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アプリで殺してみただけなのに  作者: 一宮 沙耶


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5話 穏やかな日々

私は、高校を卒業して、成り行きで女子大に入っていた。

本当は共学がよかったのだけど、また女性ばかりの世界に。

共学はすべて不合格になってしまったから。


「ここに座ってもいい?」

「いいけど。」


入学して3ヶ月が経った頃、同じクラスの人が話しかけてきた。

お昼休みに学食で1人、Curry mantraというカレーを食べているときに。


「いつも1人でお昼しているけど、寂しくない?」

「別に。1人の方が楽だし。」

「ちょっと、気を悪くしたらゴメンだけど、ご両親、お亡くなりになったんだよね。」

「ええ。そんなこと噂になっているんだ。」

「家でも寂しいでしょう。私はいつでも、話し相手になれると思うけど。」

「別に、寂しくはないわ。」

「そんなこと言わないでさ。」


私なんかに話しかけて、何が狙いなのかしら。

ただ、ずけずけとプライベートゾーンに入ってくるわけでもない。

まあ、いいかと思って、気にしないでいた。


でも、気づくと横にいる日が増えていく。

私に、今日あったこととか話して笑いかけてくるという感じで。

いつのまにか友達のように、翠、花恋なんて呼び合う仲になっていった。


「私、高校まで共学で、女子大には本心で言うと、女性ばかりの社会って感じで入りたくなかったんだ。でも、女子大に入って、良かったこともあるんだ。」

「何なの?」

「まず、昔は、クラスメートの男性の目が気になって、飾ってるというか、本心をだせなかったんだけど、ここでは、自然体でいられるっていうか、周りを気にしなくても過ごせるんだよね。」

「それはあるよね。でも、その分、だらしなくなるっていうか、恥じらいがないというか、そんなことない?」

「それ程でもないんじゃないかな。まあ、学食でメイクを直したりとか、暑いからって、はだけたりとかはあるけど。」

「そうでしょう。」


花恋は、いつも遠慮しながら話していて、不思議に思うことがある。

なぜか、自分の声のように花恋の話しを受け入れている自分がいる。

もしかしたら独り言を話しているんじゃないかと思うこともある。

それぐらい、花恋とは空気のような関係だった。


「でも、自然体でいられることで、逆に、何が自分で、男性の前でどう変わっているのかはっきり分かったのは良かったと思うの。そうじゃないと、ずっと、飾って、ぎこちない自分が本当の姿だと勘違いしていたというか。」

「そうかもね。でも、私は、男性がいようと、女性の中でも変わらないし。逆に、誰も止めないから女性どおしのいじめとか、嫌らしい部分が目立ってる気もするけど。」

「この大学は、そこまでひどくはないと思うけど、そういうことはあるわね。」

「私が思うのは、男性って、単純というか、バカが多いんじゃない。だから、話していて、くだらない話しとかも笑えるというか、場が盛り上がるよね。でも、女性って、そこまでバカな話しはしないから、心から楽しめないというか、なんかつまらない。」

「そういうところあるよね。なんか、上滑りの会話というか、一緒にいること、そのものを楽しんでるというか。まあ、翠も、そういう女性との時間も大切にしたほうがいいとは思うけど。」

