隣の席のキミコちゃんはぼくの頭の中をいじくるのが好き?
今見返してみると、改行を少々やり過ぎたかもしれませんのでそこはご容赦ください。直したほうが良いようなら直しますのでご一報ください。
ぼくは小学二年生のユート。
戦国武将になりたいとこの一ヶ月ずっと思っていた。この前図書室でまんが日本の歴史の戦国時代の巻を読んだけど、とてもかっこよかった。
戦うゲームを買ってもらった。やはり大きな剣を振り回して戦う戦国武将はかっこよかった。
「あーあ。戦国武将になりたいなあ」
ぼくはつまらない先生のつまらない授業に飽き飽きして、話を聞かず運動場を眺めていた。
「ねえねえ。ユートくん」
「なあに?」
「お外なんて見てどうしたの?運動場には誰もいないよ」
話しかけてきたのは隣に座っている同じクラスのキミコちゃん。キミコちゃんも先生の話がつまらないのかな?
「キミコちゃんも戦国武将になりたいと思わない?」
「なあにそれ?」
「すごくかっこいいんだ。それにすごく強いし」
「男の子はそんなのばっかりねえ」
そう口では言っているけど、キミコちゃんも興味がないわけではなさそうだった。もっと話を聞きたそうな顔をしている。
「あのね、悪いやつらを、こーんな大きな剣で」
と続けるぼく。話をうんうんと聞くキミコちゃん。ぼくは次第に熱が入ってきて、体をキミコちゃんの方に向けた。
「たっくさんやっつけるんだ!」
そのとき、先生が後ろに怒った顔で立っていたことにぼくは気付かなかった。
「ユートくん!授業中はおしゃべりはやめなさいと言ってるでしょう!」
「先生ごめんなさい」
キミコちゃんはくすくす笑っている。こんなのおかしいよ。キミコちゃんもおしゃべりしてたじゃないか。ぼくはキミコちゃんを指差して先生の方を向いた。
「キミコちゃんも話をしてたのに。先生は怒らないの?」
「あのねえ。ちゃんと最初から見てたわよ。あなたが話しかけたんだから、あなたが悪いのよ」
「だって……」
「とにかく、他の人の迷惑にもなるからおしゃべりはやめてね」
ぼくはなんだか気持ちがすっきりしなかった。キミコちゃんの方を振り向くと、まだくすくす笑っている。
「なにがおかしいの?」
「ユートくん。休み時間にね。先生また怒るよ」
ぼくの気持ちは授業中ずっともやもやしたままで、やがてチャイムが鳴った。
「起立!れーい!」
休み時間が始まって、ぼくは少し怒っていた。
「ねえキミコちゃん!」
納得がいかなかったぼくはキミコちゃんの方を勢いよく振り向いた。キミコちゃんが驚いたように目を丸くする。
「どうしたの」
「ぼくだけ怒られるなんておかしいよ!」
するとキミコちゃんはまたくすくす笑い出した。
「もういいじゃない。終わったんだから」
「よくないよ!」
ぼくが怒った顔をしているのを笑いながら見ていたキミコちゃんが、いきなり笑うのをやめた。
ぼくはそれを見るとなぜか怒るより、不安な気持ちになった。怒らせてしまったのかな。
ぼくの顔をじっと見ている。その目はどこか光ってなくてにぶくて、いつもきらきらした目をしているキミコちゃんに何が起きたんだろうと思うとお腹がごわごわしてきた。
ぼくは恐る恐る聞いてみた。
「どうしたの?キミコちゃん」
するとそれまでのとは全く違う変な笑いをしながら、キミコちゃんは話し始めた。
「ねえ。ユートくん」
その声にぼくは心臓がどきりとして、びっくりしてキミコちゃんの顔を見た。いつものキミコちゃんであって、キミコちゃんじゃないような声。先生とかお母さんにも似た、低い声。
「な、なあにキミコちゃん?」
すると、再びキミコちゃんは笑い始めた。あれ。こんな笑い方をしていたっけ?顔は笑っているのに、目も笑っているのに、どこかが違う。キミコちゃんはぼくの目を見つめて視線を外さない。
気まずくなってきたぼくは、我慢できなくなって搾り出すような声を出した。
「どうしたのキミコちゃん?!」
「ユートくんねえ、戦国武将になりたい、って言ってたよね?」
ぼくはかわいそうな羊のように答える。
「う、うんそうだけど……」
キミコちゃんが口を開けずにニヤリと笑う。何を言い出すんだろう。ぼくは黙ってキミコちゃんの口元を見守る。つやつやのくちびるがゆっくりと動いた。
「じゃあ。ならせてあげる」
「え?」
……
「殿、これまでにござります!ご覚悟を!」
「うむ。謀反者に討ち取られるのは無念じゃが、致し方あるまい」
燃え盛る室内には熱が充満している。刀と刀が激しくぶつかり合う高い音がすぐそこで聞こえる。姿は見えないが、障子一枚隔てた向こう側には敵が迫っているのだ。
「敵は近いようだな」
常丸は刀を抜いて答えた。
