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【序章】魂術師は、簡単に使えない

 その依頼は、少しだけ背伸びをした内容だった。


 ゴブリンの群れ。

 三体。

 武装は簡易だが、知性はある。


「今回は俺が前に出る」


 アレクシエルが剣を抜く。

 感情は、安定している。


 ――良くも悪くも。


(この状態じゃ、魂縛は狙えない)


 それでも、試す価値はあった。


 戦闘が始まる。

 剣と棍棒がぶつかり、金属音が響く。


 一体、二体。

 順調に削れていく。


 三体目。

 追い詰められたゴブリンが、仲間の死体を見て――


 感情が、跳ねた。


 恐怖。

 怒り。

 混乱。


(今だ)


 詠唱を始める。


 言葉は、頭では分かっている。

 だが、声が震える。


「――魂……」


 次の瞬間。


 視界が、歪んだ。


 頭を殴られたような衝撃。

 胃がひっくり返る感覚。


「――ぐっ……!」


 詠唱が、途切れる。


 ゴブリンが、こちらを見た。

 牙を剥き、突っ込んでくる。


「零ッ!!」


 アレクシエルが割り込む。

 剣で受け止め、弾き飛ばす。


「何やってる!」


「……失敗、した」


 膝が笑う。

 立っているのが、やっとだ。


 感情を見る余裕すらない。


「チッ……」


 アレクシエルが舌打ちし、残りを斬り伏せる。


 戦闘終了。


 その場に座り込んだ僕を、彼は無言で見下ろしていた。


「……魂術師」


 吐き捨てるように言う。


「ふざけた職だな」


「否定はしない」


 事実だ。

 失敗すれば、前線に立つ資格すらない。


「でも」


 彼は、視線を逸らした。


「さっきの一瞬……

 あれが決まってたら、俺はいらなかった」


 感情が、微かに揺れる。


 ――認めている。


 それだけで、十分だった。

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