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【序章】竜祭への道

 マモンが去った後、部屋には重たい沈黙が残った。


 誰もが、言葉を探していた。


 だが――見つからない。


 強欲帝の語った野望は、あまりにも現実的で、あまりにも異常だった。


「……帝王を、殺す」


 アレクシエルが、噛みしめるように呟く。


「そんな話を、帝王本人の口から聞くことになるとはな」


 怒りよりも、戸惑いが強い。


 それが、この状況の異様さを物語っていた。


「だが」


 ヘリオが、低い声で続ける。


「筋は通っている」


 全員の視線が集まる。


「クラウソラスは、表に出ない」


「帝王同士の争いにも、積極的に関わらない」


「だが、竜祭には必ず来る」


 地図を広げる。


 強欲帝首都――ラクスウェル。


 円形に描かれた都市の中央に、巨大な空白。


「竜の落ちる場所だ」


 毎年、ほぼ同じ区域。


「本来、竜は周期的に現れる存在じゃない」


「だが、ここ数年は違う」


「まるで――」


 言葉を切る。


「“呼ばれている”かのようだ」


 感情を見る。


 ヘリオの色は、冷静。


 だが、その奥にある確信は揺れていない。


「竜素材は、国家級資源だ」


「魔導具、封印具、研究材料」


「魂縛石の媒介としても、極めて優秀」


 僕は、無意識に拳を握った。


 魂縛。


 成功すれば、戦況を一変させる。


 だが、失敗すれば――死ぬ。


「……竜を狩れば、クラウソラスは来る」


 僕が言う。


「餌として、十分すぎる」


 アレクシエルが、苦々しく笑った。


「つまり、俺たちが“看板”になるわけだ」


「そうだ」


 ヘリオは頷く。


「名を売る必要はない」


「竜を狩った、という事実だけでいい」


「それが、彼を動かす」


 レイサムの顔が、脳裏をよぎる。


 彼もまた、クラウソラスに人生を壊された一人だ。


「……逃げる道は?」


 アレクシエルが問う。


「ない」


 即答だった。


「竜祭は、帝国中の目が集まる」


「逃げ場はない」


「だが」


 ヘリオは、視線を僕に向ける。


「逃げる必要もない」


 感情を見る。


 期待。

 覚悟。


「零」


 名前を呼ばれる。


「魂術師として、最も揺れやすい感情は何だ?」


 一瞬、考える。


 恐怖。

 怒り。

 悲しみ。


「……希望」


 口をついて出た言葉に、自分で驚いた。


「失う直前の希望が、一番大きく揺れる」


 ヘリオは、満足そうに頷いた。


「竜祭は、希望の塊だ」


「富を夢見る者」


「名誉を欲する者」


「力を渇望する者」


「感情が、渦を巻く」


 魂縛にとって、これ以上ない舞台。


 だが――


「その分、代償も大きい」


 僕は言う。


「一日に、何度も使える力じゃない」


「倒れる」


「最悪、意識を失う」


「それでも、やるしかない」


 アレクシエルが、静かに言った。


「クラウソラスは、逃がさない」


「なら、迎え撃つ」


 言葉は短い。


 だが、迷いはなかった。


「……決まりだな」


 ヘリオが、地図を畳む。


「竜祭に参加する」


「竜を狩る」


「そして」


 一拍置く。


「クラウソラスを、引きずり出す」


 外では、街が騒ぎ始めていた。


 竜祭の噂。

 今年は、例年以上だという話。


 期待と欲望が、空気を震わせる。


 感情を見る。


 街全体が、ひとつの色に染まりつつあった。


 強欲。


 それは、マモンだけのものではない。


 この国そのものの感情だ。


 僕は、深く息を吸った。


 逃げてきた。


 生き延びるために。


 だが、ここからは違う。


「……行こう」


 自分でも、はっきりとした声だった。


「狩る側に回る」


 竜祭は、もう目前だ。


 そしてその先で――


 クラウソラスが、待っている。

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