「はっ。もうそこまで来てござる。それがしが身代わりになり時間を稼ぎまするゆえ!そのうちに……!御免!」
「常丸!」
私がそう言うやいなや常丸は私の立派な兜を被り、大音声で名乗りを上げて隣の部屋に飛び込んだ。
「常丸!」
常丸の姿は燃え盛る火に飲み込まれたように消えていった。入れ違いに足元に血まみれの侍が倒れこむ。
「おい!大丈夫か!」
侍は口をなにやら動かしているが、聞き取れない。手を虚空に突き出したかと思うとそのまま事切れる。
火の勢いが強く、天井を舐めるように進む。余りの熱風に腕を目の前に突き出した途端、天井が崩れ落ちてくる。
「うわっ!」
赤く熱せられた木材が腕を焼く。その肉を焼く音と臭いがツンと鼻に届いたとき、もはやこれまでと観念した。
「術なしかな!」
脇差を抜き、へそ辺りに切っ先を突きつける。しばらく気持ちが定まらず、目をつぶったその瞬間、自分のこれまでの所業が走馬灯のように思い出された。
戦場で駆け巡った自分。雑兵をなぎ倒し、大将の首級を挙げた自分。一介の足軽の出から腕一つで這い上がった自分。
まさに、戦に明け暮れた時代の象徴そのものであった。
全てが、音を立てて崩れていく。
「敵将を討ち取ったり!」
屋敷にとどろく声が聞こえた。しばらくしてもうひとつ聞こえる。
「屋敷が完全に崩れるぞ!速やかに退け!」
紅蓮の炎が私を取り囲む。
自分の中で張り詰めていたものが切れていくのがわかった。理性が停止していくのがわかる。南無三。
「さらば!」
脇差を握る手に力を入れ、腹を思いっきり掻っ捌いたところで意識が途絶えた。
……
「えっ!あっ!」
ぼくは突然頭で考えることができるようになったことに気付いた。まるで脳みそがしびれていたかのようで、さっきまでどうしても頭で何かを考えることができなかった。
「どうしたの?」
そこにはくすくす笑うキミコちゃんがいた。ぼくを覗き込んでいる。
「えっ、あ、う、うん」
ぼくは頭が混乱している。とりあえず、目の前にいるのがいつものキミコちゃんであることはわかる。さっきの変なキミコちゃんじゃない。
「何もないよ!」
「そう?なんだかぼーっとしてたよ?ひどいよ。わたしが呼んでも返事もしてくれなかったんだからね!」
「えーっと……うん。ごめん。なんだかぼくもよくわからなくて」
ぼくにはさっきまで何が起きていたのかまったくわからない。何かが起きたといえるのかもわからない。ぼくは夢を見ていたのかな。
でも何かが頭の中で大暴れしたような、変な気持ち。
「ほんとうに大丈夫なの?ほんとうに?」
そう言いながらまたキミコちゃんはくすくす笑う。しつこく聞いてくるキミコちゃんにぼくはまた腹が立ってきた。
「何言ってるのキミコちゃん。ぼくはちょっとぼーっとしてただけだよ。何だかおかしいのはキミコちゃんの方だよ!」
「ううん。心配してるだけだよ!ユートくんが心配なだけ!」
キミコちゃんはにっこり微笑む。
「じゃあいいんだけど」
「次の時間は理科室に行かないと。もう休み時間終わっちゃうよ!早く!」
ぼくは辺りを見渡した。もうみんな理科室に行ってしまったようで、誰もいなかった。ぼくはおかしな予感がした。早く理科室に行きたい。
「ちょっと待ってね!今教科書を探すから」
「ねえユートくん」
またさっきの低い声。また何かが起きるんじゃないか。ぼくはびくりとして、恐る恐る聞き返す。
「な、なあに?」
「戦国武将。楽しかった?」
「一体何のこと?何言ってるのキミコちゃん?」
ぼくの声は震えている。キミコちゃんはぼくの目を捉えて放さない。
しばらくの間ぼくもキミコちゃんも何も話をしなかった。
ぼくが何か言うとキミコちゃんも何か言い出すんじゃないかと怖くて何も言えなかった。
静かな教室にチャイムが鳴る。キミコちゃんは身動き一つしない。赤いくちびるがまたゆっくりと動き出すのをぼくは見た。
ぼくは目をつぶって顔を下に伏せて、耳を手で塞いだ。
誰かがぼくの手をやさしくつかむ。力を入れていたはずなのにぼくの手はあっさりと耳から離れた。
耳元で誰かがくすぐったくささやく。脳みそに言葉を刻み込まれるような感じでぼくはぶるっと震えた。
「ユートくんの好きなこと、あたしが全部叶えてあげるから」
「え?!」
ぼくが目を開け顔を上げたとき、キミコちゃんはそばにいなかった。廊下からキミコちゃんの高い声が聞こえる。
「授業に遅れるよ!先に行くからね!」
ぼくは何が起きたかわからずしばらく教室でぼーっとしていたが、やがて操り人形のようにふらふらと理科室へ向かった。
お読みくださりありがとうございました。
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