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【序章】砂塵の果てに

 強欲帝マモンの私室は、静かだった。


 豪奢ではあるが、過剰ではない。

 金と権力を誇示する部屋ではなく、選別するための部屋だ。


「久しいな、クラウソラス」


 マモンは、杯を傾けながら言った。


「相変わらず、こういう場を好むのだな」


 クラウソラスは、薄く笑う。


「研究者は、静かな場所を好みます」


 その声音は穏やかだ。

 だが、内に秘めた執着は、隠しきれていない。


 卓には、料理と酒。


 毒。


 それは、最初から混ぜられていた。


 ――魂術の精度を鈍らせるための、極めて特殊なもの。


「竜祭は、盛況だった」


 マモンが言う。


「お前の“素材”も、無事に集まった」


「感謝します」


 クラウソラスは、杯を口に運ぶ。


 わずかな違和感。


 だが、致命的ではない。


(……魂の感覚が、鈍い)


 彼は、すぐに理解した。


 だが、表情は変えない。


「さて」


 マモンは、肘をついて言った。


「本題だ」


「お前の目的は、魂術師だな」


「否定はしません」


 クラウソラスは、静かに頷く。


「私は、未完成です」


「師の域に、届いていない」


「だから、追い続けている」


「奪い、研究し、理解するために」


 彼は、正直だった。


 それが、彼なりの誠実さだ。


「そして――」


 一拍置く。


「今回の本命は、零」


 その名が出た瞬間、空気が動く。


「感情を色で視る魂術師」


「理想だ」


「私が、最も欲した才能だ」


 マモンは、微笑んだ。


「なら、持っていけ」


 その言葉と同時に――


 空間が、歪んだ。


 転移魔法。


 クラウソラスの足元に、魔法陣が浮かび上がる。


「……なるほど」


 彼は、愉快そうに笑った。


「そういうことか」


 視界が、反転する。


 次の瞬間。


 ――荒野だった。


 何もない。


 岩と砂だけの世界。


 そして、正面に立つ男。


「……来たか」


 僕は、息を整えながら言った。


 感情を見る。


 クラウソラスの色は――乱れている。


 毒の影響だ。


 魂術の輪郭が、ぼやけている。


「零……」


 彼は、感嘆するように呟いた。


「やはり、いい」


 魔法が、放たれる。


 即座に展開される、複合術式。


 僕は、ヘリオから買った魔道具を起動した。


 防壁。

 加速。

 視界補助。


 荒野に、砂煙が舞い上がる。


 互角。


 ――いや、紙一重だ。


「……っ!」


 詠唱速度が、違う。


 術の精度が、違う。


 毒を受けてなお、魔術師としての格が違う。


 防壁が、軋む。


「素晴らしい」


 クラウソラスは、興奮していた。


「これほどの魂術師と、正面から戦えるとは!」


 追い詰められる。


 魔道具の限界が近い。


 魂術を使う。


 ――不完全だ。


 感情は揺れている。


 だが、術式が安定しない。


「……惜しい」


 クラウソラスは、笑った。


「魂縛には、至らない」


 その瞬間。


 砂煙が、裂けた。


「――っ!」


 奇襲。


 剣が、閃く。


 サミエムだ。


 だが――


「甘い」


 クラウソラスは、即座に回避した。


 致命傷は、避けられる。


 だが、魂術が――当たる。


 不完全な魂縛。


 束縛は、成立しない。


 石にはならない。


 だが、確かに――縛られた。


「……なるほど」


 クラウソラスは、息を整えながら言った。


「未熟だが、面白い」


 そして、外套をはだける。


 そこには――古い傷。


「この傷が、分かるか?」


 サミエムの瞳が、見開かれる。


「……レイサムに、やられた」


 笑み。


「私が、殺した」


 静かな断言。


「彼は、良い騎士だった」


「だが、邪魔だった」


 その瞬間。


 サミエムの感情が、爆発した。


 怒り。

 喪失。

 憎悪。


 全てが、一本に収束する。


「……っ!」


 最後の力。


 つばめ返し。


 それはアレクシエル家奥義。


 重く、深く、逃げ場のない3点同時攻撃。


 そこに――


 エンチャント。


 雷。


 剣が、吼える。


 クラウソラスの防御が、砕けた。


 衝撃。


 砂煙が、荒野を覆い尽くす。


 やがて。


 崩れ落ちる影。


 クラウソラスは、倒れていた。


 静寂。


 荒野に、風だけが吹く。


 僕は、膝をついた。


 魂術は、未完成だった。


 だが――


 勝った。


 代償は、重い。


 だが、この一戦は。


 確かに、世界を動かした。


 砂塵の向こうで。


 新たな局面が、静かに始まっていた。



              【序章】 完

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