

 ドッキリ!? テッテレーって鳴るのこの後!?


「んー……」


 柚子の唇が今まさに接触しようというその時。


「ふんがぁ!」


 俺は妹に頭突きした。

 ごん、という鈍い音がして、柚子はようやく目を覚ました。




『──昨夜未明、○○県△△市の工事現場で、謎の建造物崩落事故が発生しました。原因はいまだ不明で、警察は何らかの事故の可能性もあると見て捜査を進めており……』


 朝の食卓。

 テレビから流れるニュース報道をBGMにして、家族4人が食事をしていた。


「母さん、醬油取って」

「はい、お父さん」


 父と母。

 つい先日まで名前で呼び合っていた二人は、最近になってお互いのことを「お父さん」「母さん」と呼ぶようになった。

 おそらくそうやって、家族間のまだ小慣れていない関係を、良好なものにしていこうという算段なんだろう。


 この両親は、再婚だ。

 前のろくでなしのクソ親父と離婚した母さんは、母子家庭でしばらく俺を育ててくれたが、半年ほど前に再婚をし、今の家庭を築いた。

 新たに俺の両親となった2人は仲睦まじく、家庭環境は今のところ良好と言えると思う。


 その2人の両親と、お互いの連れ子だった俺と柚子とで、4人家族。

 柚子は父方の連れ子で、母方の連れ子だった俺とは、半年前まで赤の他人だった。


 高校生の俺のもとに突然、中学生の妹ができたわけだから、こっちはいきなり仲睦まじくというわけにもいかない。

 別に仲が悪いということもないが、家族という実感も湧かない。

 それが俺と柚子との関係だった……はずなんだが。


「ごちそうさま」


 柚子はそそくさと朝食を済ませて、自分の食器を流しに片付けると、リビングから出て行こうとする。

 俺の横を通り過ぎるとき、ちらと俺のほうを窺ってきた。


「なあ、柚子」


 と、俺が声をかけると、柚子はその声を無視して、足早にリビングから立ち去って行った。

 それを見た父が困った顔をして、俺に頭を下げてくる。

 俺はそれに対し「いや、こっちの事情なんで、気にしないでください」と言っておく。


 ベッドで柚子に頭突きをして目覚めさせたあの後。

 正気に戻った柚子は、顔を真っ赤にして俺のベッドから跳ね起き、人間業とは思えない速さで俺の部屋から飛び出して行った。


 しかし、着ていたあの衣装は、どう見ても寝間着ではないと思うんだが……最近はああいう寝間着も一般的なんだろうか?

 それに髪の色も、普段は染めていない黒なんだが、あのときはナチュラルな栗色だった。

 あれは本当に柚子だったのかと聞きたかったが、その機会はなかなか得られなかった。




 そんな日常の中の、ある日曜日のこと。


 俺はその日、用事があって、外に出掛けるところだった。

 父と母さんはすでに出掛けており(多分デートなんじゃないかと思う)、俺が出掛けると、家にいるのは妹の柚子だけになる。

 俺は戸締りの注意をすべく、妹の部屋の扉をノックする。


「柚子、俺今から出掛けるから。もし家出るなら戸締り頼むな」


 俺がドア越しに声を掛けると、


「分かった。行ってらっしゃい」


 という柚子の淡白な返事があった。

 俺はそれを確認して、家を出る。


 しかし俺は、家を出て数分歩いたところで、家に財布を忘れてきたことに気付いた。

 まずったと思って踵を返し、急いで家へと戻る。


 玄関で靴を脱ぎ、2階に上がって自分の部屋の扉を開ける。すると、


「ふあぁー……お兄ちゃんのベッド、お兄ちゃんの枕、お兄ちゃんの布団、お兄ちゃんの匂い。スンスン……お兄ちゃん、お兄ちゃぁん!」


 俺のベッドの上でごろごろ転がりながら、俺の布団と枕に抱きつき、匂いを嗅いでいる変態ゆずの姿が、そこにはあった。


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