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徳川大地46歳は無職・DTのまま死んだはずだったのだが

 投稿する場所を間違えてしまった短編。申し訳ありませんでした。

「……ん……? ここは……?」


 目を覚ますと何もない真っ白な空間にいた、俺こと徳川とくがわ 大地だいち。原色の白が目に飛び込んできて思わず目を瞑る。


「えーと、何で俺はここに?」


 とりあえず覚えている限りの自分の情報を思い浮かべた。


 生年月日に出身校、覚えている限りの友人の名前と顔に、好きだった女の子や振られた数などを思い出していく……自分で思って自分で泣きそうになったがなんとか堪えた。唯一の心残りはつい先日職場をクビになったことと、結局ただ一人の女を抱けぬまま終えた人生にだろうか――しかし思い出していく内に、最近の記憶を探るが何故かここ一週間分ごっそり抜け落ちていることに気がついた。


「なんで……」

『その答えが知りたいかい?』


 独り言に答えが返ってきたことで思わず体が強張る。俺以外何もないはずの空間で俺以外の声がしたことに驚き半部、恐怖半分といった感じだ。


 慌てて声のほうを振り向くと、そこには全身白一色! といった奇抜な男がいた。髪の毛に帽子、上下の服まで全面原色、辛うじて間から見えている肌は肌色がかった白なのだが、それでも全身着こんでいるせいで目が痛い。周りの配色とも相まって見事に同化してしまっている。


「……誰だ」

『ふむ、その反応は悪くはないが、この場合は「誰」ではなく「何」と聞いてほしかったね、僕様としては』


 仰々しく顎に手を当ててうなずくナニカ。そこでようやく気が付いた。目の前の人物――否、物体は人間ではないと。


『お察しのとおり僕様は人間ではない。……この場合は「神」と言ったほうが適切かな?』

「いや俺に聞かれても」


 神――神様。八百万の神。思いつくのはそのあたりだ。それと同時に若い頃よく読んでいたジャンルが思い浮かぶ――正確には、創作物だった。


『その考え通りといったところかな。さて、こういうことは遠回しではなくはっきりと、分かりやすく言わないとね……転生してみないかい?』

「します」


 即答だった。転生して強くてニューゲーム、とまではいかなくとも、やり直していことなんて思いつく限りでも両手に収まりきらないほどだ。チャンスはモノにしろ、よく友達と冗談で言い合っていた言葉だが、その通りだと思う。


『ふむ、ここまでは想像通りだが……さて、君はどんな能力チートを望む?』

「どんな世界なんですか?」

『「剣と魔法、勇者に魔王、魔物にギルドがあふれるファンタジーな世界」――ではなく』


 はい? 今完全に両手を上げて「キタ――――!」って喜ぶところだったように思えたのだが。


『そこらへんはもうパターン性が決まってて面白くないから。死ぬ前と同じ「科学技術溢れる現代世界」だ。ちなみに君が死んだときの続きからリスタート、って感じかな』

「……はあ、」


 異世界に行かなかったのは残念だがプラス思考で考えよう。言語が違う世界に飛ばされなくてよかったじゃないか。魔法詠唱とかめんどくさそうだし。死亡フラグとやらが山ほど立っている世界でもないし。今までと変わりない人生を歩めるんだ、よかったじゃないか。


『じゃあどんな能力が欲しい? 別にいくつでもいいよ、お好きな能力をお好きなだけどうぞ』

「……分かりました」


 能力を選ぶということはどんな人生を送るかということと同義である。知力を選べば知的な人生を送るだろうし、武力を選べばスポーツで栄光を浴びる人生を送ることになるだろう。――さて、次の人生で俺は何をしたいのだろうか。


 とりあえず何事もない平和な人生がいい。今度は孫の顔を見て、それこそ難病にもかからずに安らかに老衰で逝きたいと思う。それなりに家庭環境も上級の部類に入っていて優しい両親に囲まれて育ち、学校ではクラスでは人気者になって大勢の友達を作りたいな。そこそこの進学校に進んで、大学は国公立に、それなりに有名な企業に就職できればそれでいい。好みのタイプばっちりの女性に出会って愛しあい、結婚して子どもをもうけることができれば文句なしだ。……童貞で死んだ俺としては、できるだけ早くに脱童貞はしたいところだな、できれば大学生までには。


 ……こんな人生を歩みたかったのか、俺は。意外と平和主義者だな……日本人特有かもしれんが。さて、このように「明るい未来化計画」を送るのに必要な能力とは。


 俺として一番欲しいのは「勝ち組人生」ではなく「平和な生活」だ。嫉妬や妬みに囲まれて殺されるなんてもってのほかで、それこそ誰からも慕われる存在になりたい。まあ社長や部長などという上に立つ人間になりたいのではなく、下からも上からも温かみがもらえる人間になりたいのだ。……そのためにはどうするべきだろうか。


