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アプリで殺してみただけなのに  作者: 一宮 沙耶


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6話 脅迫

私は、大学2年以降、司法試験の勉強に集中していた。

誰もいない家で、部屋に閉じこもって。


どんな職業が自分に向いているのかを考える。

あまり人との接点は少なくて1人でこなせる仕事がいい。

女性だからって馬鹿にされないことも重要。

ルールが明確で、悪を懲らしめる検事がいい。


検事を目指して、周りが遊んでいるのを横目に勉強をする。

3年生で予備試験に、4年生で司法試験に合格する。

大学を卒業して、24歳で検事になった。


大学では、本当にみんな楽しそうだった。

でも、こんな時に人生の時間を無駄に使ってバカな人達。

くだらない人と一緒に笑っていても、何も役に立たない。


そんな生活をしながらも、花恋との関係は続いていた。

花恋は、大学を卒業して、女子高の先生になっていた。

月に1回ぐらいは一緒に渋谷の街で飲んでいる。


そんな中、私の人生を邪魔する人が現れる。

大学の頃に、同学年で最初の語学クラスで一緒だった人。

私を嫌っていて、いつも嫌がらせをしてきた凪沙。


しかも、司法試験に何回も落ちて、私のことを僻んでいる。

彼女が落ちたのは私のせいではないのに。

ただ、毎日遊んで楽しく過ごしていたから。


私のことなんて関係ないんだから気にしなければいい。

それなのに、事あるごとにつっかかってくる。

授業ノート貸してと言われて、断ったのが原因だと思う。


遊んで授業に出ない人が悪い。

貸してくれるのが当たり前で、貸さない私が悪いみたいに言う。

貸してくれないんじゃ単位を落としてしまうと。


それ以来、私への嫌がらせが続く。

食堂で食べているランチにコップの水をかける。

あなたにはこのレベルがお似合いと言い放って通り過ぎる。

本当にひどい。でも周りは見て見ぬふりをする。


でも、司法試験の勉強に専念をし、凪沙と会うことがなくなる。

だから、凪沙の存在自体を忘れていた。

でも、検事になった直後、凪沙から1通のメールが来た。


私は、殺人ゲームアプリを使っていて、何人もの人を殺した。

そんな女性が検事なんて笑っちゃう。

バラされたくなければ1,000万円を支払えって。


こういうのを脅迫という。

私は、殺人ゲームアプリのことを忘れていた。

でも、この脅迫メールで、このアプリを久しぶりに思い出す。


久しぶりにアプリを立ち上げてみると、昔のように使える。

このアプリで殺されるとは思わなかったのかしら。

使うはずがないと思ったのかもしれない。

5人目になると大きな代償を負うと言われていたから。


だけど、それは見当違い。

私にとって大切なものなんてないし、殺すしかない。

凪沙の写真を選択すると、私はアプリの世界に吸い込まれる。


ホテルのプールサイドに私は佇んでいる。

ホテルといっても、高層ビルではなく、コテージみたい。

目の前の部屋からプライベートプールに繋がる。


プールからは、三浦半島かしら、海と街の光が見える。

プール脇のウッドデッキには木のぬくもりが感じられ、気品を感じる。

部屋をみると、おしゃれなソファーが静かに待っている。


私みたいに上品な女性のための空間という感じ。

夜のプールって、プールサイドの電灯が水面に映って幻想的。

周りは暗いのに、プールは下から光に照らされ、水色が広がる。


いつものとおり、周りには誰もいない。

ホテルのベランダとかにも人の気配はない。


今夜は気温が高い。

プールに入っても寒さに凍えるという感じではない。

でも、誰もいないプールというのが上品でステキ。


水面はただ静かに風に揺らいでいる。

そんな中、凪沙がプールサイドを歩いてきた。

いきなり現実に引き戻される。


「お久しぶり。1,000万円は用意できたかしら。」

「そんなお金、持ってるわけないでしょう。」

「そんなこと言っていいの? 検事って給料はいいんでしょう。もし、あんなことがバレたら、そんないい待遇を捨てちゃうことになるのよ。どうせ、あなたは結婚できる人なんていないんだから、給料は全部1人で使うんでしょう。だったら、安いもんじゃないの。」

