箱入り娘のバレンタイン
はい、2月の季節小説、テーマはバレンタインデーです。
あまり多く語る気はありませんが、1つだけ忠告を。
この作品は読後、気分を害する可能性があります。
それに関しては保証しませんので、前以てご了承願います。
それでも構わない、という方は是非お読みください。
はぁ……なんで私っていつもこうなんだろう。
温かみに溢れる綺麗なリビングの食卓に私は座っている。テーブルには私が作ったたくさんの料理が、全く手をつけられず置いてある。こんなにたくさん料理を作ったのは初めて。でも彼は一口も食べてくれなかった。
何がいけなかったんだろ……。
昔からそうだった。大手企業の社長の一人娘の私は、定番の箱入り娘だった。そのせいか周りから見ると変わってるらしくて、学生時代の友人にも変な子という扱いを受けていた。でも私自身にはそんな自覚はなくて、だからこそ何を直せばいいのかも分からなかったからそのまま育ってきてしまった。
そんな私と唯一ずっと一緒にいてくれたのが彼だった。彼とは大学の三回生の時に知り合った。お互いすぐに深い恋に落ちて、大学を卒業すると同時に結婚した。それからは私は専業主婦で、彼は私の父の会社でしっかりとした地位を固め、二人で順調な日々を過ごしていた。
なのに……どこで間違えたんだろう。
彼が食べたいと言ったお肉料理もテーブル一杯になるまで作った。彼が喜んでくれると思ったから張り切って作った。なのに彼は仕事が終わって家に帰ってくるなり、大きな声を出して私に問い詰めてきた。それがあまりにも突然で何が起こってるのか分からなかったから、それからの問答はあんまり覚えていない。
彼は最後に奇声を上げながら去っていった。あんな風に彼がなったことは初めてだし、もうダメだと思った。それにあんなに気性が荒い人だと思っていなかったから、正直私も彼に幻滅してしまった。
……それなのになんでこんなに楽しかった頃の記憶が蘇るのだろう。彼が立ち去って時間が経てば経つほど、辛い痛みが体中を走る。
……よし、謝ろう! 謝って許してもらって、また一緒に暮らそう。私は彼が大好きだから。彼と一緒にいたいから。
さーて、じゃあ何が問題だったのか考えないと。
やっぱりお肉料理ばっかりだったのが、まずかったのかな……。でも彼は子供みたいなところがあるから、自分の好きなものばかりでも怒らないだろう。
さすがに作りすぎちゃったからかな。二人でこの量は食べきれないもんね。でもだからってそんなに怒らないでしょ。
料理で手を切った時に止血しなかったことかな? 心配してくれたんだったら嬉しいけど、あれはそういう表情じゃなかった。
……もっと驚いているというか、どうしてって訴えかけるような表情。
じゃあ何が原因だろう。そう考えて私は左手で携帯を持ちメールのやり取りを見直そうとした。その際の待受を見て気付いた。
あっ、そっか。今日バレンタインデーだった。
彼の子供らしい性格はよく熟知している。私がバレンタインデーなのにチョコを用意していなかったのがまずかったのだろう。だからってあそこまで怒るなんて。少しイラつきもしたが、かわいいな、と思ってしまう。バカップルや親バカってこういう人のことを言うんだろうな。
時間を見るとまだ22時を回ったところだった。今から急いで彼を見つければ、バレンタインデーは終わっていないんだろう。コンビニにでもよってチョコを買って謝ろう。そして後日ちゃんとチョコを作って渡そう。
あっ、その前にこの料理しまっておかないと。本当に欲しいのがチョコだったならこんなにたくさん作らなければよかった。まあ、勝手に作った私が悪いのだけれども。
でも、これだけ作ろうと思えるくらい彼からのメールは嬉しかった。 普段あまり積極的に意見を出さない彼が言ってくれたんだもん。
“君を食べたい”って