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冷たい指  作者: 尼崎楓
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兄と妹

かなり暗い話です。残酷な表現を今後入れる予定なので、苦手な方はご注意ください。

夢を見た。

暗闇に、私は一人立ちつくしていた。

背後に気配を感じて振り向くと、少年が立っていて、彼は微笑みながら私の首に、雪のように白く冷たい指を絡ませ、物凄い力で絞めあげる。


彼は私が動かなくなっても、首から手を離そうとしない。むしろ、一層力を込めているように思えた。

恍惚の表情を浮かべ、彼は私の唇に愛しそうにくちづけて、やがて、動かなくなった。





目が覚めると、身体中汗ばんで気持ち悪かった。

上体を起こして辺りを見回すと、自分の部屋であることを確認した。

ここのところ、ずっと同じ夢を見ている。

目を覚ましても、まだ夢の中にいるような感覚があって、思わず確認する癖までついてしまった。花の女子高生が、何が悲しくて自分が殺される夢を毎晩のように見なくてはいけないのか。

気分が悪いまま、私は朝食の用意された階下に足を運んだ。


「おはよう美紀、今朝も顔色がよくないね」

一回り歳の離れた兄の省吾が、心配そうに訪ねてきた。

「うん、ちょっとね」

省吾は五年前に地元の大学を卒業し、今は隣町の小学校で教師をしている。

両親は一年前に交通事故で他界し、今は省吾と私の二人で暮らしている。

「今日は遅くなるから、晩御飯作らなくていいからね」

私が言うと、兄は少し寂しそうな顔をした。

「ごめんね」

そう言うと、省吾は私の気持ちを察したようで、笑顔で手招きをした。

省吾の温かい指が、私の腕を掴んで優しく引き寄せた。


あの、夢の中に出てくる少年の指とは大違いだ。

省吾の、この少し筋肉質な腕で抱きしめられると、私はこの上ない安心感に満たされるのだった。

「我慢するから」

甘えたような口調で、省吾は耳打ちした。


私と省吾は血の繋がりのない兄妹だ。


省吾は父の連れ子で、私は母の連れ子という、お互いバツイチ同士の再婚で、私達は兄妹となった。

しかし、私は省吾が好きになってしまった。

優しくて、学校の男子にはない、大人の魅力を持ち合わせていた。

やがて私達の関係は、兄と妹から、男と女の関係になった。

省吾も私の事が好きだったのだ。

「ご飯冷めちゃうよ」省吾は私を抱きしめたまま動こうとしない。

「ごめん、最近美紀と一緒にいれない時間が多くて、寂しいんだ」

「それは私も一緒だよ。でも今は文化祭近いから、実行委員長の私がいないとまずいでしょう?」

そう言うと、省吾は渋々私から離れ、身支度を始めた。

「じゃあ、夜にな」

省吾は私の額にキスをして、にっこり笑った。

「うん、行ってらっしゃい」

「ちゃんと鍵しめるんだぞ」

「うん、大丈夫。心配しないで」

名残惜しそうに、省吾は家を後にした。

私はキッチンのテーブルの上に並べられた朝食をさっさと胃の中に放り込み、学校へ行く準備を始めた。





放課後の旧校舎は、あまりにも不気味だった。

文化祭実行委員会の活動をする生徒会室まで行くには、旧校舎を通って、新校舎の別棟まで行かないとならない。なぜなら、別棟と新校舎を繋ぐ通路が、旧校舎の中を通っていて、別棟の正面玄関が、付近の下水道工事のバリケードで封鎖されているからだ。

いつもは同級生の子達と一緒に通る旧校舎だが、一人で通ると、やけに気味が悪い。

私はいつもより足早に、その場を立ち去ろうとした。

その時、背後で微かに音がした。

すーすー、と呼吸する音。本当に微かにだが、確かに聞こえた。

誰かが、背後にいる。


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