「そもそも、あなたのデマなんでしょう。私、そんなことしてないし。」

「あなたは人間としてはクズだけど、頭は優秀だと思う。でも、私にもあなたより優れた力が1つあるのよ。人脈よ。私の知り合いの女性に、ハッキングが得意な人がいて、あなたの過去の通信記録に入り込んで、4人の人を殺すとアプリに投入した記録を見つけてもらったの。その人も、翠のことを恨んでいる。あなたは、みんなに恨まれているの。気づいていた?」


凪沙は、知り合いのハッキングで私のことを知ったんだ。

事実どおりだから、本当に調べたのだと思う。

でも、嘘を言って、私に鎌をかけているのかもしれない。

いずれにしても、こんな脅迫に屈するわけにはいかない。


「そのハッカーって、誰。どうせ、そんな人なんていないんでしょう。」

「その人は、私の大切な友達だから、名前は言えない。」

「ほら、ボロが出た。全てが嘘なのね。」

「本当のこと。その人は、あなたの仕業で悲しみに暮れているの。だから、今夜、あなたは、お金を出すことで、犯罪を白状して、私達に謝罪をする。」

「それなら、そもそもお金なんて関係ないじゃない。支離滅裂というか、単に、脅迫すればお金を巻き上げられると思ったんでしょう。本当に下等な人の考えそうなこと。」

「そうじゃない。あなたは、自分の犯した罪について、私たちに謝るべきなの。そうすれば、その人は、翠を殺そうとはしない。その人を殺人犯にはしたくないの。だから、殺人を犯したと白状して。そうすれば、翠の犯罪は公表しない。お金は、その人を傷つけた慰謝料として受け取っておく。私は、その人のことが好きなのよ。」

「あら、凪沙って、レズビアンだったの。気持ち悪いわ。変態だったなんて。まあ、それがお似合いだとは前から思っていたけど。男性に好かれる感じもしないし、諦めて女性に好かれようって考えたのかしら。それも無理だと思うけど。」


凪沙は、憎しみが溢れる顔で私を見つめる。


「いずれにしても、アプリに投入して人を殺すなんて、誰が信じるのかしら。」

「翠は、自分中心だからニュースとか見てないでしょう。でも、何人もの人が、5人の人を殺して大変な事になっているって、最近は、このアプリのことはとても話題なのよ。だから、私がこの証拠を世に出せば大きな話題になる。少なくとも、人を殺したと逮捕されなくても、検事の資質はないとなって、あなたの将来はないでしょうね。」


もう、凪沙は殺すしかない。

私は、凪沙の足を思いっきり蹴飛ばした。

バランスを失ったのか、凪沙は、プールの中に落ちていく。


ただ、その時に、私の腕を掴んで、二人ともプールの中に落ちてしまう。

二人は、相手の顔を水に沈めようと相手の髪をつかむ争いとなった。

私も何回も、水の中に押し込まれたけど、なんとか優勢に立つ。


私は、凪沙の頭を3分ほど水の中に押し付けていた。

もう、凪沙は動かない。溺死したんだと思う。

死ぬ間際に水を飲んだのか、凪沙の体は、プールの底に沈んでいく。

白いレースの服がゆらゆらと水にたなびく。


凪沙の顔は水の中でも口を大きく開け、目も見開いている。

まるで、想定外の結末に驚いている様子に見える。

口からは、小さな泡が出てくる。肺の中の空気かしら。


顔も見たくないからうつ伏せに回転させる。

いくら、嫌いな凪沙でも、苦しんでる顔は見たくない。

服とともに、髪の毛が水の中で揺れる。


いつものとおり、プールで自殺したことになるのだと思う。

人生最後の日にラグジュアリーなホテルで過ごしながら。

水底に横たわる、白いレースの服を着た凪沙をしばらく見つめていた。

月明かりが映り込む美しい光景とともに。


これで5人目になる。

でも、私に大切なものなんてないから、失うものなんてない。

むしろ、邪魔する人がいなくなって、明るい将来しかみえない。


不思議と、これまで見たことがない一番の美しい光景が広がる。

華麗な魚のようにレースがひらひらと水の中でたなびく。

その都度、水面では月明かりが波打つ。


白と黒のコントラストが水墨画のように見える。

月も、私を応援しているみたい。

やっぱり、凪沙を殺して正解だった。


翌日、思った通りのニュースがTVで流れる。

凪沙がラグジュアリーホテルのプールで自殺をしたと。

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