 その時、一つの妙案が浮かんだ。思い描いていたのとは少し違う気がするが、それでもアレがあれば問題はないような気がする。


「あの、――――ってできますか?」

『…………』

「あの、」

『……ふーん、……君はそう来るのか』

「え、と」

『ああ、心配しないで、大丈夫。ちょっと予想斜め上の回答をされただけだから』

「……はあ」

『現代転生でその能力ってあんまり望む人いないからさ。あ、できるよ、安心して』

「あの、今もらうことってできますか?」

『良いけどどうするの?』

「あらかじめ決めておきたいんで」


 そういうと納得した顔を見せて俺のほうに手を伸ばしてくる。何やら呟いたかと思うと、ふと自分の身体が熱を持った。


『――はい、これでいいよ』

「ありがとうございます」


 ――さて、やるか。




「……こんなもんか」

『できた?』

「ああ、はい。もう大丈夫です」

『よし、んじゃあ送るね~』

「色々ありがとうございました」


 お礼を言うと、驚いたような顔をされた。それからニッコリ笑ったかと思うと、()の輪郭がぼやけていく。


『こちらこそ、――――』


 最後の方は聞こえなかったが、気分をよくした俺はそのまま沈む意識に身をゆだねた――





「遊生! 一緒に帰ろうぜ」

「おう。これ提出してから行くから先に下行っといてくれ」

「おーす」


 転生した俺は高校生になっていた。今の俺の名前はまゆずみ 遊生ゆうき、黒髪に黒目の、クラスにいるちょっとカッコいい系の平凡男子だ。勉強平均ちょい上、スポーツ平均より上の、元気で活発に行動する系男子である。

 転生して自我を確立してからは、まずは体を鍛えることと知識を詰めることから始まった。今世の親は前世よりも上の方で、父は会社の有権者、母はデザイナーとしてそれなりに有名になっていた。両親に嫌われず、それでいて内面も外見も引き上げることに費やして幾年、俺はそれなりに親しまれていた。俺の地位的には「クラスにいる頼りになる奴」という感じだ。頼まれたことは大体引き受けるが、こちらからもちょっとした頼みごとをする。いわゆる「ギブアンドテイク」の形をとっている。基本勉強面でもスポーツ面でも万能になった俺にとって、今の人生でできないことは少ないだろう。そりゃできないことも少しはあるが。


 しかしこの万能さ加減は、あくまで俺の実力である。決して神からのチートなどではない。


 前世でも頑張ればこれくらいにできたのかな、と少し後悔しながら階段を下りていると、ふと目に入ったのは――階段を落ちかけながら目の前で教科書をばら撒いている女子生徒の姿だった。


「――!」


 それを見て反射的に起動・・させる――と。


  ――キイィィィィン!


 金切音が鳴り響き、俺以外の――全ての時間が止まってしまった。




 これが俺が神からもらった能力スキル、【ゲームモード】である。決して「時間操作能力」などではない。


 RロールPプレイングGゲームは人間誰しも一度はしたことがあると思う。そこには様々な「ゲームならではのルール」というものがあったはずだ。《セーブ》、《リセット》、《リプレイ》、《コンティニュー》など。他にも様々な能力が使えるようになった。中でも重宝しているのが《ステータス》である。

 その名の通り情報を開示する能力で、RPGには必要不可欠な能力だ。ステータスがあることでモンスターの育成や先頭に有利な状況を作り出すことができるのだから。


 そして俺はこの能力を、全世界の人間に使うことが可能だ。


 相手の個人場が丸見えで、加えて今の気持ちや過去の履歴なんかも思いのままに見ることができるこの能力は、まさに「パンドラボックス」と言ってもいいだろう。これがある限り、俺は絶対に相手より有利な立場にいるのだから。




 今発動させたのは《スリープモード》である。「それまでの経験は残るが、一時的にプレイを中断する」機能、それがスリープモードである。俺はこの機能を使用することで、一時的に世界の時間を止めることができるのだ。


 女生徒に駆け寄ってからプレイスタートさせる。時間が動き出して、倒れかけていた生徒が俺の腕の中に納まった。


「……え」

「大丈夫?」

「あ、えと」

「手伝うよ。怪我はない?」

「あ、はい。大丈夫です、ありがとうございました」


 突然現れた俺に驚きつつも負傷はしていないようで安心する。落ちたノートを拾い集めて半分持つ――なんてことはせず。


「ハイコレ。次からは気を付けてね、じゃあ」


 全部押し付けてその場を立ち去る。自意識過剰でも「吊り橋効果」なんて言葉があるんだから、万が一ということもある。



 俺の役位置は「頼りになる人」であり「助けてくれた親切な人」ではない。そこのところを間違えてもらっちゃ困る。


「ゴメン、待たせた」

「いや、大丈夫」


 靴をはきかえて一緒に歩き出す。徒歩数分のところに航行があるなんてすごく有難い。小・中学校はもちろん、高校・大学も最悪自転車で行ける距離なのだ。わざわざ満員電車に乗りたくはないし、徒歩で済むに越したことがない俺は、すべて家の近所に進路を決めている。


(前世じゃ考えられなかったなあ)


 小・中はともかく、マンガでよくある「高校の通学路に徒歩で向かう」なんて前世の世界じゃ夢物語だった。家から徒歩圏内に高等学校なんてあるはずもなく、毎朝と夕、満員電車に揺られながら登校していたころが夢のようである。ああ、ウォーキングのなんと素晴らしいことか!




 転生前に能力を貰い、《ステータス表示》で自分の情報を開示、《設定変更》で出生日時や家族も選ぶことができる。素晴らしきチート能力とはこのことだ。


 こんな人生もなかなか悪くない。願わくば、この平穏が続いていってほしいものだな。……これでそれなりに美人な女性と愛しあえれば文句なしなんだが。残念ながら今のところその予定はないらしい。


 とりあえず今の目標は「童貞」卒業だ。頑張れ、俺!





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