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【暴食の章】雷はまだ落ちない

 訓練場に、乾いた音が響いた。


 剣が風を切り、石床の上で靴底が擦れる。

 朝の食都はまだ静かで、人の気配も少ない。


「……っ」


 サミエムは三撃目を振り切れず、舌打ちした。


「今の、息止まってたな」


 壁際に寄りかかっていた主人公が言う。


「分かってる」


 サミエムは剣を下ろし、肩で息をした。


「二撃目までは悪くなかった」


「三撃目で考えすぎ」


「言うと思った」


 二人は顔を見合わせ、同時にため息をついた。


 ここ数日、このやり取りを何度も繰り返している。


 原因ははっきりしていた。

 クラウソラスを倒した、あの時だ。


「……なあ」


 サミエムが口を開く。


「やっぱさ、あの時なんだよ」


「だろうな」


 否定はなかった。


 クラウソラスとの戦い。

 混戦の最中、余裕なんて一切なかった。


 剣を振る。

 避ける。

 踏み込む。


 生きるために、身体が勝手に動いていた。


 三度、斬った。


 一撃目。

 二撃目。

 三撃目。


 そのどこかで――


「……雷、落ちたよな」


 サミエムの声は、今も少し信じられなさそうだった。


「落ちたな」


 主人公ははっきり答える。


 紫電が刃を走り、クラウソラスの防御を貫いた。

 詠唱も、構えもなかった。


 ただ、斬った瞬間に雷があった。


「エンチャントした覚え、ないんだよ」


「見てたけど、俺も分からん」


 だからこそ、再現しようとしている。


 サミエムは剣を構え直した。


「もう一回行く」


「今度は何も考えんな」


「それができたら苦労しない」


 一歩、踏み込む。


 一撃目。

 速い。安定している。


 二撃目。

 間は悪くない。


 三撃目――


 剣は届くが、何も起きない。


 雷は、落ちない。


「……くそ」


 サミエムは剣を振り切ったまま、動きを止めた。


「やっぱダメだ」


「今のも悪くなかったけどな」


「でも違う」


 即答だった。


「あの時は、もっと……軽かった」


 剣も、身体も。


 魔力を意識していなかったのに、

 確かに“乗った”感触があった。


「雷を出そうとしてるのが、もう違うのかもな」


 主人公が言う。


「分かってる。でもさ」


 サミエムは剣先を下げ、地面を見る。


「出たことあるんだぞ。雷」


「一回な」


「一回で十分だろ」


 強がりではない。

 本気の言葉だった。


 できた事実がある以上、諦める理由はない。


「でもさ」


 サミエムは顔を上げる。


「今やってるのって、剣振って、魔力乗せて、雷出そうとしてるだろ」


「うん」


「クラウソラスの時、そんな順番じゃなかった」


 主人公は少し考え、頷いた。


「……確かに」


 あの時、サミエムは“雷を出す”なんて考えていなかった。


 ただ斬る。

 倒す。


 その結果として、雷が落ちた。


「順番が逆なんだよな」


 主人公が言う。


「今は、雷をゴールにしてる」


「でも、ゴールが見えてないと不安なんだよ」


「分かる」


 二人は同時に苦笑した。


 サミエムはもう一度構える。


「じゃあ、雷は忘れる」


「それでいいと思う」


「でも、三撃は繋げる」


 息を整える。


 一撃。

 二撃。

 三撃。


 呼吸は切れない。


 だが、刃は静かなままだ。


「……やっぱ来ねえな」


「来たら来たで困るだろ」


「確かに」


 サミエムは剣を下ろし、地面に座り込んだ。


「なあ」


「ん?」


「お前だったら、どうする?」


 主人公は即答しなかった。


 しばらく考えてから、肩をすくめる。


「俺だったら……一回できたって事実だけ信じる」


「理屈は?」


「後回し」


「雑だな」


「今はな」


 サミエムは小さく笑った。


「でも、あの雷……」


 剣を見る。


「絶対、偶然じゃない」


「同感」


 主人公もそう思っている。


 三撃。

 息を切らさない。

 その中の一瞬。


 どこかに、まだ言葉にならない“何か”がある。


「今日はここまでにしとくか」


「……ああ」


 サミエムは立ち上がる。


「次は、雷抜きで完璧な三撃を作る」


「それでいい」


 雷は、まだ落ちない。


 だが、二人とも分かっていた。


 ――落ちる時は、また不意に来る。


 考えた末ではなく、

 必死になったその先で。

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