オタ爽双プロローグ
……これもある意味で連載ネタだったもの。途中放棄。
「憑依(転生)」・「BL」・「爽やか腹黒」・「兄貴」・「チート最強」を足し合わせたらこうなった。
「悠!」
「まかせろ!」
チームメイトから回ってきたボールを蹴りながらゴールを目指して走る俺に、ユニフォームを着た少年が立ちふさがる。目は鋭く俺のほうを見つめており、どいてくれる気はないらしい――
――まあサッカーなんだからね。どいたらゴール一直線だしね。
「今日こそは抜かせるな!」
「「「おお!!」」」
あれ、なんか増えた。ディフェンスが総動員してキーパーのいるゴールを守っている、のは分かるんだが、なぜ全員がよりにもよって俺の前に立ちふさがるんだ。視界が悪くなるじゃないか。……まあ残念ながら。それでも「俺」は抜けないのだが。
「――甘い」
ニヤリと笑って足を後ろに振り上げる。その動作からオレがシュートすると考えた相手チームは身を強張らせるが、その一瞬で全員を抜き去る。
「「「んなっ!?」」」
ユニゾンありがとう。うん、我ながら驚いている。相変わらずのチートボディだな、これ。まさに「一迅の風」だ。
「……今日こそ止める!」
「止めて見せろい」
構える体制に入ったのを見てすかさずボールを勢いよく蹴ってシュートする。ボールはキーパーの方に真っ直ぐと飛んで行――ったかのように思えたが。
「っ、」
キーパーがボールを掴もうと体勢をずらしたその時にボールの勢いが増す。慌てたキーパーの横を鋭い勢いで通り過ぎたボールは――ギュルギュルと音を立てて回転しながらゴールネットを揺らした。それを合図に鳴るホイッスルの音、それから一拍遅れてコートの外からワッと響く歓声に、試合が終わったことに気がついた。
「悠! ナイスゴール!」
「涼。いいパスだった」
「だろー?」
飛びついてきた友人である涼を引き離そうとしながらコートから出ると、途端に周りを囲まれる。
「悠さん!」
「兄貴! カッケーっス!」
「すごかったですよ!」
「ありがとう」
褒めてもらって素直にお礼を言うと周りの全員が顔を赤く染める。そのことに気づき俺は頬をひきつらせながらも置いてあった水筒を手に取った。
「今日は僕が作りました!」
「あー……、うん。ありがとう」
「お口に合いませんでしたか?」
「あ、いや大丈夫。おいしいよ」
不安そうに声をかけてきたので慌てて否定してやると顔を綻ばせて喜んだ……うん、それ自体は悪くないんだよ、それ自体は。俺も笑顔は好きだしね。
ただ問題があるとするならば、その頬を染めているのが全員男子だということだ。
「いつもありがとうね。おかげで助かっているよ」
そう言って目を細めて笑ってやると、なぜか、なぜか全員の顔が赤くなった。……理由? 知りたくない。予想はついているが、その予想が外れていることを心から願おう。
『よかったんすか? あんな態度で』
バッグを持ち帰宅途中、一人で歩いている俺に声がかけられた。周りに人はおらず、鳥の声さえ聞こえないというのに誰が俺に声をかけたのかというと。
「いーんだよ、別に。俺はBLルートを進む気なんざ全くないんだから」
『でも折角の人生っすよ? 好き勝手に生きたほうがいいんじゃないすか?』
「一回終わってるけどな」
俺の上にフラフラと漂っている人の形をしたナニカ。コイツは俺以外には見えず、俺以外の誰にも声すら聞こえない――つまるところ、浮遊霊だ。しかし正確にいうならば霊ではなく「魂魄」と言ったほうがいいだろう。
そして先ほどの発言の意味、それは俺は一度死んだということだ。別に頭がおかしいわけでも痛い奴でもないが、話を聞く限りでは電波か中二病患者かと間違われかねない。しかし事実である。俺は一度死に、この体を乗っ取ったのだ。簡単にいうと「憑依」である。
そしてこの体の本来の持ち主こそがこの漂っている魂だけの物体――俺は「ユウ」と呼んでいる。体自体が悠であり、それと幽霊を合わせたのだ。我ながら洒落ていると思う。
『惚れられてるんすから抱いてやればいいじゃないすか』
「誰が抱くか! 俺は女子が好きな至って普通の男子なんだよ! BLに走る趣味なんざ持ってねえ!」
『でもBLは好きっすよね』
「腐ってるからな」
そこは断言できる。だが俺は二次元や妄想で十分であり、決しておれ自身が攻めたり攻められたりしたいわけじゃない。ファンタジーだけで腹一杯だ。
『「抱いて下さいっ!」って告白までされてたじゃないすか。いつまで知らんぷりするつもりすか』
「やめて記憶を掘り返さないで!」
あれは決して告白なんかじゃない。あの子は人肌恋しかったんだよ、きっと。……それもどうかとは思うけど。これが現実逃避ってこともわかってるけど。
「なんで俺は男子からしかモテないんだ……っ」
『空気じゃないっすか? 成績優秀、スポーツ万能、才色兼備の文武両道。ムードメーカーでクラスのリーダー的存在。おまけに体格も完璧っすからね、「兄貴」って呼ばれるのも理解できるっす』
「言っとくが言動と頭脳は俺だが、顔と運動神経はお前自身のスキルだ。なんだよこのイケメンボディ。どうやったらこんなチートスタイルになるわけ? 前世じゃ雑誌くらいしかこんな筋肉美披露してる奴なんかいなかったぞ」
『オレも知らないっす』
この体に憑依して数年経つが、日に日にチートさが増している気がする。それと比例するように筋肉量は増え、体脂肪率は減少するという……畜生、俺も前世でこんな完璧ボディがよかった。
『……どうせなら攻めてやったらどうなんすか』
「恐ろしいこと言うなよな! 絶対一度じゃ終わらないだろ」
というか一人じゃ終わらないと思う。客観的に見て俺を慕ってる男子って何人いるのよ。同じクラスと学年、後輩、近所の小学生……やめた。絶望的な数字が出そうだ。
『その内襲われるかもしれないっすよ?』
「……お前、性格悪くなったな」
出会った当初は爽やかワンコ系だったのに今じゃ腹に一物も二物も抱えてるもんな……爽やかと腹黒が一人に同居しているのは王道なのか? そうなのか?
『だったら悠さんが腹黒だったってことっすね、オレの知識はほとんど悠さんから教えてもらったものばかりっすから』
「俺が教えたのはオタク知識とBL知識位だ! 絶対にその性格はお前本来のものだ!」
『まっさか~』
ケラケラと笑っているが絶対に俺は誤魔化されないぞ。お前はもともと腹黒キャラだったんだ。そうに違いない。
『……まあそれはそれとして、本当にいいんすか、ほっといて』
「……襲われたら抱くかもしれんが。だが絶対俺は受けんぞ! ケツの穴に剛直突き刺されるなんざ真っ平だ!」
『「ノンケ受け」っすか? 「ガチムチ受け」かもしれないすね』
「だーかーらー! やーめーろ!」
絶対に俺はネコになんざならねえ! 俺は攻めるんだ! かわいい女の子たちをな!
……まあそんな願望もほど遠く。近々リアルに押し倒されることになるなんざ、この時の俺は全く予想もしていなかった。