逆ハーレム→ぼっち→「え……と、ノーコメントで」
乙女ゲームへの転生。ジャンルとしてはよくある方だろう。
俺は似たような境遇に陥った。つまり、ゲームへの転生だ。ただし、乙女ゲームというのは少し違うだろう。恋愛シミュレーションゲーム《JUWEL!》は、小学生から老人まで、男性から女性、果てにはオネエにまで、幅広く人気があったのだから。
現在の俺の名前は安威 世哉。前世と違い、イケメンに産まれたラッキーな男だ。転生する際に神に会ったが、補正を選ぶ代わりに頼みごとをした。
『適度な刺激のある生活を送り、孫の顔を見られ、畳の上で死ぬ人生』を。
そして産まれた俺だが、会社の社長であるイケメンの父と、女優である美人な母。コレだけでも充分過ぎた。
しかし、神は俺にもう一つ補正をつけてしまったのだ。
――逆ハー補正を。
女子なら狂乱して喜ぶだろうが、生憎俺は男だ。しかも『補正』であるため、自分が相手を選ぶことはできない。極端な例をあげると、見た目がオタクなキモ男でも惹き付けてしまうのだ。
コレには困った。万が一欲望の捌け口にされてはたまったものではない。俺は可愛い女の子が好きなんだ! ……万が一BLになっても俺は攻めたい。処女を散らしたくなんざないぞ!
しかしある日気付いた。双子の妹も転生者だ。さらに、俺とは逆でハーレム補正が付いている。
何だよこれ、なんでよりにもよって補正を付け間違えんの? 俺、可愛い女の子たちに囲まれたかったわ、マジで。……まあそのお蔭で親友とも呼べる友人たくさんできたけども!
なんとかして補正を入れ替えたいと思ったが、どうすればいいのかは分からなかった。
時を同じくして、逆ハー補正に惹き付けられた――俺にとっては友人たち――が、俺への異常な執着を露にし始めた。俺が彼ら以外の男、もしくは女子と話をしていると、俺の腕に爪を食い込ませながらこう言うのだ。
「ねえ、世哉。君は俺たちよりアイツらの方がいいのか? なあ、そうなのか? だったらアイツら、いらないよね。俺たちの、俺たちだけの世哉を奪おうだなんて許さないよ。世哉も俺たちの方がいいよね。いいに決まってるよ。だから世哉は俺たちから離れないよな。まあ離れるって言うなら両手両足を切断するんだけど。ああ、大丈夫だよ。アイツらなんかに近づくな……っていうのは同じクラスだから仕方無いか。だったら必要最小限の会話しかしないでね。本当は会話をするどころか目も合わせて欲しくないんだ。世哉は俺たちだけ見ていればいいんだから。世哉がアイツらを視界に映しているのを見るたびに、ソイツらを殺したくなる。もしくは世哉の目をくりぬきたくなる。まあしないけどね。世哉の目に俺たちが映らないなんて想像するだけでも嫌だもんああ、世哉世哉世哉世哉。君は俺たちの物だ。ずっとずっとずっと――」
……絶句した俺は悪くないはずだ。ここまで依存されてたなんて知らなかった。これも補正が引き起こした事態だと考えると、体が急速に冷えていった。
どうすればいいか考えていた矢先に、俺は妹の世那に階段から突き落とされた。
目が覚めたら病院で寝ており、傍には誰もいなかった。ハーレム補正のある世那は母を含めた女性に、逆ハー補正のある俺は父を含めた男性から、無条件で好かれてしまう。異性から嫌われることはないが、好かれることもない。なのに父がいないのは不思議だった。――が、退院して、理由を知った。
妹に逆ハー補正が移っている。
理由は定かではないが、望んでいた環境が手に入ったのだ。今更ハーレムにも興味はないため、気にしないことにした。だって前世ではボッチでしたからね! 一人離れてるんだよ! ……クスン。
――しかしその次の日、妹は帰って来なかった。
いったい何があったのか。考えたらすぐに答えは出た。
他人を補正で惹き付け過ぎたための監禁エンド。もしくは強姦ルート。
この世界は俺たちにとっては現実だが、神にとっては箱庭の一つに過ぎない。つまり、神にとっては俺たち転生トリップした者もNPCも、等しく駒に過ぎないのだ。
妹は逆ハーレムを築きたかったようだが、生憎《JUWEL!》にハーレム・逆ハーレムエンドは無かったはずだ。ゲームの筋に沿っていない行動をする駒は異物以外の何物でも――何者でもない。
神曰く、ハーレム・逆ハーレム補正はルートの相手と強制的にでも結ばれると、効果を無くすらしい。ならばもう世那の補正の効果はないと考えていいだろう。
両親は全力で世那を探している。まあ父は会社の社長だから気持ちは分かる。身代金請求とかされたらたまったものではないのだろう。だが、生憎俺は自分を突き落とした人間を心配するほど心が広くはない。潔く諦めてもらおうか。
……そんなことを考えていたからバチが当たったのだろう。
「世哉。迎えにきてやったぞ」
「世哉。明日、ピアノのコンサートがあるんですが、来てくれませんか?」
「世哉ぁ~。一緒に帰ろぉ~」
「世、哉。ノート、貸し、て」
「「世哉。今度の土曜日家に来てね」」
「世哉君。この書類、明日までに提出してね。」
「世哉! 行くぞ!」
「世哉! 日曜の試合観に来てくれねーか?」
「世哉くん。あの、ケーキ作ってみたんだけど、食べてみてくれない?」
「世哉」「世哉くん」「世哉ぁ」
……何がどうしてこうなった!!??
実は生徒会の皆は病んでた、という設定。妹に救いはありません。
そして世那が監禁・強姦エンドに入ったために世哉にハーレム補正が移った、というね。
一応これで完結。ありがとうございました。
必要ない人物設定
・安威 世那
逆ハーを望んだのにハーレム補正をつけられた女の子。ちなみに補正は『逆ハー補正Lv.10』『愛され補正Lv.10』『容姿Lv.10』の三つ。神のミスで死んだ訳ではなく、逆ハーを望みすぎて神に呆れたから。
・安威 世哉
普通に産まれて普通に暮らして普通に死んだ男の子。補正三つの代わりに『適度な刺激のある生活を送り、孫の顔を見られ、畳の上で死ぬ人生』を望んだ。『適度な刺激』ということで容姿・運動神経・頭脳など、全てが神によって作られた最高傑作、という裏設定。本人は全く気付いていない。オマケとして逆ハー補正をつけられたが、補正と気付いていたため当たり障りのないように接していた。何気にバイな人。ハーレム・逆ハーレムは余り好きではない。束縛されるのに抵抗は感じず、ヤンデレは許容できるほど懐は広い。ただ、ハーレムなどで全員愛せるわけではない。むしろ、深く狭くを好んでいる。