「ありがとう。一応、意見として聞いておくわ。」

「まあ、人の意見なんて、そんなもの。」


花恋とは、日頃思っていることをいろいろと会話をする。

このような付き合いは初めてだったけど、心地が良い。

私が嫌がるような話題は出すこともない。


ずけずけと私の世界に入ってきて、余計なおせっかいをしてくる人が多い。

だけど、花恋は、私が言わないことに、あえて踏み込むことはない。

だから、花恋の話しは心穏やかに聞いていられる。


私は、大学ではドライというか、人付き合いが悪い雰囲気で通っていた。

だから、花恋とは、大学を出て話すことが多かった。

多摩川の河川沿いのベンチに座りながらとか。


花恋と話しながら、子どもたちが野球をしているのが見える。

小学校の野球部で、別の小学校との練習試合みたい。

野球のルールはよく知らないけど、メンバー間の連携が大切なのだと思う。


投手の役割は大きいのかもしれない。

でも、投手がミスをしても、チームで連携してリカバリーをする。

こういう連携は、どこでも必要なのだと思う。


ただ、私は、個人で動くのが好きだし、連携は苦手。

未だに、花恋以外の大学のクラスメイトとかとは話もしない。

いつも黙っているからか、最近は、話しかけられることもない。


私って、人間として何かが欠落しているのかもしれない。

でも、花恋と一緒にいて、少しは普通の人に近づいている気がする。

川沿いの道を2人で夕日を見ながら歩き、家に向かった。


お母さんのもとから走り始めた3歳ぐらいの女の子が目の前でころぶ。

起き上がる時に手をかし、お母さんに手渡す。

女の子は泣いていたけど、お母さんは優しく見守っている。


こんな微笑ましい、心静かな時間がずっと続けばなんて思う。

女の子の先には、オレンジ色の大きな夕日が輝いていた。

すすきが夕日を浴びてたなびく。


最近少し涼しくなったのか、空気が澄んで、清々しい風が吹いている。

17時の音楽が流れてきた。

野球をしている子どもたちも練習が終わり、グラウンドを片付け始める。


今日は、何もしなかったけど、心は穏やかに過ごせた。もう帰ろう。

花恋といると、不愉快な気分を味わうことはなく、温かい時間に包まれる。

そして、これまでのどす黒い闇が溶け出していく。


人生の中で、一番、心穏やかに過ごせた時間だったのかもしれない。

でも、その時は、花恋の本当の姿は知らなかった。


「花恋、どうしたの。今日は、いつになく暗い顔をして。」

「凪沙、心配させてしまってごめん。私と付き合っていた澪を殺害した犯人を見つけたの。翠という女性。私は、女性だけど、同性の澪のこと、本当に愛していた。あんな素敵な人とは、もう出会えない。」

「殺害って、澪は歩道橋から線路に飛び降りて自殺したんでしょう。」

「それは表向きのこと。澪が自殺したのは、ずっと私のせいだと悔やんでいた。でも、よく考えると、それはおかしいと気づいたの。澪が亡くなる1時間前に、1週間後の私の誕生日を一緒に過ごすの楽しみだねって私にメッセージが来ていたの。明るいスタンプがいっぱいだった。自殺する人がそんなことする? 私はずっと澪のことを調べていた。そしたら、翠と殺人アプリに辿り着いたのよ。」

「殺人アプリって、何?」

「理屈は分からないけど、そこに殺したい人を登録すると、別の世界に入って、その人を殺せば、それが現実世界では自殺したことになるというアプリ。」

「そんな幽霊みたいな話し、誰も信じないでしょう。」

「凪沙はどっちの味方なの。」

「翠に、早く、澪の自殺から早く立ち直ってもらいたいの。」

「ありがとう。でも、自殺じゃないんだって。私は、翠が澪を殺したと信じている。翠は、頭はいいけど、人付き合いをしたことがないから、人の気持ちが分からない。だから敵も多い。もしかしたら適応障害なのかもと思うくらい、極端な所があるの。しかも、相手の真意を理解できず、どうも、逆の意味に聞こえたり、自分を攻撃していると勘違いしているみたい。澪は本当は優しい人。翠のことも心配していた。でも、それをいじめと勘違いして、翠は澪を恨んでいたことが分かった。高校の廊下で、澪のこと殺してやると呟いていたらしい。」

「で、それが本当だとして、花恋は、どうしたいの?」

「まず、翠が大切にしているものを全て奪ってやる。そのために、翠に近づいたんだから。そして、その殺人アプリを手に入れたら、翠を殺してやるんだ。澪の仇を取ってやる。」


花恋の目は遠くを睨み、固く指を握りしめていた。

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